童門冬二『新撰組の女たち』
長編小説。新撰組の面々と、彼らに関わった女たちとを中心として、在京期の新撰組の姿を、さらに幕末維新という時代を描き出す。
新撰組隊士の色恋、女性関係に焦点を当てた作品、もしくは作品集は多い。
すぐ思いつくものをざっと挙げただけでも、下記のとおり。ちなみに、すべて短編(もしくは短編集)である。
藤本義一『壬生の女たち』
南原幹雄『新選組情婦伝』
江宮隆之『女たちの新選組 花期花会』
童門冬二『維新の女たち』所収「地獄 芹沢うめ」「屈折 近藤たか」
早乙女貢『志士の女たち』所収「蚊帳の中」
船山馨『幕末の女たち』所収「真葛ヶ原心中」「ながれ藻」
北原亞以子『埋もれ火』所収「波」「武士の妻」
〃 『降りしきる』所収「降りしきる」
徳永真一郎『江戸妖女伝』所収「火遊び」「女と金と侍」「悲恋の明里」「沖田総司の恋」
司馬遼太郎『新選組血風録』所収「沖田総司の恋」
おそらくこれ以外にも存在するだろう。
上記の中には扇情的描写が多いものもあるが、本作ではそういう要素は薄い。
また、本作は短編でなく長編小説だが、複数のカップルを登場させ、それぞれの愛の形を描いているところは、短編連作と同じ系統に属すると考えてよいと思う。
本作に描かれる男女関係は、以下のとおり。子母澤寛の新選組三部作に着想を得たものが多い。
沖田総司&お糸
お糸は壬生村の子守娘。声が美しく、歌が上手い。
壬生寺の境内で、子供らに交じって遊ぶ沖田と親しくなり、憧れにも似た恋心を抱くようになる。また、沖田が労咳を患っていると知って、密かに胸を痛める。
沖田もまた、お糸の美しい歌声に幾度となく心を慰められる。
お糸は本作の主人公でもあり、以下の男女の様々な局面を目撃する。
また終章では、明治期に壬生を訪ねてきた佐藤俊宣(土方歳三の甥)から、新撰組隊士たちのその後の消息を聞かされる。
芹沢鴨&お梅
菱屋太兵衛の妾お梅は、太兵衛の言いつけで、芹沢が買った衣服の代金を催促しに来た。
芹沢は、お梅の美貌と菱屋への当てつけから、強引に関係を持った。しかしお梅は、芹沢の秘めた人間性に惹かれていく。
一方の芹沢は、佐々木愛次郎の恋人あぐりを横取りしようと画策、見かねたお梅が窘めても聞く耳を持たない。
そんなふたりを、悲劇的な結末が待ち受けていた。
近藤勇がお梅を芹沢と同じ墓に埋葬させなかった理由に、独自の設定がされている。
曰く、芹沢は、商家からの押し借りによって隊の運営費を調達していた。近藤らは、芹沢の行為を批判しながらも結果的には依存していた。お梅がそれを指摘したため、近藤のプライドが傷ついたのだという。
少々穿ちすぎのようにも感じるが、口に出せないからこそ腹立たしいという心理描写は興味深い。
佐々木愛次郎&あぐり
子母澤寛『新選組物語』所収「隊中美男五人衆」を題材とする。
佐々木は色白の美男、あぐりは界隈で評判の美人、対の人形のように似合いのカップル。
しかし芹沢があぐりに横恋慕。追い詰められたふたりは、佐伯亦三郎に勧められて駆け落ちしようとするが…
ふたりが知りあったきっかけを「ある出来事」としか書いていないので、何だか気になってしまった。
書かないのだったら気を持たせないで、「ふとしたことで」などと誤魔化してくれたほうがいい。
田内知&おころ
子母澤寛『新選組始末記』『新選組物語』所収の関連エピソードを題材とする。
田内は、幹部ではなく平隊士であるにもかかわらず、八条村に妾を囲っていた。
妾のおころという名は、本人が考えた名乗りで、由来はころ柿(干し柿)。「渋皮をむかれて、陰干しにされて、さんざん苦労して甘味のある柿になる」ところが自分に似ている、などと称する。
気が強く我儘なおころは、田内をさんざん翻弄。田内も、いつしかそれが快感となってしまう。
おころの浮気に気づきながら証拠を押さえられずにいた彼は、ある日…
子母澤寛作品に女の名は出てこないので、おころというのは作者の創作だろう。しかし、名前の由来は干し柿でなくてすぐ転ぶところでは、と思えるくらいに放埒でエネルギッシュな様は、いっそ清々しい(笑)
切腹の介錯役は、『新選組物語』では谷三十郎だが、本作では武田観柳斎となっている。作者はおそらく、ここで武田凋落の理由を作っておきたかったのだろう。
ちなみに、司馬遼太郎もこの田内知の逸話をアレンジして『新選組血風録』の「海仙寺党異聞」を書いている。
松原忠司&安西某の未亡人
子母澤寛『新選組物語』所収「壬生心中」を題材とする。
些細な争いから相手を斬殺してしまった松原は、その事実を打ち明けられないまま未亡人や遺児と親しくなり、その愛着と自己嫌悪との板挟みとなって苦しむ。
松原の降格が、田内の心にますます暗い影を落とす。そして、田内の死を目の当たりにした松原は、自らの不始末を精算しようと決意したらしい。この連鎖反応的な展開は巧いと感じた。
未亡人宅の異変に気づいて知らせたのはお糸、という設定になっている。
山南敬助&明里
子母澤寛『新選組遺聞』所収「池田屋斬込前後」を題材とする。
明里は島原の天神(太夫に次ぐ娼妓の位)だったが、落籍されて中堂寺村の休息所に住まう。
山南は他の幹部らが休息所を保つことに批判的だったが、沖田や藤堂平助、井上源三郎らが山南のためを思ってお膳立てしたのだった。
土方歳三との確執に疲れ切った山南は、明里と過ごす時間に安らぎを覚えるものの、その苦悩を吐露することはない。明里は山南のため様々に尽くすが…
作者が山南を好きなせいか、『新選組遺聞』よりだいぶ詳しいストーリーとなっている。
山南の死後、郊外にひとりで暮らす明里を気遣って、沖田やお糸が何度か訪問する描写もある。
近藤勇&ツネ
ツネは万延元年に嫁ぎ、近藤が京へ上ってからは留守宅を守り、舅・周斎の世話にも気を配ってきた。
結婚の際に「慎ましやかで、養父によく仕え、貞淑な妻になるだろう」と望まれた時は嬉しかったものの、今にして思えば夫の勝手放題を許すためなのか、と虚しくなる。
そんな時、近藤が将軍上洛を幕閣に要請すべく、また隊士を新規募集すべく、東下してくる。
御用繁多と言いつつ複数の女に接している近藤に対して、恨みに思いながら何も言えないツネの心情がリアルであり、ユーモアとペーソスを感じさせる。
江戸では堅物だった夫が変わってしまったのは土方の影響か、と疑うくだりが可笑しい。
原田左之助&まさ子
子母澤寛『新選組遺聞』所収「原田左之助」に着想を得たと思われる話。
菅原まさ子は、仏光寺前に住む商人の娘。原田左之助に嫁ぐことになって、幼馴染みのお龍に「壬生浪は人斬りや、そないな男と一緒になってどないするのや」となじられ、喧嘩してしまう。
このお龍は、後に坂本龍馬の妻となるのだった。
原田は、まさ子を正式な妻として迎える。同僚たちは、こういう時勢だから後腐れのない関係にしておけばいいのに、と忠告。しかし原田は「後腐れを作ったからこそ、日々の隊務に力が入るんだ」と主張する。
まさ子が産んだ赤児(長男の茂)を、お糸がお守りする。
また、まさ子とお龍が旧知の間柄という設定は、藤本義一『壬生の女たち』所収「吹く風の中に生きた」にも見られる。
山崎蒸&おみの
子母澤寛『新選組物語』所収「隊士絶命記」に着想を得たらしい話。
髪結い職人の床伝は、土方歳三に雇われて密かに反幕派を探っていた。
その娘おみのも、女ならではの手管を用い、情報を得ては新撰組に提供した。そうした行為をむしろ楽しんでいたのに、山崎蒸を本気で好きになり苦しむ。
一方、反幕浪士らも情報漏洩は床伝父娘の仕業、と気づく。
山崎には妻がいたそうだが、本作では独身と設定されている模様。
ただ、明日をも知れない我が身を思うと、おみのの気持ちに応えることができない。
このほか、土方歳三、永倉新八、山野八十八の女性関係についても言及がある。
恋愛関係とは言えないが、若い隊士たちと、彼らが姉のように慕う太田垣連月尼との交流も面白い。
新撰組以外では、桂小五郎の女性関係にも触れた箇所がある。
祇園の茶屋に仲居として働くお伊都が、桂を新撰組から守ろうとする顛末は、藤本義一『壬生の女たち』所収「尻まくりお伊都」の展開とよく似ている。
ストーリーの合間に、京都の各所をはじめ舞台となった土地(出石・多摩・上関・下関など)の地誌や習俗などを説明する部分もあり、エッセイふう豆知識といった感じ。
作者の考察や雑感もあり、それなりに興味深い。ただ、やや疑問を感じる箇所もある。
たとえば、「新撰組ファンには年齢的なサイクルがあって、中学生から高校初年頃が最高潮で、やがて潮が引くように去って行く」とある。これは一面の事実ではあると思うが、いつまでも去らずファンであり続ける人々もいるわけで、その存在を知ってか知らずか無視するのはいかがなものだろう。
ちなみに、このような人々は増えつつあるようで、関連イベントでは老若男女の姿を見かける。
それでも、作者の認識は一貫して変わっていないらしい。2013年5月8日放送、BS-TBS「日本史探究スペシャル ライバルたちの光芒」にゲスト出演した時は「土方歳三のファンは、中2から高2の女の子ばっかり。大学受験が近づくと皆どっか行っちゃう」と発言したとか。
しかし、土方歳三忌にでも実際に参加してみれば、そんなことは言えないはずだ(笑)
ストーリー全体として、純朴な隊士たちが複雑な政情や慣れない土地に戸惑いつつ、任務に恋に青春を燃焼させるものの、やがて歴史の激流に取り残され、古き時代とともに滅びていく様子は切ない。
そんな彼らを見守り、支え、あるいは一緒に滅びていく女たちの姿もまた哀切に満ちている。
本作は、朝日新聞社より単行本(1982)が出版され、旺文社から文庫本(1985)が刊行された。



新撰組隊士の色恋、女性関係に焦点を当てた作品、もしくは作品集は多い。
すぐ思いつくものをざっと挙げただけでも、下記のとおり。ちなみに、すべて短編(もしくは短編集)である。
藤本義一『壬生の女たち』
南原幹雄『新選組情婦伝』
江宮隆之『女たちの新選組 花期花会』
童門冬二『維新の女たち』所収「地獄 芹沢うめ」「屈折 近藤たか」
早乙女貢『志士の女たち』所収「蚊帳の中」
船山馨『幕末の女たち』所収「真葛ヶ原心中」「ながれ藻」
北原亞以子『埋もれ火』所収「波」「武士の妻」
〃 『降りしきる』所収「降りしきる」
徳永真一郎『江戸妖女伝』所収「火遊び」「女と金と侍」「悲恋の明里」「沖田総司の恋」
司馬遼太郎『新選組血風録』所収「沖田総司の恋」
おそらくこれ以外にも存在するだろう。
上記の中には扇情的描写が多いものもあるが、本作ではそういう要素は薄い。
また、本作は短編でなく長編小説だが、複数のカップルを登場させ、それぞれの愛の形を描いているところは、短編連作と同じ系統に属すると考えてよいと思う。
本作に描かれる男女関係は、以下のとおり。子母澤寛の新選組三部作に着想を得たものが多い。
沖田総司&お糸
お糸は壬生村の子守娘。声が美しく、歌が上手い。
壬生寺の境内で、子供らに交じって遊ぶ沖田と親しくなり、憧れにも似た恋心を抱くようになる。また、沖田が労咳を患っていると知って、密かに胸を痛める。
沖田もまた、お糸の美しい歌声に幾度となく心を慰められる。
お糸は本作の主人公でもあり、以下の男女の様々な局面を目撃する。
また終章では、明治期に壬生を訪ねてきた佐藤俊宣(土方歳三の甥)から、新撰組隊士たちのその後の消息を聞かされる。
芹沢鴨&お梅
菱屋太兵衛の妾お梅は、太兵衛の言いつけで、芹沢が買った衣服の代金を催促しに来た。
芹沢は、お梅の美貌と菱屋への当てつけから、強引に関係を持った。しかしお梅は、芹沢の秘めた人間性に惹かれていく。
一方の芹沢は、佐々木愛次郎の恋人あぐりを横取りしようと画策、見かねたお梅が窘めても聞く耳を持たない。
そんなふたりを、悲劇的な結末が待ち受けていた。
近藤勇がお梅を芹沢と同じ墓に埋葬させなかった理由に、独自の設定がされている。
曰く、芹沢は、商家からの押し借りによって隊の運営費を調達していた。近藤らは、芹沢の行為を批判しながらも結果的には依存していた。お梅がそれを指摘したため、近藤のプライドが傷ついたのだという。
少々穿ちすぎのようにも感じるが、口に出せないからこそ腹立たしいという心理描写は興味深い。
佐々木愛次郎&あぐり
子母澤寛『新選組物語』所収「隊中美男五人衆」を題材とする。
佐々木は色白の美男、あぐりは界隈で評判の美人、対の人形のように似合いのカップル。
しかし芹沢があぐりに横恋慕。追い詰められたふたりは、佐伯亦三郎に勧められて駆け落ちしようとするが…
ふたりが知りあったきっかけを「ある出来事」としか書いていないので、何だか気になってしまった。
書かないのだったら気を持たせないで、「ふとしたことで」などと誤魔化してくれたほうがいい。
田内知&おころ
子母澤寛『新選組始末記』『新選組物語』所収の関連エピソードを題材とする。
田内は、幹部ではなく平隊士であるにもかかわらず、八条村に妾を囲っていた。
妾のおころという名は、本人が考えた名乗りで、由来はころ柿(干し柿)。「渋皮をむかれて、陰干しにされて、さんざん苦労して甘味のある柿になる」ところが自分に似ている、などと称する。
気が強く我儘なおころは、田内をさんざん翻弄。田内も、いつしかそれが快感となってしまう。
おころの浮気に気づきながら証拠を押さえられずにいた彼は、ある日…
子母澤寛作品に女の名は出てこないので、おころというのは作者の創作だろう。しかし、名前の由来は干し柿でなくてすぐ転ぶところでは、と思えるくらいに放埒でエネルギッシュな様は、いっそ清々しい(笑)
切腹の介錯役は、『新選組物語』では谷三十郎だが、本作では武田観柳斎となっている。作者はおそらく、ここで武田凋落の理由を作っておきたかったのだろう。
ちなみに、司馬遼太郎もこの田内知の逸話をアレンジして『新選組血風録』の「海仙寺党異聞」を書いている。
松原忠司&安西某の未亡人
子母澤寛『新選組物語』所収「壬生心中」を題材とする。
些細な争いから相手を斬殺してしまった松原は、その事実を打ち明けられないまま未亡人や遺児と親しくなり、その愛着と自己嫌悪との板挟みとなって苦しむ。
松原の降格が、田内の心にますます暗い影を落とす。そして、田内の死を目の当たりにした松原は、自らの不始末を精算しようと決意したらしい。この連鎖反応的な展開は巧いと感じた。
未亡人宅の異変に気づいて知らせたのはお糸、という設定になっている。
山南敬助&明里
子母澤寛『新選組遺聞』所収「池田屋斬込前後」を題材とする。
明里は島原の天神(太夫に次ぐ娼妓の位)だったが、落籍されて中堂寺村の休息所に住まう。
山南は他の幹部らが休息所を保つことに批判的だったが、沖田や藤堂平助、井上源三郎らが山南のためを思ってお膳立てしたのだった。
土方歳三との確執に疲れ切った山南は、明里と過ごす時間に安らぎを覚えるものの、その苦悩を吐露することはない。明里は山南のため様々に尽くすが…
作者が山南を好きなせいか、『新選組遺聞』よりだいぶ詳しいストーリーとなっている。
山南の死後、郊外にひとりで暮らす明里を気遣って、沖田やお糸が何度か訪問する描写もある。
近藤勇&ツネ
ツネは万延元年に嫁ぎ、近藤が京へ上ってからは留守宅を守り、舅・周斎の世話にも気を配ってきた。
結婚の際に「慎ましやかで、養父によく仕え、貞淑な妻になるだろう」と望まれた時は嬉しかったものの、今にして思えば夫の勝手放題を許すためなのか、と虚しくなる。
そんな時、近藤が将軍上洛を幕閣に要請すべく、また隊士を新規募集すべく、東下してくる。
御用繁多と言いつつ複数の女に接している近藤に対して、恨みに思いながら何も言えないツネの心情がリアルであり、ユーモアとペーソスを感じさせる。
江戸では堅物だった夫が変わってしまったのは土方の影響か、と疑うくだりが可笑しい。
原田左之助&まさ子
子母澤寛『新選組遺聞』所収「原田左之助」に着想を得たと思われる話。
菅原まさ子は、仏光寺前に住む商人の娘。原田左之助に嫁ぐことになって、幼馴染みのお龍に「壬生浪は人斬りや、そないな男と一緒になってどないするのや」となじられ、喧嘩してしまう。
このお龍は、後に坂本龍馬の妻となるのだった。
原田は、まさ子を正式な妻として迎える。同僚たちは、こういう時勢だから後腐れのない関係にしておけばいいのに、と忠告。しかし原田は「後腐れを作ったからこそ、日々の隊務に力が入るんだ」と主張する。
まさ子が産んだ赤児(長男の茂)を、お糸がお守りする。
また、まさ子とお龍が旧知の間柄という設定は、藤本義一『壬生の女たち』所収「吹く風の中に生きた」にも見られる。
山崎蒸&おみの
子母澤寛『新選組物語』所収「隊士絶命記」に着想を得たらしい話。
髪結い職人の床伝は、土方歳三に雇われて密かに反幕派を探っていた。
その娘おみのも、女ならではの手管を用い、情報を得ては新撰組に提供した。そうした行為をむしろ楽しんでいたのに、山崎蒸を本気で好きになり苦しむ。
一方、反幕浪士らも情報漏洩は床伝父娘の仕業、と気づく。
山崎には妻がいたそうだが、本作では独身と設定されている模様。
ただ、明日をも知れない我が身を思うと、おみのの気持ちに応えることができない。
このほか、土方歳三、永倉新八、山野八十八の女性関係についても言及がある。
恋愛関係とは言えないが、若い隊士たちと、彼らが姉のように慕う太田垣連月尼との交流も面白い。
新撰組以外では、桂小五郎の女性関係にも触れた箇所がある。
祇園の茶屋に仲居として働くお伊都が、桂を新撰組から守ろうとする顛末は、藤本義一『壬生の女たち』所収「尻まくりお伊都」の展開とよく似ている。
ストーリーの合間に、京都の各所をはじめ舞台となった土地(出石・多摩・上関・下関など)の地誌や習俗などを説明する部分もあり、エッセイふう豆知識といった感じ。
作者の考察や雑感もあり、それなりに興味深い。ただ、やや疑問を感じる箇所もある。
たとえば、「新撰組ファンには年齢的なサイクルがあって、中学生から高校初年頃が最高潮で、やがて潮が引くように去って行く」とある。これは一面の事実ではあると思うが、いつまでも去らずファンであり続ける人々もいるわけで、その存在を知ってか知らずか無視するのはいかがなものだろう。
ちなみに、このような人々は増えつつあるようで、関連イベントでは老若男女の姿を見かける。
それでも、作者の認識は一貫して変わっていないらしい。2013年5月8日放送、BS-TBS「日本史探究スペシャル ライバルたちの光芒」にゲスト出演した時は「土方歳三のファンは、中2から高2の女の子ばっかり。大学受験が近づくと皆どっか行っちゃう」と発言したとか。
しかし、土方歳三忌にでも実際に参加してみれば、そんなことは言えないはずだ(笑)
ストーリー全体として、純朴な隊士たちが複雑な政情や慣れない土地に戸惑いつつ、任務に恋に青春を燃焼させるものの、やがて歴史の激流に取り残され、古き時代とともに滅びていく様子は切ない。
そんな彼らを見守り、支え、あるいは一緒に滅びていく女たちの姿もまた哀切に満ちている。
本作は、朝日新聞社より単行本(1982)が出版され、旺文社から文庫本(1985)が刊行された。



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