新選組の本を読む ~誠の栞~

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 菊地明編著『土方歳三日記』 

研究書。様々な史料文献に記された土方歳三の行動を、日記体に編集して解説を加えたもの。
上・下巻の2冊構成となっている。各巻の副題と収録区分は下記のとおり。

上巻 『生い立ち、上京、新選組結成、そして池田屋事件』 天保6年(1835)~元治元年(1864)
下巻 『新選組副長、鳥羽伏見戦、箱館戦争、そして散華』 慶応元年(1865)~明治2年(1869)


昨年、本書が刊行された時、書名を見て「土方歳三の日記がついに発見された!?」と驚いた向きが、少なからずあったらしい。
歳三は、元治元年4月12日、義兄・佐藤彦五郎に宛てて日記帳を送った。その旨を記した書簡が現存するものの、日記帳自体は所在不明である。
その日記帳の一部とも推測される内容が、『土方歳三の日記』(伊東成郎/新人物往来社/2000)に紹介されている。ただし、古い雑誌に掲載されたもので分量的に僅かである上、件の日記帳の一部と断定し得る根拠もない。
さりながら、永倉新八の手記「浪士文久報国記事」が1997年に発見されたことを思えば、この日記帳が発見される可能性も決してゼロではないだろう。
新選組愛好者の間にそのような期待があったため、本書の登場は勘違いを招いてしまった(笑)。

もちろん本書は、所在不明の日記帳発見にまつわるものではない。
初めに述べたとおり、多くの史料文献をもとに歳三の生涯を時系列で追ったものである。形式的には、以前取り上げた『新選組日誌』とまったく同じ。違いは、主体が新選組でなくて歳三個人であることだ。

『新選組日誌』は1995年に刊行、2003年に若干修正を加えたコンパクト版が出た。
この本の日記形式は、通常の通史本とは異なる利点がある。
まず、◯年◯月◯日に何があったのか、調べやすい。そして、その前後や同時に進行していた出来事との関連性がわかりやすく、時系列に沿った関連性から新たな発見が得られもした。

このように画期的で有用な研究書であるものの、その後に発見された史料文献は当然ながら反映されておらず、すでに最新の内容ではない。新発見史料を盛り込んで全面改訂した新版が、ぜひ出て欲しいと思っていた。
しかし、3人の共著者が個々の活動に忙殺され、当時のような共同作業は無理となったらしい。出版社にも何らかの事情があったのだろう。新版発行の気配はまったく窺えなかった。
残念に思っていた時、本書が出版された。

本書は、『新選組日誌』とは異なり、歳三個人を主体としているので、新選組関連であっても歳三と無関係の要素は載っていない。
ただ、新選組史上の出来事には、たとえ間接的であっても関与しているケースが多い。また、新選組の草創から終焉まで在隊した幹部隊士という意味でも、歳三を追うことは新選組を追うことにほぼ等しい。必然的に、些末な事柄や他の隊士らの私的な事柄を除いて、出来事の大半は本書に取り上げられている。
つまり本書は、『新選組日誌』の改訂新版の役割を果たす、と言ってよいだろう。

読んでみて、興味深く思ったことは多い。
たとえば、文久3年8月12日の大和屋焼き討ち事件について、『歴史のなかの新選組』出版以降、「芹沢鴨ならびに新選組(壬生浪士組)は関与していない」という説が支持されるようになった。
しかし本書には、襲撃犯の中に「浅黄ニテ誠ト字ヲ染込」「袖印白にて△△」という特徴的な羽織を着用した者達がいた、とする同時代史料が示されている。

一方、疑問を感じた部分も複数ある。
たとえば、元治元年6月5日の池田屋事件に関して、前日に「三条井筒屋父子」が逮捕されたとする同時代史料が示され、彼らの供述が「古高俊太郎捕縛に直結したようである」と解説されている。
ただ、その引用部分を読んでみても、「井筒屋父子」が何者であり、どのような供述をしたのかはっきりしない。もう少し根拠を明らかにして欲しいところだ。

とはいえ、何を支持し何を疑問視するかは、読者各々の自由である。疑問に思った点は、各人が自分で調べてみるのも面白いだろう。下巻の巻末には、引用・参考文献の一覧が掲載されている。

本書は2011年、ちくま学芸文庫として刊行された。
これだけの内容を、文庫本で手軽に読めるのもありがたい。

[追記 2013/11/11]
『新選組日誌』の改訂新版は出そうにないと思われたが、2013年11月、中経出版より新人物文庫の上・下巻2冊として刊行された。詳細は、『新選組日誌』の追記を参照のこと。
ちなみに、この『新選組日誌』は、文久3年の出来事から始まっている。それ以前の歳三について知るには、やはり本書『土方歳三日記』があったほうが便利。

土方歳三日記 上
(ちくま学芸文庫)
>>詳細を見る



土方歳三日記 下
(ちくま学芸文庫)
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