新選組の本を読む ~誠の栞~

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 藤本義一『壬生の女たち』 

短編小説集。新撰組の面々に関わった女たちの愛憎と、彼女らの目に映った男たちの姿を描く7編。

「血の花が散る」
菱屋の妾お梅と、芹沢鴨の物語。
お梅を我がものにしておきながら、次々と他人の女に気を移し、佐々木愛次郎の恋人あぐりにも目をつける芹沢。
それを恨みに思いつつ、自らも菱屋太兵衛と絶縁できないお梅の、複雑な心の内。
芹沢暗殺の際、お梅は巻き添えにされない展開となっている。

「風ぐるまの恋」
子守娘お琴と、沖田総司の物語。
山南敬助と明里の仲睦まじさを見て、自分も沖田と添いたいと密かに願うお琴。
やがて、脱走した山南を沖田が追うことに。
同行したお琴は、激しく喀血した沖田を助けようと、思い切った行動に出る。

「尻まくりお伊都」
祇園の茶屋で仲居として働くお伊都が、壬生心中の顛末を目撃する。
桂小五郎を逃がすため、新撰組隊士達の前であられもない姿を見せたお伊都。
それが縁となり、知りあった松原忠司は、己の苦しい胸の内を彼女に告白する。
彼女は、安西某の未亡人お房に同情し、松原には安西殺害の真相をお房に明かさないよう忠告した。
しかし、事実を知ってしまったお房は…

「吹く風の中に生きた」
菅原まさと、原田左之助の物語。
商家の箱入り娘まさが、原田に愛され、所帯を持って子供を育てつつ、男の生き方、女の生き方を様々に考える。
まさと楢崎お龍とが旧知の間柄であることから、新撰組と坂本龍馬との対立関係が、まさの心にも大きな波紋を投げかける。
伏見の寺田屋で坂本龍馬を襲ったのが新撰組、という設定になっている。

「赤い風に舞う」
但馬出石の豪商宅に奉公する娘お鈴と、山崎烝との出会い。
主人・広戸甚助と八重の兄妹が桂小五郎を匿うことになり、協力するお鈴。
桂を追ってきた新撰組とも知り合い、いつしか山崎烝と相思相愛になるものの、桂の潜伏先は言えずに苦しむ。
一方、遙々京都からやって来た幾松は、桂が八重と生活している姿を見て傷つく。
しかし八重もまた、桂に去られることになるのだった。
お鈴は、いつか迎えに来るという山崎の言葉を信じて、ひたすら待ち続けるが…

「あてを過ぎた男」
島原の若太夫・深雪と、近藤勇斎藤一との物語。
落籍され愛妾となった深雪だが、妹お孝にその座を譲り、近藤と手を切る。
その後、斎藤と一緒に暮らすものの、彼の素性も心も謎めいてわからない。
斎藤とも別れて、大坂の商人に嫁ぎ、新撰組の存在はいつしか遠い記憶となった時、偶然に再会したのは…

「夕焼けの中に消えた」
床伝の娘おみのと、横倉甚五郎との物語。
反幕浪士らに辱められたおみのは、復讐のため、反幕派の情報を新撰組に流す密偵となる。
その傍ら、横倉から告白されて恋仲となり、彼への操と、女の武器を使った諜報活動との矛盾に悩む。
そして密偵であることが露見してしまった時、悲劇の結末が待っていた。

全編、女主人公が回顧談を語り聞かせるという、一人称形式で描かれている。京言葉の語り口調が、味わい深い。
性描写が多く、いわゆる官能小説に分類されるものと思うが、心理描写やストーリー展開も巧みである。
本作の女たちは、男に従属しているかのように見えても、自らの力で嫋やかに強かに生きている。
そして、彼女らの心に焼き付けられた男たちの生き方もまた、印象的である。

ちなみに、仲居のお伊都が桂小五郎を新撰組から助ける顛末、菅原まさと楢崎お龍が旧知の間柄という設定は、童門冬二『新撰組の女たち』と共通の要素である。
調べてみたところ、初出は『新撰組の女たち』が1981年、本作は1985年という。
つまり、作者は『新撰組の女たち』から得た着想を採り入れて、本作を書いたのだろう。
それぞれ味わいが異なり、双方を読み比べてみても面白いと思う。

作者の藤本義一は、多彩な才能の持ち主。
井原西鶴など近世上方文学の研究で知られる一方、舞台脚本や作詞も手がけ、放送作家として自らテレビ出演していた時期もある。
著作は、エッセイや自己啓発本のほか、本作のような官能小説も数多い。

1985年、徳間書店より文庫オリジナル版として刊行された。

「夕焼けの中に消えた」は、『誠の旗がゆく』(細谷正充編/集英社文庫/2003)にも収録。
「赤い風に舞う」は、『血闘! 新選組』(池波正太郎ほか/実業之日本社文庫/2016)にも収録されている。

壬生の女たち
(徳間文庫)
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