新選組の本を読む ~誠の栞~

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 しんせんぐルメ 誠メシ! 

新選組の隊士たちは、日々どんなものを食べていたろうか。

こういう些細なことが、意外とわかりにくい。
大きな出来事はともかく、ありふれた日常を記録に残そうとする人物が、隊内や周辺にいなかったためだろう。
前回『幕末単身赴任 下級武士の食日記』を紹介するにあたり、改めて調べてみたが、確実と思える情報は見つからなかった。

とは言え、手がかりは皆無ではない。目についた事柄をいくつか挙げてみよう。

みそづけ
沖田総司が宮川音五郎(近藤勇の実兄)に宛てた、慶応3年11月12日付の書簡がある。
その一節に「何より之味噌漬被下、難有奉存候」と、味噌漬けをもらったことへの謝辞が記される。

この味噌漬けは、江戸へ出張した土方歳三と井上源三郎が京都へ戻る際、音五郎が托したものらしい。
わざわざ持たせるからには、沖田(あるいは近藤らも含めた面々)の好物だったのだろう。
ただ残念ながら、何を漬けたものか明記がない。野菜、魚肉、それ以外……想像をめぐらすのみである。
(※参考『土方歳三・沖田総司全書簡集』

あひる
慶応3年元旦、伊東甲子太郎が永倉新八と斎藤一、そのほか腹心たちを引き連れて島原の角屋へ出かけた。
その日、廓内は休みであったので、「途中から家鴨十羽買い込み」持っていった。

この家鴨を料理させて、酒肴とする意図であったようだ。
生憎と調理法は不明だが、焼き物にでもしたのだろうか。
(※参考『新撰組顛末記』『新選組奮戦記』

うなぎ
戊辰戦争が続いていた頃のこと。
永倉新八は、同志の芳賀宜道と連れ立って、米沢から東京へ密かに舞い戻った。
浅草へ着いて山野の重箱で久しぶりで江戸前の鰻で」腹を満たした、という。

「重箱」とは、寛政年間から続く蒲焼きの老舗。現在は、赤坂で本格的料亭として営業しているとか。
永倉らがこの店へ立ち寄ったのは、店の者と顔見知りだったなど、安心できる理由があったのだろう。
(※参考『新撰組顛末記』『新選組奮戦記』

たくあん
小野路の小島家に伝わる逸話。
土方歳三は、小野路・橋本家の自家製の沢庵が大好きで、訪問のたび山盛りの沢庵をパリポリ食べていた。
ある時など、樽ごと担いで帰ったという。

農家が漬け物を作る樽は、かなり大きい。
例えば四斗樽なら、高さも直径も約60センチ、容量は約72リットル。さらに大きいものが使われることもある。
沢庵がぎっしり詰まっていたら、独りで担ぐのは困難なのでは。
小さい樽に移してもらったのか、それとも「これほど好物だった」という誇張が入っているのか。
(※参考『新選組余話』

とろめし
これも小野路の小島家に伝わる逸話。
近藤勇が上溝村の佐藤為彦を訪問した折、先客の鷹取胖斎と会った。
夕食の時、とろめし(とろろかけご飯)の大食い対決をすることになり、ふたりは競って食べた。
近藤は19杯、鷹取は20杯食べて、勝負がつく。負けず嫌いの近藤も兜を脱いだ、という。

上溝村は相模国高座郡(現在の相模原市)であり、小野路村とは近い。
佐藤為彦は、上溝村の名主。小野路の小島家や橋本家、近藤一門とも交流があった模様。
鷹取胖斎は、上溝村在住の蘭方医。佐久間象山の門人であり、師匠に劣らぬ奇人であったと伝わる。
近藤も鷹取もとろめしが好物だったそうだが、それにしてもよくこれだけ食べられたものだ。
(※参考『新選組余話』

伝承の類いは、どこまで正確な事実なのか、検証が難しい。
しかしながら、当人と面識・交流のあった人々が伝えた話は、それなりの信憑性を感じさせる。

小野路 小島資料館の門
↑小野路 小島家(小島資料館)の門

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まとめ そのほかの関連記事

 葉室麟、木下昌輝ほか『決戦!新選組』 

アンソロジー。6人の作家による新選組の短編小説を収録。
作家6人は、葉室麟、門井慶喜、小松エメル、土橋章宏、天野純希、木下昌輝。
本書の責任表示にも「著者」として6人が列記されている。ただ、当記事タイトルには全員を書き切れないので、便宜的に最初と最後の2人を挙げた。悪しからずご了承いただきたい。

収録作品6編は、以下のとおり。

葉室麟「鬼火」
沖田総司は、少年期の忌まわしい体験によって心的外傷を負う。
以来、感情をうまく表わせない、人に心を許すことができない性格となり、そのまま成長した。
試衛館一党が浪士組に加わって京に上った後、残留者同士の間で勢力争いが起きる。
邪魔者を粛清するよう命じられた総司だが、敵に後れを取ってしまう。その危機を救ったのは芹沢鴨だった。
芹沢は、壬生浪士組を土台に「尊王義軍」を組織しようと、様々な方策を果敢に断行していく。
一方、富商からの押し借り、大坂力士との乱闘事件、大和屋焼き討ち事件などで、乱暴者と恐れられた。
芹沢の優しさを知る総司は、彼の生き方に惹かれ、その行く末を見届けたいと思う。ところが――


本作の沖田総司は、周囲の人間に心から打ち解けられない。土方歳三に対しても、常に距離をおいている。
そんな総司が、芹沢鴨に対して単なる親愛以上の感情を抱く展開は、珍しいと思う。

本作の芹沢鴨は、武田耕雲斎や藤田小四郎と連携して攘夷を実行するため、浪士組に加わった。
壬生浪士組を「尊王義軍」にするため、戦闘集団として組織編成し、鉄の規律を設けたのも芹沢である。既成の作品では、土方が組織編成や法度の制定を行なったとされる例が多い。しかし、本作では「農民出身の近藤や土方にできることではなかった」と記述されている。
芹沢が有栖川宮に接近したのも、攘夷を実行するための一方策。
これほど具体的な目標を持ち、ひたすら努力・邁進する芹沢の人物造形は、ユニークで興味深い。

ちなみに、作者が新選組を描いた作品に、篠原泰之進を主人公とする長編『影踏み鬼』がある。
作者はおそらく、近藤・土方体制に従わない人物のほうが好きなのだろう。

門井慶喜「戦いを避ける」
元治元年6月5日の夜。
近藤勇は、わずかな人数を率いて、池田屋へ御用改めに立ち寄る。
思いがけずここが過激志士らの会合場所と知ったとたん、不本意ながら戦闘に突入してしまう。
焦燥の中、養子の周平が一刻も早くこの場へやってくるよう、ひたすら念じた。
近藤が谷三兄弟の末弟・喬太郎こと周平を養子に迎えたのは、ある大きな計画のためであった。
それは、この皇国(日本)を革めること、そのため新選組を強力な組織に仕立てて資することに他ならない。
やがて土方歳三のグループが駆けつけ、周平もようやく姿を現すが――


大坂にある谷道場を、近藤と原田左之助が訪問する場面が印象的。
本作の谷三十郎は、備中松山の元藩士というより、まるで「浪花の商人」。近藤とのやりとりがユーモラス。
万太郎と喬太郎が評価されると、すかさず自分も売り込む抜け目なさに、近藤もたじたじ。

近藤と周平との関係を描く小説は複数あるが、本作の場合は、板倉勝静(老中、備中松山藩主)が関連した新選組増強計画のあたりにオリジナリティを感じる。
司馬遼太郎「槍は宝蔵院流」、早乙女貢「槍の三十郎」、小松エメル「流木」などと読み比べるのも面白い。
また、近藤の熱しやすく醒めやすい性格は、作者の『新選組颯爽録』にも描かれている。

小松エメル「足りぬ月」
藤堂平助は、幼少期「藤堂和泉守の御落胤」を口実に実母から厄介払いされた、と信じて成長した。
人に必要なのは才と運。運はあれど才が今ひとつ及ばない己には、才のある誰かが必要だった。
山南敬助と出会い、彼の力量を頼みにして、いつか成功を得ようと決める。
山南の伝手で知りあった伊東甲子太郎は、さらに優れた容姿と文武の才を持つ魅力的な人物であった。
それに引き換え、近藤勇は剣・学問・要領・容姿いずれも秀でたもののない凡庸な人物、と目に映る。
やがて「夜道を照らす月」とも頼んだ山南を失った時、伊東を新選組にぜひ入隊させようと企図する――


本作の平助は、複雑な生い立ちから、人間関係を益になるか否かで判断する習慣がある。
損得ぬきの信頼なぞ理想論に過ぎないと思ってきたが、心の奥底では何よりそれを渇望していた。

プライドが高い一方で自己評価の低い平助が、それを自覚しないまま人生を模索する姿は、苦しく切ない。
得がたいものを得ようとする努力は大切だが、すでに得たものの価値に気づかず投げ捨てて「もっと素晴らしい何か」を探し求める生き方は不幸だ。
ただ、それは平助に限った話ではなく、人はこうした面を多かれ少なかれ持っている気がする。

こういう人柄の平助を、卑小な者ではなく共感できる主人公として描いた、作者の力量を感じる。
そのほか、近藤勇、伊東甲子太郎、斎藤一といった脇役の人物も魅力的。
作者の『夢の燈影』『総司の夢』とのつながりを見出すのも、楽しめると思う。

「足りぬ月」というタイトルは、少しだけ欠けた姿の月を意味している。
昨年12月13日の当方ツイートを引用しておく↓

【慶応3年11月18日=1867年12月13日・京都の夜空】
現地時刻で月出18:54、月没9:10(翌日)、月齢16.9(右側が少し欠けている)。
嵯峨實愛の日記によると、18日は晴れて雲が南へ行くのが見えたとか。
油小路事件の時、雲さえ無ければ月もよく見えたはず。
>>Twitter「誠の栞」‎@bkmakoto 2016/12/13

完璧なものだけに価値があるのではなく、多少不足があっても素晴らしいものは素晴らしい。
そのことに平助が気づいたのは、命が尽きようとする瞬間だった。

土橋章宏「決死剣」
慶応3年末、新選組を含めた幕府勢力は京都を引き払う。
永倉新八は、愛する内妻の小常を亡くし、生後まもない娘お磯とも別れ、戦いに臨む覚悟を決める。
負傷した近藤勇、病状が進んだ沖田総司は、戦列を離れた。
布陣した伏見で戦端が開かれると、ここを死に場所と定めた新八は、獅子奮迅の戦いを繰り広げる。
新八にとって、時流も政治も思想も関係ない。剣を極め、信頼する仲間とともに戦うこと、先行きはわからなくても命あるかぎり今を生きることが、何より大切だった――


戦いの描写は迫力満点。
沖田が得意の三段突きを凌駕する必殺技を繰り出したり、新八が剣で薩摩の銃隊を圧倒したり、アクション映画的な味わいがある。

鳥羽・伏見戦争の場面で、新政府方の先込ミニエー銃に対し、新選組は火縄銃を装備している。
幕末、短期間に銃器が目覚ましく発展したのは事実。とはいえ、火縄銃から一足飛びにミニエー銃が導入されたわけではない。時期や地域によって、ゲベール銃やヤーゲル銃が用いられもしたし、幕府方にもミニエー銃・ドライゼ銃・シャスポー銃などを導入していた部隊はあった。
幕府や会津藩が軍制改革を進めていたのだから、新選組もゲベール銃くらいは装備していたと思う。
戊辰戦争で火縄銃が投入されたのは、軍備が遅れていた小藩の勢力、もしくは装備や人員が極端に不足した局面ではなかろうか。

新八の、同志たちと別れても戦いぬき、時代の移り変わりを見つめつつ、己の生を全うした生涯。
本人に「死に遅れた」という思いはあったかもしれないが、亡き盟友たちの分まで生きた、と感じられた。

天野純希「死にぞこないの剣」
会津にやってきた斎藤一は、土方歳三の代理として新選組隊長の任に就く。
松平容保に初めて親しく言葉をかけられ、この主君のために戦おうと決意を新たにした。
白河の攻防戦では、同盟軍の一翼を担って戦い、敵を退ける。しかしその後、新たに着任した総督の指揮が振るわず、劣勢に陥り撤退を余儀なくされた。
次いで、母成峠の守備につく。ところが、傷が癒えて戦線に復帰した土方は、会津藩の敗北を予言する。
曰く、兵員不足の母成峠は突破され、城下戦になる。そうなれば同盟は瓦解するだろう。
「会津を出て蝦夷地へ渡り、徳川旧臣による新政権を樹立する」という壮大な計画に誘われ、一の心は迷う。
やがて、霧を衝き山中の険路を踏破した敵軍が、猛攻を開始する。応戦する守備勢だが――


斎藤一の視点から、会津戦争の苦しさが描写される。
軍事能力より家柄を重視した同盟側の人事。たとえ能力があろうと、軽格者の進言は採用されない。
それらが影響して敗色が濃くなると、ついに心が離れていく者も出る。
このような状況の中、一が敢えて会津に残り戦い続けるに至った理由は、単純だけれども深く大きい。

土方は、合理的な判断から見切りをつけ、新天地を求める。
ただ本作では、一と対比させるため、このように描かれているのだろう。
実際のところ、当初は救援要請が第一だったと思われる。最初から旧幕海軍との合流が目的ならば、新選組を大鳥圭介に預けて米沢方面へ向かう必要はなかった。

戊辰戦争後、明治を生きる一の心境には、土橋章宏「決死剣」の永倉新八に似通ったものを感じた。
性格や生き方はそれぞれ違っても、生き残り幹部としての精神には共通項がありそうだ。
戦後にこのふたりが会ったとしたら、どんな話をしたのか……そんな想像をせずにいられない。

木下昌輝「慈母のごとく」
土方歳三は、鳥羽・伏見の戦場で、旧幕将兵の士気がまったく振るわず、逃げ出すさまを多く目撃する。
やはり鬼となって叱咤激励する指揮官がいなければ、勝てはしない。己は、部下に怯懦の振る舞いを許さない。
近藤勇は、そんな歳三を「厳しいだけでは人はついてこない」と諫める。
それでも歳三は、自分の正しさを信じて疑わなかった。
流山で敵に包囲された時、近藤は指揮官として責任を取り、武士として死ぬため、切腹しようとする。
それを止めた歳三は、一か八かの起死回生に賭け、新政府方へ出頭せよと勧める。
やむなく応じた近藤は、別れ際、歳三にある「約束」をさせるのだった――


「鬼」と畏れられた土方歳三が、戊辰戦争の中で「仏」に変わり部下たちから慕われるようになった経緯の裏には、近藤勇との「約束」があった、という物語。
歳三は、近藤を死なせた償いとして「約束」を守るが、最後の戦いでは破らなければと心に決めた。
ところが激戦の最中、目の当たりにしたのは、歳三のそんな思いとはまったく裏腹な光景だったのだ。
予測が外れてむしろ良かったと思わせる結末が、切なくも温かい。

脇役の野村利三郎と島田魁が、それぞれ妙味を見せている。
野村は、意欲的だけれど強情な性格。何かにつけ他人の非を糺しては叱りつける。しかし、戦いでは常に危険な役回りを引き受けるので、人望がある。
島田は、野村をかつての歳三に似ていると評するが、歳三は「俺はあんな馬鹿じゃない」と不満顔。
そして宮古湾海戦では、やはり野村が真っ先に敵艦へ飛び込んでゆくのだった。

歳三が宇都宮戦で味方の兵を斬ったこと、二股台場山で部下たちを労ったこと、いつしか子に慕われる「慈母」の如く配下の者たちに慕われたこと、箱館市街戦で「退く者は斬る」と宣言したことなど、多くの史料や通説を採り入れつつ、巧みに独自の展開へ落とし込んでいる。
その手法は、『人魚ノ肉』でも活かされていた。

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収録作品の初出は、『日刊ゲンダイ』2016年11月8日~2017年5月1日。
本書は2017年5月、講談社より出版された。四六判ソフトカバー。電子書籍もある。

決戦!新選組
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 歴史時代作家クラブ編『新選組出陣』 

アンソロジー。歴史時代作家クラブに所属する作家9人が、新選組を題材とする短編小説を競作。
それぞれ興味のある隊士を選び、書き下ろした。
巻末に、執筆陣による座談会が収録されている。

「花は桜木 ―― 山南敬助」 天堂晋助
山南敬助は、なじみの遊女とめを連れて、新撰組を脱走した。
胸を患うとめは、故郷の山陰の海を見たいと言う。
その望みを叶えてやろうと旅路をたどりながら、山南は来し方を様々に思い返す。
江戸へ出て剣術修業をするうち、近藤勇ら試衛館の面々と出会い、浪士組に加わり、新撰組を結成し……
死を覚悟した戦いの日々も意欲に溢れていたはずなのに、その情熱はいつしか冷めてしまった。


山南と追ってきた沖田総司とのやりとりが、目新しく感じられた。
ただ、脱走の動機が今ひとつ呑み込めない。
健康上の問題を抱えているわけではなく、ただ「死に飽きた」と言う。また、大名然とふるまう近藤勇に対して、同志すべてが平等であるべき新撰組の在り方に反していると、不満を抱いた様子。
それらが理由ならば、単身脱走すればよいと思う。とめを救うにしても、逃亡の旅に連れ出すのは過酷。
合理的な判断ができないほど精神的に疲れ切っていた、と解釈すればよいのだろうか。

「終わりの始まり ―― 河合耆三郎」 響由布子
勘定方の河合耆三郎は、幼い頃から霊感があり、長じるにつれ霊能力を身につけた。
しかし、人に話しても理解されるどころか奇異の目で見られかねないので、秘密にしている。
新選組では、隊士に憑いた霊を除き、屯所の霊的守りを固めるなど、密かな役割を自主的に担っていた。
ただ、同じように霊感体質の松原忠司とは打ち解けて、何かと相談しあう仲になる。
ある日、西本願寺屯所に見知らぬ僧がやって来た。
この僧を怪しいと直感した耆三郎は、屯所の霊的結界を強化しようとするものの、怪異に襲われる。


新選組とオカルトを組み合わせたのみならず、河合耆三郎を主人公として、勘定方らしく算法の能力を霊的分野にも活かすところがユニーク。松原忠司とのコンビも面白い。
河合と松原について子母澤寛『新選組物語』を読んでいれば、なお楽しめよう。

フィクションを史実にリンクさせていく工夫が上手いと感じられた。
また、この事件が新選組だけでなく、幕府や日本全体に影響を及ぼすと予測させるスケール感もよい。
実際の歴史の裏にもこのようなことがあったかも、などと想像したくなる。

「京の茶漬け ―― 山崎烝」 飯島一次
慶応4年1月、新選組の伏見陣地は、開戦前の緊張感と一時の静けさに包まれていた。
2年半前に入隊した江戸出身の「俺」が独りでいるところへ、山崎烝が声をかける。
「おまはん、京の茶漬けて、知ってるかいな」
たわいない会話は、京坂と江戸との習慣の違いや、お互いの身の上話に及ぶが――


隊士「俺」の一人称で書かれている。その文体にまず仕掛けがあった、と気づかされるのは最後。
長閑な世間話が続くのに、いきなり真相が暴かれる急転直下は、直前まで予想できなかった。
よく考えれば陰惨な結末だが、まるで落語のオチのように軽妙な味わいを持たせたところが巧い。
山崎烝の人物像もなかなか魅力的。

「誠の桜 ―― 市村鉄之助」 嵯峨野晶
慶応3年、14歳にして入隊した市村鉄之助は、厳しい稽古や雑用にも懸命に取り組む。
内部粛正を目の当たりにして、新選組の現実を思い知りながらも、早く一人前になりたいと努めた。
病に伏した沖田総司の看病をするうち、鳥羽伏見戦争が勃発し江戸へ撤退することに。
兄・辰之助が脱走しても、自らは隊に残り、土方歳三の側付きとして奮闘する。
ところが、箱館の戦局が押し詰まった頃、土方から脱出するよう言い渡されるのだった。


前半では、馬越三郎が登場し、武田観柳斎の粛清が描かれる。
実際のところ、慶応3年にはふたりとも在隊していなかった可能性が大きいようだが、子母澤寛『新選組物語』のアレンジとして面白い。

オリジナルの登場人物・お佳代と織江の存在が、物語に奥行きと温かみを持たせている。
戊辰戦争終結後にも印象的な出来事がひとつあれば、いっそう良かったような気がした。

「竜虎邂逅 (りゅうこかいこう)―― 近藤勇」 岳真也
慶応3年11月、若年寄格・永井玄蕃頭尚志を訪ねた近藤勇は、偶然やって来た坂本龍馬と引き合わされた。
互いに変名を名乗りながらも相手の正体に気づいた上で、今後の政局について語りあう。
しかし、それからまもなく龍馬も近藤も世を去った。
永井は、蝦夷地へ渡り箱館戦争に参戦するも、終戦後の明治を生きて天寿を全うする。


永井尚志の視点から見た近藤勇と坂本龍馬、という捉え方は面白い。
ただ、本作の近藤は龍馬の発言に驚いてばかりで、いささか物足りない。
たとえ能弁でなくても、一言くらい鋭く切り返して、龍馬を感心させるところが見たかった。

全体として、もっと永井尚志の生き方に踏み込んでも良かったような気がするが、そうすると新選組の話ではなく「永井尚志伝」になってしまいかねないので難しいだろうか。

「最後に明かされた謎 ―― 土方歳三」 塚本青史
江戸帰還から甲州、北関東、会津、蝦夷地と、土方歳三は戦い続ける。
折々、郷里多摩時代のこと、新撰組結成以降の在京時代のことなど、過去の出来事が思い出された。
箱館で、見廻組・今井信郎と話すうち、話題は坂本龍馬の暗殺に及ぶ。
会津藩家老・西郷頼母や、元若年寄・永井尚志も加わって話すうち、事件の真相が見えてくる。


新撰組の歴史を振り返る描写が、やや冗長に感じられた。
詳しくない読者に対しては親切と思う。ただ、他の収録作は予備知識のある読者に向けて書かれているのに、なぜ……。ひょっとして、本作が他の作品の分まで解説を引き受けているのだろうか?

細かいながら、多少引っかかる点がいくつかあった。
例えば、歳三の郷里が「武州多摩郡桑田村石田」と書かれている。明治22年に石田村と近隣村々が合併し「神奈川県南多摩郡桑田村」が発足した事実はあるものの、幕末に桑田村は存在していない。
また、松前藩士・桜井某らを使者として派遣したくだりには、彼らを峠下で捕虜にしたとある。しかし実際、桜井長三郎たちは藩内抗争処理のため本州へ渡り箱館へ戻ってきただけで、戦闘の捕虜ではない。

坂本龍馬の暗殺は、直接関与したわけではない新撰組にも多大な影響を及ぼした、重要事件だとは思う。
ただ、「龍馬が存命なら戊辰戦争は起きなかった」とまで言えるのかどうか、考えてしまった。

「時読みの女(ひと) ―― 永倉新八」 鈴木英治
剣術修業のため諸国を廻り、江戸へ戻ってきた永倉新八は、本所亀沢町の百合元昇三道場に寄宿していた。
ある日の外出中、水路に転落しおぼれかけた女を救う。
お夕那と名乗った女は、新八に好意を寄せてくる。ふたりはやがてわりない仲となった。
しかし新八は、坪内主馬道場・師範代の座をかけた叢雨郷兵衛との試合を間近に控えており、色恋に迷っている余裕などはない。
そんな時、同門の片桐真之丞が、新八の命を狙う者がいるので用心するよう忠告にきた。
大坂で新八に斬られた強盗一味の頭目が、死の間際に刺客を雇ったのだという。
新八は、刺客の気配に気づきながら、お夕那への思いや試合への迷いも抱え、心を悩ませる。


文久元年頃の永倉新八を主人公とする、ミステリータッチの物語。
迷い悩みながら剣に情熱を注ぐ青春の日々が、活写されている。
親友の市川宇八郎も登場。沖田宗次郎(総司)は、時々訪ねてきて試合稽古をする仲。
お夕那に卜占の才能があり、その予言のとおりに新八が生きていくことを示唆して終わるのが面白い。

「天孤の剣 ―― 沖田総司」 大久保智弘
小野路の小島家へ出稽古に訪れた沖田総司は、同家屋敷の大屋根に上り、遠くを見渡していた。
「私たちの行く末を見たい」と言った彼が、そこで何を見たのかはわからない。
しかし、それを目撃した増吉少年(後の小島守政)は、夕陽に照らされた姿を心に深く刻む。
剣にかけては天才ながら、門人たちにつける稽古が荒っぽく、怖れられる総司。
山南敬助の優しく丁寧な指導とは、対照的だった。
そんな若い総司が、やがて試衛館の面々とともに京へ上り、目覚ましい活躍を見せる。
新選組の動向は、多摩にも手紙によって報告された。


沖田総司の生涯を、主に小島鹿之助と増吉父子の視点から描く。
近藤周斎、佐藤彦五郎、井上松五郎なども登場。近藤勇や土方歳三の前歴にも触れている。

多摩の剣法・天然理心流の興起と、それを支えた豪農層のつながりが、なかなか興味深い。
郷党の人々が、激動の時代における総司の生き方をどのように見ていたか、彼にどのような期待を抱いていたか、それらに焦点を当てたところがユニークと言えよう。
多摩の地理や風土も、現地取材の成果によってリアルで魅力的に描写されている。

タイトルを最初は「天狐の剣」と思ったが、よく見たら「天孤の剣」だった。
天に向かってひとり立つ、という意味らしい。
短い生涯の中で、彼は見たかった景色を見ることができたのだろうか、と思った。

「誠の旗の下で ―― 藤堂平助」 秋山香乃
藤堂平助は、尊皇の志を貫くため、伊東派の分離脱退に同行しようと決意する。
永倉新八は、そんな平助を呼び出して真意を糺し、苛立ちと無念を吐露する。
平助もまた、脱退は盟友らへの裏切りと感じていたが、かといって留まり続ければ自らの志を裏切ることになってしまう、という二律背反に苦しんでいた。
それでも、平助の決意は揺るがない。もし互いの組織が武力をかけて衝突する日が来たら、その時は新八に斬られて死ぬと、半ば冗談、半ば本気で言い置くのみだった。


伊東派の分離画策から油小路事件に至るまで、藤堂平助の生涯と苦悩を描く。
作者の初期長編『新選組藤堂平助』との共通項も多い。
ただ、前作にあった粗削りな面やそこはかとないBL風味は見られず、いっそう読みやすくなっている。
短編ながら、平助が新撰組を去り盟友らと戦うことになる心境はきっちり書かれており、深く共感できる。
永倉新八との友情が強調されているところも、興味深い。

新撰組を去ってもなお「誠の旗の下で」誓った志のために生き、「誠の旗の下で」戦い命を散らした平助の姿が、鮮烈な印象を残す。

【特別企画】「新選組誕生と清河八郎」展を観に行く 座談会 ―― 鳥羽亮・秋山香乃他
2013年、日野市立新選組のふるさと歴史館にて開催された特別展を見学しての座談会。
参加者は、本書執筆陣から鳥羽亮・秋山香乃・鈴木英治の3人と、清河八郎の直系子孫と、同館の学芸員。
特別展の感想、史実と創作との兼ね合い、作家9人が競作した本書の意義などを語りあう。

---
各作品に、主人公隊士の人物紹介が付いている。
150字程度の簡単な解説だが、読者に対する配慮として親切と思う。

「新選組」「新撰組」の表記は、収録作ごとに異なっている。
作家それぞれの方針を尊重し、本書全体で統一することは敢えて控えたのだろう。

2014年、単行本が廣済堂出版より刊行された。責任表示は、執筆作家9名すべてが列記されている。
2015年、徳間文庫版が出版された。責任表示は「歴史時代作家クラブ」のみ。文庫版解説は菊池仁が担当。

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短編小説の関連記事

 池波正太郎、森村誠一ほか『血闘!新選組』 

アンソロジー。10人の著名作家による、新選組を主題とした短編小説の傑作選。
収録作品は、当ブログではすでに紹介済みのため、以下のとおりまとめ記事とする。

池波正太郎「色」
新選組の興亡を背景に、土方歳三と経師屋の女主人お房との、出会いと別れを描く。
詳しくは、池波正太郎「色」を参照。

大内美予子「おしの」
沖田総司と武家娘おしの、ふたりの衝撃的な出会いと再会、そこから始まる苦しい恋。
詳しくは、大内美予子『沖田総司拾遺』を参照。

藤本義一「赤い風に舞う」
但馬出石の豪商宅に奉公する娘お鈴と、桂小五郎を追ってきた山崎烝との出会いと別れを描く。
詳細は、藤本義一『壬生の女たち』を参照。

宇能鴻一郎「群狼相い食む」
床伝の娘おみの、彼女を狙う不逞浪士たち、そして危機を救おうとする斎藤一の活躍。
(※「軍狼相い食む」と表記しているサイトを見受けるが、おそらく変換ミスであろう。)
詳しくは、宇能鴻一郎『斬殺集団』を参照。

南原幹雄「女間者おつな」
山南敬助を愛し、そのために自ら進んで密偵となった女の悲劇的な末路。
詳しくは、南原幹雄『新選組情婦伝』を参照。

火坂雅志「石段下の闇」
幽霊の見張りに立たされた新選組隊士・九戸市蔵が、情婦と家族との板挟みになって悩む。
詳しくは、火坂雅志『新選組魔道剣』を参照。

津本陽「祇園石段下の血闘」
薩摩藩士・指宿藤次郎が新選組に潜入し、身元が割れる前に脱走するも、見廻組と闘うことになる顛末。
詳しくは、津本陽『明治撃剣会』を参照。

新宮正春「近藤勇の首」
芹沢派の生き残り・平間重助と、刑死を免れた近藤勇との、知られざる対決を描く。
詳しくは、 新宮正春『勝敗一瞬記』を参照。

中村彰彦「五稜郭の夕日」
箱館を落ち延びた少年隊士・市村鉄之助を、土方歳三の義兄・佐藤彦五郎が庇護する物語。
詳しくは、中村彰彦『新選組秘帖』を参照。

森村誠一「剣菓」
明治半ば、東京の裏街に住む老人・入布新(永倉新八)と、内気な少年・留吉との、友情と師弟愛を描く。
詳しくは、 森村誠一『士魂の音色』を参照。

収録作一覧を見て、なかなか面白いラインアップと思った。
編集と解説は、末國善己が担当している。
2016年、実業之日本社文庫より刊行された。

血闘! 新選組
(実業之日本社文庫)
>>詳細を見る




ちなみに、さいとうたかをのマンガ(劇画)にも『血闘!新選組』と題する作品があり、リイド社から単行本が出ている。間違う人はそういないと思うが、念のため要注意。

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 樹なつみ『一の食卓』 

長編マンガ。タイトル読みは「はじめのしょくたく」。
パン職人の少女・明(はる)と、元新選組の斎藤一こと藤田五郎が、明治の世を生きていくさまを描く。

樹なつみの作品は、少女マンガらしい華やかなキャラクターが印象に残る。
のみならずストーリーも面白い。特に、心理戦や政治的な駆け引きの描写が、個人的に好みだ。
主人公が一本気で正直な人物であっても、脇の味方や敵には権謀術数に長けた者がいて、目的達成のため様々な手段を用いて闘う。時には、世界規模の壮大な争いが繰り広げられる。
このような闘争を絵にするのは難しいだろうが、それを巧みに描き出すのが作者の才能と感じる。

この作者が、新選組の生き残り・斎藤一を登場させ時代ものを描くと知って、興味を惹かれた。

幕末の慶応4年(1868)、上野戦争によって戦災孤児となった少女・明。
仏人フェリに助けられ、彼の営むベーカリー「フェリパン舎」で働くことに。
懸命に修業し、15歳にしてパン職人の才能を開花させ、店を切り盛りできるまでに成長した。

そんな明治4年(1871)のある日。
築地ホテル館を訪ねた明は、岩倉具視からひとりの男を紹介される。
長身に黒衣をまとい、昏い眼をした無表情な男は、どこか狼を思わせた。
「下男でもよいから、この男をフェリパン舎に置け」と命令され、困惑し憂鬱になる明。
しかし男は、明が焼いたパンを完食した。当時、フランスパンは「皮が固く食べにくい」と不評だったにもかかわらずのことであり、これをきっかけに明の警戒心が解ける。

「藤田五郎」と名乗ったその男は、両刀を置き、身なりを改め、住み込みの下男となった。
納品(配達)や薪割りなど力仕事を任され、寡黙ながらよく働くものの、何やら隠し事がある様子。
ある日の夕方、新島原(新富町の花街)へ五郎を探しに行った明は、怪しい浪人の2人組に捕まる。
言いがかりをつけられ、斬り殺されそうになったところを救ったのは、五郎だった。

五郎には公にできない前歴や秘めた目的がある、と気づいてしまった明だが、本人にそれを問い質すことはできなかった。もし穿鑿すれば、この人は出て行ってしまう。二度と会えなくなる。
それならいっそ何も知らずにいたほうがよいと思うほど、明の心は彼に惹かれ始めていた。


主な登場人物については、以下のとおり。

西塔明(さいとうはる)
苦労に負けず前向きに頑張る、おきゃんな15歳。
もとは江戸・谷中の長屋に住む夫婦の一人娘。父親は、不忍池近くで水茶屋商売をしていた。
上野戦争の際、彰義隊の残党に両親を斬殺され、火の中に呆然と立ち尽くしていたところ、別の彰義隊隊士に救い出された。路傍で、たまたま通りかかったフェリに拾われる。
フェリの恩に報いようと懸命に働き、パン作りの秘伝を教わるほどになった。それを嫉んだ他の職人たちが「色仕掛けで取り入った」と中傷し出ていったため、人手不足の店を切り回すのに苦労している。
フランス料理も勉強中。フェリからもらった耳飾り(ピアス)をつけている。
名字を名乗ったのは明治3年から。「西塔」は、母の出身地の村名に因む。

藤田五郎
もとは新選組の三番組長・斎藤一。
会津には特別な思い入れがあるらしく、戊辰戦争では会津に残って戦い続けた。
降伏後、どういう経緯があったものか、薩摩藩・西郷隆盛の配下となり、西郷の命によって川路利良の密偵となる。しかも背後には大久保利通がいるという、複雑怪奇な立場に置かれている様子。
東京では本郷に住まいを持ち、新選組時代からの従者・清水卯吉に家内を任せていた。
任務のため、フェリパン舎に下男として入り込むが、同舎の人々を巻き込んではいけないと考える。
食べ物の味には執着しない性格。単に食事を残すのはよくないと思い、明の焼いたパンを完食した。
それがもとで明から好意を寄せられるが、乙女の恋心にはまったく気づかない鈍感ぶり。

フェリックス・マレ
スイス系フランス人。27歳。周囲からは「フェリ」「フェリさん」と通称されている。
パリで修業し、上海経由で幕末の横浜へやってきたらしい。
東京・築地の外国人居留地に築地ホテルが開設されると、その料理長として招聘された。
一方、居留地内に自分の店フェリックス・ベーカリー(通称フェリパン舎)を営む。
年齢や性別によって差別することなく、明の味覚とセンスを高く評価している。
一見クールな美形だが、感情の起伏がずいぶん激しい。明が作ったパンの出来に感激したり、フランスパンの良さが日本では理解されないことに憤ってみたり。
五郎の受け入れに当初かなり難色を示すものの、本人に会うと、真のサムライを間近に見た喜びに萌えまくる。

佐助
銀座丸木屋の跡取り息子。パン作りの修業と称してフェリパン舎に入り浸り、仕事を手伝う。
明に好意を寄せているが、明からは友達か兄弟、もしくは同業の同志としか思われていない。

徳三(とくぞう)
フェリパン舎の職人。温厚な人柄。一緒に働く明を、父のように優しく見守っている。

お吟
もとは柳橋の売れっ子芸者。高級料亭・富岳楼を、女将に代わって切り盛りするやり手。明の理解者。
人力車夫をしていた弟を亡くし、形見の衣類を五郎にゆずる。

岩倉具視
言わずとしれた明治政府の大立て者だが、依然として直衣に烏帽子の公家姿。
鷹揚な殿様として振る舞いながら、観察眼は鋭く、穏やかな口調で毒舌を吐く。
出店の便宜を図るなどフェリの後援者であるが、無理難題を押しつけることも多く、フェリには「今まで会った日本人の中で最も食えない人物」と評される。明にも、苦手な人と敬遠されている。

清水卯吉(しみずうきち)
元新選組隊士、年若い。斎藤一の従者として共に会津戦争を戦い、降伏後の斗南移封にも同行した。
(※実在人物。慶応3年秋頃に入隊、年齢や出身地は不詳。降伏後の消息も伝わっていない。)
五郎を今も「斎藤先生」と呼び、心服している。
郷里に帰るよう諭されても聞き入れず、五郎の身辺をあれこれ世話している。料理が得意。
密偵の任務に時間を充てたい五郎が、卯吉をフェリパン舎に連れてきてパン作りの手伝いをさせたところ、器用で飲み込みが早いため重宝される。

原田左之助
もとは新選組の十番組長。(※先年、新選組内の小隊は八番までだったとする考察が発表され、原田の役職は「小荷駄」の組頭から「七番」組頭に移行したと指摘されている。)
上野戦争に彰義隊の一員として参戦、死亡したと思われていたが、なんと生きていた。
突然に五郎を訪ねてきて、互いの無事を喜び合うものの、何やらワケありの様子。

永倉新八
松前脱藩、もとは新選組の二番組長。
戊辰戦争の折、新選組と決別し、靖共隊を組織して戦う。途中までは原田と一緒だった。
降伏後、松前藩への帰参が許され、藩医・杉村家の婿養子となり、福山(松前)に移り住んだ。
東京へ人捜しにやって来て、偶然に朋友の原田と再会する。

元新選組隊士では、ほかに「梶谷」「吉田」と呼ばれる2人組が登場。
食い詰めて過激攘夷派の用心棒に雇われ、五郎を探す明を見咎め、危害を加えようとする。
この2人は、戊辰戦争の際に銚子で高崎藩に降伏、放免後に勝海舟を訪れ金銭を借用したと伝わる梶谷麟之助と吉田泉(俊太郎)がモデルと推測される。

また、新選組時代の回想シーンに、土方歳三沖田総司が登場する。
土方は、怜悧な策士であり、斎藤に密偵役を命じた上司。
沖田は、ざっくばらんに振る舞いながらも、油断ならない雰囲気を漂わす同輩。
伊東甲子太郎は、1コマのみ登場するが、台詞はない。
近藤勇もちらっと出てくるが、台詞がない上、なぜか顔の下半分や後ろ姿しか見えない。

会津戦争・如来堂の場面では「新井」「池田」という隊士が出てくるが、かなり引きのコマなので容貌ははっきりしない。当地で戦死したと伝わる新井破魔男と、脱出して生きのびた池田七三郎(稗田利八)と推測される。
さらに、如来堂には前述の吉田俊太郎もいたはずで、よく見るとそれと思しき人物が描かれている。

新選組以外の実在人物では、過激攘夷派の愛宕通旭と外山光輔、古賀十郎、中村恕助、堀内誠之進が登場。彼らの密謀は、後に「二卿事件」として知られることに。
また、山縣有朋や中村半次郎(桐野利秋)も登場する。

連載7回までの登場人物はこういう状況だが、今後は上記の新選組隊士らが再登場するのか、あるいは新たに登場する元隊士もいるのか、楽しみである。
例えば、安富才助や中島登、島田魁、川村三郎(近藤芳助)、市村鉄之助、立川主税、三木三郎や阿部隆明あたりが出てきたら面白いだろう。
もしくは、永井尚志、榎本武揚や大鳥圭介など隊士を知る人物、佐藤彦五郎や沖田みつなど親類縁者も良さそう、などと想像をめぐらせてみる。

明にとって、フェリパン舎は唯一の居場所であり、共に働く奉公人たちは家族のような存在である。
だからこそ彼女は、まかない(食事)も自ら心を込めて作る。
五郎に不審な行動があっても何も聞かず、ただ「夕食は必ず皆で一緒に食べてください、それがフェリパンの掟です」と宣言して食事を出す。
食べ物の美味い不味いに興味のない五郎にも、明のパンや手料理の味わいは伝わるのだった。
この場面に込められた思いが、作品タイトル『一の食卓』の由来なのだろう。

明治初年、政治も人々の暮らしも安定しない新生日本が、本作には描かれている。
登場人物たちは、それぞれ経歴も境遇も異なるが、己の過去にどう区切りをつけ、新時代をどう生きていくのかを模索している、という点で共通している。
その中で、藤田五郎は何のために政府の密偵として働くのか、明やその他の人々との関わりによってどう変わっていくのか、今後の展開が興味深い。
行き場の定まらない清水卯吉や原田左之助も、自分なりの着地点を見出すことができればよいと思う。

明の片想いは、おそらく実らずに終わるのだろう。
それでも、めげずに日本一のパン職人を目指して、幸せになってもらいたい。
日本は、明のような人々の生きる力によって築かれた。そこに今、我々が生きている。

白泉社刊『メロディ』(偶数月刊)に、2014年8月号より連載中。
2015年3月、単行本(花とゆめCOMICS)第1巻が刊行された。
2015年9月、第2巻が発刊。
2016年3月、第3巻が発刊。
2016年11月、第4巻が発刊。
2017年5月、第5巻が発刊。
2018年2月、第6巻が発刊。

[追記 2017/12/11]
本作の連載は、『メロディ』2017年12月号をもって終了した。
作者コメントに「今回で一応、第一部終了という事で続きはまたいずれ」とある。

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