冨成博『新選組・池田屋事件顛末記』
研究書。桂小五郎と近藤勇をそれぞれ主軸として、池田屋事件の真相に迫る。
本書の内容は、下記の4章に分かれ、それぞれに複数の項目が設定されている(同書目次より)。
「長州」苦難の道へ
忠臣蔵と池田屋事件/桂小五郎、江戸へのぼる/尊王攘夷と水戸学/
成破の盟/対馬の危機/航海遠略策つまずく/島津久光の誤算
壬生浪が通る
試衛館道場と近藤勇/浪士組生まれる/浪士組、京にはいる/清河八郎の野心/京都の将軍/
越前藩のクーデター計画/どんでん返し/七卿の都落ち/「誠」の隊旗/『奉勅始末』
ゆれる京洛
横浜鎖港のかけひき/対馬屋敷の桂小五郎/吉田稔麿の上京/将軍離京/
ゆらめく不安/ 志士のアジト/桝喜があやしい/拷問自白/長州屋敷
明か暗か
池田屋の集会/新選組動く/桂小五郎はどうした/宮部鼎蔵の闘死/吉田稔麿の最期/
池田屋の殉難者たち/暗闇の血闘だったか/あかりがついていた/諸藩兵の出動/
惨劇のあと/勝者と敗者
今年も京都、八坂神社の祭礼・祇園祭が開催され、山鉾巡行や御輿渡御の華やかな様子が報じられた。祇園祭とくれば、つい池田屋事件を連想してしまう。
池田屋事件は元治元年6月5日(グレゴリオ暦1864年7月8日)、祇園祭の始まる2日前に発生した。
池田屋事件は、小説・映画・ドラマなどで繰り返し題材にされ、一般によく知られた出来事である。しかし、その実態は意外にわかっていない。むしろ、わからないことだらけと言える。
例えば、事件の死亡者とされる人物は、具体的にどのような状況で落命したのかすら不分明である。
多くの通説が事実であるかのように流布しているものの、そのひとつひとつを検証すると、確かな根拠は見出せない、後世の推測や創作であることも多い。
そんな謎だらけの池田屋事件の解明に取り組んだのが、本書である。
上記内容のとおり、事件当日の経過ばかりでなく、双方の当事者代表・桂小五郎&近藤勇の経歴や行動、事件を惹起した当時の政情、事件の終息までを、史料を駆使して追っている。
文章は平易で、古文書の引用も多くは現代文に訳され、わかりやすい。
著者は山口県出身であり、『萩の乱と前原一誠』『木戸孝允』『吉田松陰』『高杉晋作』など、幕末明治期の長州に関する著作が多い。
本書の執筆も、おそらくそれらの研究過程で史料に触れたことがきっかけだったのだろう。しかし、長州側だけを依怙贔屓するわけでなく、幕府側も公平に扱っている。
本書を読んで、初めて知ったことも多く、実像の一端が見えてきたと感じた。
例えば従前「謀議を凝らしただけの反幕浪士達を新選組がいきなり襲った」「未遂犯に対する過剰な先制攻撃」「警察権の乱用」「暴力的取り締まり」といった意見に対して、反論がしづらかった。
しかし実は、事件発生の数ヶ月前から、反幕派による脅迫や暗殺が京都・大坂で繰り返されていたのだ。この一事を知って、やむをえない理由があったと説明しやすくなった。
とは言え、これは「どちらが正義でどちらが悪」などといった問題ではない。当事者らはそれぞれの立場で為すべき事を為した。本書は、その事実を知りたいと思う向きにオススメの一冊。
2001年、新人物往来社より単行本(四六判ハードカバー)として出版された。
(※本書の書名は、実際には『新選組池田屋事件顚末記』であるが、「顚」は環境依存文字であるため、本項では「顛」で代用した。)
ちなみに、著者の関連書に『池田屋事変始末記 新選組と吉田稔麿』がある。
1975年、新人物往来社より単行本(四六判)が出版された。
2010年、同書を改題改版した『池田屋事変始末記 吉田稔麿の最期』が、新人物文庫として刊行。
内容は吉田稔麿の伝記。小説的な表現を用いた部分もあるが、丹念な調査に基づき書かれている。
文庫化にあたり、用語や数値などをかなり書き直しているが、全体の骨子は変わっていない様子。
特に巻末の年譜は、経歴不明の点が多いといわれる吉田稔麿を知る上で、貴重なデータである。
ただ、池田屋事件の研究という面では、本項『新選組・池田屋事件顛末記』のほうがより進んでいる。


本書の内容は、下記の4章に分かれ、それぞれに複数の項目が設定されている(同書目次より)。
「長州」苦難の道へ
忠臣蔵と池田屋事件/桂小五郎、江戸へのぼる/尊王攘夷と水戸学/
成破の盟/対馬の危機/航海遠略策つまずく/島津久光の誤算
壬生浪が通る
試衛館道場と近藤勇/浪士組生まれる/浪士組、京にはいる/清河八郎の野心/京都の将軍/
越前藩のクーデター計画/どんでん返し/七卿の都落ち/「誠」の隊旗/『奉勅始末』
ゆれる京洛
横浜鎖港のかけひき/対馬屋敷の桂小五郎/吉田稔麿の上京/将軍離京/
ゆらめく不安/ 志士のアジト/桝喜があやしい/拷問自白/長州屋敷
明か暗か
池田屋の集会/新選組動く/桂小五郎はどうした/宮部鼎蔵の闘死/吉田稔麿の最期/
池田屋の殉難者たち/暗闇の血闘だったか/あかりがついていた/諸藩兵の出動/
惨劇のあと/勝者と敗者
今年も京都、八坂神社の祭礼・祇園祭が開催され、山鉾巡行や御輿渡御の華やかな様子が報じられた。祇園祭とくれば、つい池田屋事件を連想してしまう。
池田屋事件は元治元年6月5日(グレゴリオ暦1864年7月8日)、祇園祭の始まる2日前に発生した。
池田屋事件は、小説・映画・ドラマなどで繰り返し題材にされ、一般によく知られた出来事である。しかし、その実態は意外にわかっていない。むしろ、わからないことだらけと言える。
例えば、事件の死亡者とされる人物は、具体的にどのような状況で落命したのかすら不分明である。
多くの通説が事実であるかのように流布しているものの、そのひとつひとつを検証すると、確かな根拠は見出せない、後世の推測や創作であることも多い。
そんな謎だらけの池田屋事件の解明に取り組んだのが、本書である。
上記内容のとおり、事件当日の経過ばかりでなく、双方の当事者代表・桂小五郎&近藤勇の経歴や行動、事件を惹起した当時の政情、事件の終息までを、史料を駆使して追っている。
文章は平易で、古文書の引用も多くは現代文に訳され、わかりやすい。
著者は山口県出身であり、『萩の乱と前原一誠』『木戸孝允』『吉田松陰』『高杉晋作』など、幕末明治期の長州に関する著作が多い。
本書の執筆も、おそらくそれらの研究過程で史料に触れたことがきっかけだったのだろう。しかし、長州側だけを依怙贔屓するわけでなく、幕府側も公平に扱っている。
本書を読んで、初めて知ったことも多く、実像の一端が見えてきたと感じた。
例えば従前「謀議を凝らしただけの反幕浪士達を新選組がいきなり襲った」「未遂犯に対する過剰な先制攻撃」「警察権の乱用」「暴力的取り締まり」といった意見に対して、反論がしづらかった。
しかし実は、事件発生の数ヶ月前から、反幕派による脅迫や暗殺が京都・大坂で繰り返されていたのだ。この一事を知って、やむをえない理由があったと説明しやすくなった。
とは言え、これは「どちらが正義でどちらが悪」などといった問題ではない。当事者らはそれぞれの立場で為すべき事を為した。本書は、その事実を知りたいと思う向きにオススメの一冊。
2001年、新人物往来社より単行本(四六判ハードカバー)として出版された。
(※本書の書名は、実際には『新選組池田屋事件顚末記』であるが、「顚」は環境依存文字であるため、本項では「顛」で代用した。)
ちなみに、著者の関連書に『池田屋事変始末記 新選組と吉田稔麿』がある。
1975年、新人物往来社より単行本(四六判)が出版された。
2010年、同書を改題改版した『池田屋事変始末記 吉田稔麿の最期』が、新人物文庫として刊行。
内容は吉田稔麿の伝記。小説的な表現を用いた部分もあるが、丹念な調査に基づき書かれている。
文庫化にあたり、用語や数値などをかなり書き直しているが、全体の骨子は変わっていない様子。
特に巻末の年譜は、経歴不明の点が多いといわれる吉田稔麿を知る上で、貴重なデータである。
ただ、池田屋事件の研究という面では、本項『新選組・池田屋事件顛末記』のほうがより進んでいる。
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