新選組の本を読む ~誠の栞~

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 早乙女貢『竜馬を斬った男』 

短編小説集。幕末維新期の若者達が、理想や信念や恋に生き、命を散らすさまを描く7編を収録。
このうち新選組に関わるものは、「近藤勇の首」「逃げる新選組」の2編。

「近藤勇の首」
近藤勇を慕うあまり、その首級を追う女の恋情。

慶応4年3月2日、甲府へ向けて進軍する甲陽鎮撫隊が、日野宿で休憩する。
自由奔放な女お澄は、接待の手伝いをするよう名主屋敷へ呼ばれた。
そこで、偶然に幼なじみの新選組隊士・蟻道勘吾に再会し、近藤勇とも出会う。
思いがけなく近藤の誠実さに触れたお澄は、彼を慕わしく思うのだった。
そして、近藤が処刑されたと知った時、晒された首級を奪おうと決意する。
蟻道もまた、土方歳三に命じられ、奪還を試みる。しかし、首級は板橋から京都へ送られた。
三条河原に晒された首級を、なんとか奪取した蟻道だが、捕吏に囲まれてしまう。
彼に代わって首級を抱いたお澄は、無我夢中で東へと走り続ける。

首級への追慕を高揚させていき、ついに手にしたお澄の情念が、鬼気迫る。
なお、実際の首級の行方は、不明とされる。
また、蟻道勘吾のモデルとなった実在の隊士・蟻通勘吾は、讃岐国高松出身、白河の戦いで重傷を負い箱館にて死亡した、と伝わっている。

「逃げる新選組」
甲陽鎮撫隊を追って甲州へ向かう土方歳三が、かつて愛し合った女と再会する。

伏見開戦前夜、隊士達を叱咤激励し奮戦する歳三。ところが、結果はさんざんな負け戦であった。
新政府軍の江戸侵入を阻むため、新選組は甲陽鎮撫隊として出陣する。
敵方の甲府接近を知り、歳三は本隊と日野で分かれて神奈川へ行き、菜葉隊を引き連れて甲府を目指す。
その途中、再び日野で休憩をとった時、昔の恋人おもよと再会した。
しかし、新選組副長としての責務から、彼女の愛を振り切って戦場へと赴く。
そして、甲州勝沼の敗戦。気負いを捨てた歳三は、やっと素直な気持ちでおもよに会うことができたが…

隊士達に敢えて厳しく接してきた歳三が、箱館で自分自身を振り返る心情は切ない。
些細なことながら、近藤周平(谷昌武)が伏見で戦死する描写があるが、実際は明治34年まで存命だった。
また、歳三が神奈川へ菜葉隊を呼びに行った事実のないことは、『歴史と視点』の項目で述べたとおりである。

この他の収録作品は、下記のとおり。
「竜馬を斬った男」 会津藩士の家に生まれ幕臣に養子入りし、見廻組与頭となった佐々木只三郎の、闘争と孤独を描く。許嫁を奪った男との因縁が絡む。ページ数は中編小説の分量。
「若き天狗党」 藤田小四郎の挙兵と落命、彼を慕い続ける御典医の娘・香代との悲恋。
「周作を狙う女」 千葉周作と、玄武館の内弟子となった女剣客・志津との因縁の物語。
「ある志士の像」 尊王攘夷を志し脱藩した信濃出身の浪士が、長州系浪士らの騒擾計画に疑問を抱き、また恋との板挟みになって苦悩する。無名の新選組隊士らが端役で登場。
「最後の天誅組」 天誅組の主将・中山忠光と大和でただ一度会った、大庄屋の娘お久の悲恋。

東京文芸社(初版1970・再版1987)、春陽文庫(1980)、双葉文庫(1987)、集英社文庫(2009)が出版された。

ちなみに、『坂本竜馬を斬った男』(今井幸彦/新人物往来社/1983)は、書名が似ているものの、まったく別の図書である。
(2009年、『坂本龍馬を斬った男 幕臣今井信郎の証言』と改題・再構成の上、新人物文庫版として刊行。)
紛らわしいので要注意。

余談だが、表題作「竜馬を斬った男」は、同じタイトルで映画化(1987)された。
製作配給は松竹富士、監督は山下耕作、出演は萩原健一・根津甚八・藤谷美和子・板東八十助など。
原作者の早乙女貢(北辰一刀流二段)も、主人公に斬られる不逞浪士役として特別出演した。
ソフトは、VHSビデオ(1988)が発売されており、DVDやBDの市販はない模様。

竜馬を斬った男
(集英社文庫)
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