新選組の本を読む ~誠の栞~

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 船山馨『幕末の女たち』 

短編小説集。実際にあった幕末明治の事件を題材に、時代の波間を生きる男女の愛憎を描く9編。
掲載作のうち、新選組に関わるのは「血風油小路」「真葛ヶ原心中」「ながれ藻」の3編。

「血風油小路」
伊東甲子太郎の新選組加盟から死までを描く。

史実に基づく伊東の行動を中心とする物語。
島原輪違屋の花香太夫が馴染みとして登場するものの、出番は少ない。フィクションなのだから、もっと伊東の女性関係に焦点を当てても良かったのでは。
藤堂平助が初めて伊東の道場を訪ねたエピソードは、創作だろうが面白い。
なお作者は、茨木司らの死が新選組による騙し討ちと確信しているのか、まるで史実のように描いている。

「真葛ヶ原心中」
大坂西町奉行所与力・内山彦次郎の暗殺事件をめぐる男女の物語。

内山の孫娘である安栗(あぐり)と、内山の護衛でありながら責務を果たせなかった塚本金右衛門とが、仇敵の近藤勇を討とうとする。素性を隠して、安栗は近藤の情婦となり、塚本は新選組に入隊して機会を狙う。
ところが、近藤はふたりの意図を見抜いていた。

本作の近藤勇は、血も涙もない人でなし。ここまで悪く描かれると、いっそ潔くもある。
内山暗殺事件は、西村兼文『新撰組始末記』により新選組犯行説が主流だったが、現在は疑問視する意見もある。

「ながれ藻」
元御陵衛士の篠崎慎八郎と出会った、薄幸の女おゆきの想い。

新選組に許嫁者を殺され、禁門の変で焼け出され、曖昧宿の女中に身を落としたおゆき。
篠崎と知り合って夫婦となるものの、このささやかな幸せもいつか失われる、と予感していた。
一方の篠崎は、新撃隊の副隊長として新政府に取り立てられ、前途洋々と意気込むが……

新選組(と思しき連中)が、無辜の町人を斬殺している。
ストーリー上、新選組でなければならない必然性は見当たらないが、作者にとっては新選組ならいかにもやりそうで、話を作りやすかったのだろう。
ちなみに、篠崎慎八郎のことは子母澤寛『新選組遺聞』に取り上げられており、本作はこれを参考とした様子。
篠崎の死については異説もあり、『史談会速記録』で阿部隆明が語っている。

この他の収録作品6編は、下記のとおり。

「冬の蛍」 明治13年の臼井六郎仇討ち事件が題材。六郎と薄幸の娘お玉との悲恋。
「谷地の花」 明治7年のドイツ代弁領事ハーバー殺害事件が題材。遊女小すず、領事館に勤める恋人・庄三郎、襲撃犯・田崎秀親ら3人の、皮肉な運命の巡り合わせ。
「刺客の娘」 坂本龍馬暗殺事件をめぐる、見廻組頭並・渡辺吉太郎と娘きみ、田中光顕の物語。
「葉蔭の露」 お鶴(坂本龍馬の未亡人お龍)と、再婚相手・西村松兵衛との関係を描く。
「十三人目の刺客」 文久2年に起きた、赤穂藩の家老暗殺事件が題材。刺客のひとり山下鋭三郎を主人公に、「日本最後の仇討ち」に至る顛末を描く。無名の新選組隊士が、端役で登場する。
「おらんだ時雨」 ヒュースケン暗殺事件が題材。料亭の仲居お里や、外国奉行・堀利煕との交流。

すべて、1969年から1974年にかけて「小説新潮」など文芸誌に発表された作品。

1974年、角川書店から単行本が出た時の書名は『刺客の娘』だった。
1981年の河出文庫版で『幕末の女たち』に改題された。女が脇役・端役扱いの作品もあるので、収録作いずれかのタイトルを書名にしておいたほうが良かったように思える。

幕末の女たち



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 市居浩一『高台寺党の人びと』 

高台寺党こと禁裏御陵衛士の興亡と、衛士面々の履歴について詳述した研究書。

かつて新選組の人物研究というと、近藤勇・土方歳三・沖田総司といった主流人物が多く取り上げられ、また永倉新八や斎藤一あたりにもスポットが当てられてきた。
その一方で、芹沢鴨や伊東甲子太郎といった反主流的人物については、遅れていたようだ。
後者にも研究の目が向けられるようになったのは、それほど古いことではないらしい。
著者は、伊東甲子太郎率いる御陵衛士に、早くから注目して研究を手がけた。
本書は、その長年の研究成果をまとめた労作である。

本書の内容は、「第一部 高台寺党概史」「第二部 高台寺党の人びと」の2部によって構成されている。
第一部は、伊東らの新選組入隊から残党らによる墨染狙撃事件までを、全10章にわたり解説する。
第二部は、御陵衛士に属した各人の履歴である。
取り上げられたのは、阿部十郎、新井忠雄、伊東兄弟(伊東甲子太郎と鈴木三樹三郎)、内海次郎、江田小太郎、加納道之助、清原清、佐原太郎、篠原泰之進、藤堂平助、富山弥兵衛、橋本皆助、服部三郎兵衛、毛内監物の合計15人。

著者は、新選組の側でなく御陵衛士の側に視点を置き、論を展開している。
子孫筋、各地の図書館や資料館に照会し、史料を丹念に調べ、時には聞き取り調査も行い、検討を重ねた模様。
御陵衛士の研究として質・量ともに充実しており、後続の研究書に参考として用いられることも多い。

本書は昭和52年(1977)、限定1000部の私家本として出版された。

ちなみに平成16年(2004)、著者による同趣旨の『新選組・高台寺党』が新人物往来社より刊行された。
内容は、組織の興亡と人物列伝の2部構成であること、上記15人を取り上げていることで、前著と一致する。
ただ、完全に同じというわけではない。27年の間に新しく判明した事実もあって、大幅な削除と加筆修正がなされている。
中でも伊東甲子太郎、阿部十郎、服部三郎兵衛の項目は全面改稿された。

より進んだ研究という意味では、『新選組・高台寺党』が優位であり、著者の長年の成果を知るにはこの1冊でも事足りよう。
しかし、前著にあって後著で割愛された事柄にも、興味深いものがある。例えば、藤堂平助と壬生・南部家との関わりなど、切り捨ててしまうには惜しい逸話だ。
本書『高台寺党の人びと』『新選組・高台寺党』の両方を読むことが、理想的と思う。

余談だが、著者によると「高台寺党」は後世の人々が使い出した通称であって、本来の名称は「禁裏御陵衛士」もしくは「孝明天皇御陵衛士」「泉山御陵衛士」であるそうだ。
にもかかわらず「高台寺党」を敢えて書名に用いた理由は、「御陵衛士」より世の認知度が高いとの判断であろう。



新選組・高台寺党




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 安西篤子『油小路の血闘』 

短編小説集。困難の中で生きる道をつかむべく闘った歴史上の人物を描く13編。
このうち、新選組に関わるのは表題作「油小路の血闘」

伊東甲子太郎が、同志を引き連れ新選組に加盟するところから、油小路に斃れるまでを描く。
創作による描写は控えめで、事実が淡々と展開していく。
あいまに作者の推論が直接的に述べられ、参考の史料文献も記されているなど、評伝ふうである。

伊東と近藤勇は、年齢がたった1歳違いと近い。
双方とも、実家が元郷士もしくは農民と、非武家階級の出である。
さらに、双方とも剣の師匠の跡取りとして道場を継ぐ立場だった。
最初の出会いで意気投合したのも、あるいはこのような共通点から親近感を抱いたからかも、という推測が興味深い。

御陵衛士の分離脱退後、同じく脱退を希望した佐野七五三之助・茨木司らが会津藩邸で死んだ事件について、切腹説に一切触れず、新選組による暗殺と断定している点は、正直疑問を感じた。

この他の12編は下記のとおり。(うち、幕末維新期ものは「草莽の血涙」のみ。)
「恨みぞ深き花倉の乱」 今川家の家督をめぐる、梅岳承芳と玄広恵探との争い。
「桶狭間の合戦」 織田信長が今川義元を討ち取った、名高い合戦の経緯。
「風林火山消ゆ天目山」 織田軍に追われ逃避行を続け、ついに討たれた武田勝頼の最期。
「利口過ぎた男」 小山田信茂の、武田勝頼に対する裏切りと、悲惨な末路。
「非常なる銃声」 父親の輝宗を拉致された、若き日の伊達政宗の苦悩。
「磔柱まかり通る」 伊達政宗が、豊臣秀吉とわたりあう駆け引きの数々。
「守り通した家門」 真田信之が、父・昌幸、弟・幸村と協力し、真田家を守ろうとした経緯。
「乱世の寝返り豪商」 豊臣秀吉の御用商人、淀屋与三郎の巧みな処世術。
「長岡京の怨霊」 早良親王の怨霊に怯える桓武天皇の苦悩。
「宇治の合戦」 平家追討の令旨を発した以仁王の、不遇な一生。
「浄瑠璃坂の仇討」 寛文12年(1672)に起きた有名な仇討ち事件の経緯。
「草莽の血涙」 赤報隊の相楽総三が、偽官軍の汚名を着せられて処分される悲劇。
安西作品には、女性を主人公にしたものが多いようだが、本書ではすべて男性が主人公である。

読売新聞社の単行本(1991)と、小学館文庫(1999)が出版されている。

油小路の血闘
(小学館文庫)




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 新人物往来社編『新選組史料集』 

史料集。新選組関連の研究史料を集成し、解説を付したもの。

研究系の本を読むと、論拠となる史料の引用をよく見かける。
その史料をもっと読みたいと思った時、原本を探して閲覧するのは、けっこう手間暇かかる。
現存数が少ないものとなると、大きな図書館であっても必ず置いているとは限らない。

本書は、そういう不便を解消してくれる一冊。
過去に活字化された関連史料のうち、重要性が高いのに入手困難となっているものを選び、全文もしくは主要部分の抜粋を掲載している。
下記14編を収録。

新撰組始末記〔西村兼文〕 副題『一名壬生浪士始末記』。西本願寺の侍臣が明治期に記した。
中島登覚え書 隊士の消息、甲州勝沼から箱館降伏までの回想録。降伏後の謹慎中に書かれた。
近藤芳助書翰 『新撰組往事実戦譚書』に掲載された、在隊時をふりかえる書簡。
秦林親日記 大正15年発表、篠原泰之進による回顧録。
近藤勇、土方歳三、沖田総司の手紙 近藤10通、土方8通、沖田5通の書簡を抜粋。
伯父伊東甲子太郎武明・岳父鈴木三樹三郎忠良〔小野圭次郎〕 子孫による伝記。
勝沼・柏尾戦争記〔野田市右衛門〕 地元の人物が自らの見聞を交えて書いた戦記。
島田魁日記 新選組結成から箱館降伏までの回想録。降伏後の謹慎中に書かれた。
立川主税戦争日記 甲州から箱館までの新選組戦記。降伏後の謹慎中に書かれた。
史談会速記録 安部井磐根、坂本柳佐、阿部隆明、加納通広、田島応親、内藤素行、田村銀之助の談話を抜粋。
金銀出入帳 勘定方によって書かれた新選組の出納帳。
隊士名簿に見る新選組の変遷 研究家・菊地明による隊士名簿の比較論考。
七ヶ所手負場所顕ス〔永倉新八〕 戦傷の状況を、晩年に回想して記したもの。
函館戦記〔大野右仲〕 箱館渡航前に加盟した唐津藩士による記録。

それぞれ研究家らによって解説・注解が付されており、理解しやすい。
新選組の実像を知りたい向きには、特にオススメ。

1993年にA5判の単行本(箱入り)、1995年に四六判のコンパクト版が出版された。

参考として、下記の関連記事もご覧いただきたい。
新撰組始末記〔西村兼文〕 → 子母澤寛『新選組始末記』(新人物文庫)
近藤勇、土方歳三、沖田総司の手紙 → 菊地明編『土方歳三・沖田総司全書簡集』
史談会速記録 → 山村竜也『新選組証言録』

なお、2006年には『続 新選組史料集』も刊行されている。

[追記 2014/09/21]
『新選組史料大全』が、KADOKAWAより2014年9月に出版された。
詳細は下記リンク先をご覧いただきたい。
>> 『新選組史料大全』の記事を参照する

新選組史料集



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