樹なつみ『一の食卓』
長編マンガ。タイトル読みは「はじめのしょくたく」。
パン職人の少女・明(はる)と、元新選組の斎藤一こと藤田五郎が、明治の世を生きていくさまを描く。
樹なつみの作品は、少女マンガらしい華やかなキャラクターが印象に残る。
のみならずストーリーも面白い。特に、心理戦や政治的な駆け引きの描写が、個人的に好みだ。
主人公が一本気で正直な人物であっても、脇の味方や敵には権謀術数に長けた者がいて、目的達成のため様々な手段を用いて闘う。時には、世界規模の壮大な争いが繰り広げられる。
このような闘争を絵にするのは難しいだろうが、それを巧みに描き出すのが作者の才能と感じる。
この作者が、新選組の生き残り・斎藤一を登場させ時代ものを描くと知って、興味を惹かれた。
幕末の慶応4年(1868)、上野戦争によって戦災孤児となった少女・明。
仏人フェリに助けられ、彼の営むベーカリー「フェリパン舎」で働くことに。
懸命に修業し、15歳にしてパン職人の才能を開花させ、店を切り盛りできるまでに成長した。
そんな明治4年(1871)のある日。
築地ホテル館を訪ねた明は、岩倉具視からひとりの男を紹介される。
長身に黒衣をまとい、昏い眼をした無表情な男は、どこか狼を思わせた。
「下男でもよいから、この男をフェリパン舎に置け」と命令され、困惑し憂鬱になる明。
しかし男は、明が焼いたパンを完食した。当時、フランスパンは「皮が固く食べにくい」と不評だったにもかかわらずのことであり、これをきっかけに明の警戒心が解ける。
「藤田五郎」と名乗ったその男は、両刀を置き、身なりを改め、住み込みの下男となった。
納品(配達)や薪割りなど力仕事を任され、寡黙ながらよく働くものの、何やら隠し事がある様子。
ある日の夕方、新島原(新富町の花街)へ五郎を探しに行った明は、怪しい浪人の2人組に捕まる。
言いがかりをつけられ、斬り殺されそうになったところを救ったのは、五郎だった。
五郎には公にできない前歴や秘めた目的がある、と気づいてしまった明だが、本人にそれを問い質すことはできなかった。もし穿鑿すれば、この人は出て行ってしまう。二度と会えなくなる。
それならいっそ何も知らずにいたほうがよいと思うほど、明の心は彼に惹かれ始めていた。
主な登場人物については、以下のとおり。
西塔明(さいとうはる)
苦労に負けず前向きに頑張る、おきゃんな15歳。
もとは江戸・谷中の長屋に住む夫婦の一人娘。父親は、不忍池近くで水茶屋商売をしていた。
上野戦争の際、彰義隊の残党に両親を斬殺され、火の中に呆然と立ち尽くしていたところ、別の彰義隊隊士に救い出された。路傍で、たまたま通りかかったフェリに拾われる。
フェリの恩に報いようと懸命に働き、パン作りの秘伝を教わるほどになった。それを嫉んだ他の職人たちが「色仕掛けで取り入った」と中傷し出ていったため、人手不足の店を切り回すのに苦労している。
フランス料理も勉強中。フェリからもらった耳飾り(ピアス)をつけている。
名字を名乗ったのは明治3年から。「西塔」は、母の出身地の村名に因む。
藤田五郎
もとは新選組の三番組長・斎藤一。
会津には特別な思い入れがあるらしく、戊辰戦争では会津に残って戦い続けた。
降伏後、どういう経緯があったものか、薩摩藩・西郷隆盛の配下となり、西郷の命によって川路利良の密偵となる。しかも背後には大久保利通がいるという、複雑怪奇な立場に置かれている様子。
東京では本郷に住まいを持ち、新選組時代からの従者・清水卯吉に家内を任せていた。
任務のため、フェリパン舎に下男として入り込むが、同舎の人々を巻き込んではいけないと考える。
食べ物の味には執着しない性格。単に食事を残すのはよくないと思い、明の焼いたパンを完食した。
それがもとで明から好意を寄せられるが、乙女の恋心にはまったく気づかない鈍感ぶり。
フェリックス・マレ
スイス系フランス人。27歳。周囲からは「フェリ」「フェリさん」と通称されている。
パリで修業し、上海経由で幕末の横浜へやってきたらしい。
東京・築地の外国人居留地に築地ホテルが開設されると、その料理長として招聘された。
一方、居留地内に自分の店フェリックス・ベーカリー(通称フェリパン舎)を営む。
年齢や性別によって差別することなく、明の味覚とセンスを高く評価している。
一見クールな美形だが、感情の起伏がずいぶん激しい。明が作ったパンの出来に感激したり、フランスパンの良さが日本では理解されないことに憤ってみたり。
五郎の受け入れに当初かなり難色を示すものの、本人に会うと、真のサムライを間近に見た喜びに萌えまくる。
佐助
銀座丸木屋の跡取り息子。パン作りの修業と称してフェリパン舎に入り浸り、仕事を手伝う。
明に好意を寄せているが、明からは友達か兄弟、もしくは同業の同志としか思われていない。
徳三(とくぞう)
フェリパン舎の職人。温厚な人柄。一緒に働く明を、父のように優しく見守っている。
お吟
もとは柳橋の売れっ子芸者。高級料亭・富岳楼を、女将に代わって切り盛りするやり手。明の理解者。
人力車夫をしていた弟を亡くし、形見の衣類を五郎にゆずる。
岩倉具視
言わずとしれた明治政府の大立て者だが、依然として直衣に烏帽子の公家姿。
鷹揚な殿様として振る舞いながら、観察眼は鋭く、穏やかな口調で毒舌を吐く。
出店の便宜を図るなどフェリの後援者であるが、無理難題を押しつけることも多く、フェリには「今まで会った日本人の中で最も食えない人物」と評される。明にも、苦手な人と敬遠されている。
清水卯吉(しみずうきち)
元新選組隊士、年若い。斎藤一の従者として共に会津戦争を戦い、降伏後の斗南移封にも同行した。
(※実在人物。慶応3年秋頃に入隊、年齢や出身地は不詳。降伏後の消息も伝わっていない。)
五郎を今も「斎藤先生」と呼び、心服している。
郷里に帰るよう諭されても聞き入れず、五郎の身辺をあれこれ世話している。料理が得意。
密偵の任務に時間を充てたい五郎が、卯吉をフェリパン舎に連れてきてパン作りの手伝いをさせたところ、器用で飲み込みが早いため重宝される。
原田左之助
もとは新選組の十番組長。(※先年、新選組内の小隊は八番までだったとする考察が発表され、原田の役職は「小荷駄」の組頭から「七番」組頭に移行したと指摘されている。)
上野戦争に彰義隊の一員として参戦、死亡したと思われていたが、なんと生きていた。
突然に五郎を訪ねてきて、互いの無事を喜び合うものの、何やらワケありの様子。
永倉新八
松前脱藩、もとは新選組の二番組長。
戊辰戦争の折、新選組と決別し、靖共隊を組織して戦う。途中までは原田と一緒だった。
降伏後、松前藩への帰参が許され、藩医・杉村家の婿養子となり、福山(松前)に移り住んだ。
東京へ人捜しにやって来て、偶然に朋友の原田と再会する。
元新選組隊士では、ほかに「梶谷」「吉田」と呼ばれる2人組が登場。
食い詰めて過激攘夷派の用心棒に雇われ、五郎を探す明を見咎め、危害を加えようとする。
この2人は、戊辰戦争の際に銚子で高崎藩に降伏、放免後に勝海舟を訪れ金銭を借用したと伝わる梶谷麟之助と吉田泉(俊太郎)がモデルと推測される。
また、新選組時代の回想シーンに、土方歳三や沖田総司が登場する。
土方は、怜悧な策士であり、斎藤に密偵役を命じた上司。
沖田は、ざっくばらんに振る舞いながらも、油断ならない雰囲気を漂わす同輩。
伊東甲子太郎は、1コマのみ登場するが、台詞はない。
近藤勇もちらっと出てくるが、台詞がない上、なぜか顔の下半分や後ろ姿しか見えない。
会津戦争・如来堂の場面では「新井」「池田」という隊士が出てくるが、かなり引きのコマなので容貌ははっきりしない。当地で戦死したと伝わる新井破魔男と、脱出して生きのびた池田七三郎(稗田利八)と推測される。
さらに、如来堂には前述の吉田俊太郎もいたはずで、よく見るとそれと思しき人物が描かれている。
新選組以外の実在人物では、過激攘夷派の愛宕通旭と外山光輔、古賀十郎、中村恕助、堀内誠之進が登場。彼らの密謀は、後に「二卿事件」として知られることに。
また、山縣有朋や中村半次郎(桐野利秋)も登場する。
連載7回までの登場人物はこういう状況だが、今後は上記の新選組隊士らが再登場するのか、あるいは新たに登場する元隊士もいるのか、楽しみである。
例えば、安富才助や中島登、島田魁、川村三郎(近藤芳助)、市村鉄之助、立川主税、三木三郎や阿部隆明あたりが出てきたら面白いだろう。
もしくは、永井尚志、榎本武揚や大鳥圭介など隊士を知る人物、佐藤彦五郎や沖田みつなど親類縁者も良さそう、などと想像をめぐらせてみる。
明にとって、フェリパン舎は唯一の居場所であり、共に働く奉公人たちは家族のような存在である。
だからこそ彼女は、まかない(食事)も自ら心を込めて作る。
五郎に不審な行動があっても何も聞かず、ただ「夕食は必ず皆で一緒に食べてください、それがフェリパンの掟です」と宣言して食事を出す。
食べ物の美味い不味いに興味のない五郎にも、明のパンや手料理の味わいは伝わるのだった。
この場面に込められた思いが、作品タイトル『一の食卓』の由来なのだろう。
明治初年、政治も人々の暮らしも安定しない新生日本が、本作には描かれている。
登場人物たちは、それぞれ経歴も境遇も異なるが、己の過去にどう区切りをつけ、新時代をどう生きていくのかを模索している、という点で共通している。
その中で、藤田五郎は何のために政府の密偵として働くのか、明やその他の人々との関わりによってどう変わっていくのか、今後の展開が興味深い。
行き場の定まらない清水卯吉や原田左之助も、自分なりの着地点を見出すことができればよいと思う。
明の片想いは、おそらく実らずに終わるのだろう。
それでも、めげずに日本一のパン職人を目指して、幸せになってもらいたい。
日本は、明のような人々の生きる力によって築かれた。そこに今、我々が生きている。
白泉社刊『メロディ』(偶数月刊)に、2014年8月号より連載中。
2015年3月、単行本(花とゆめCOMICS)第1巻が刊行された。
2015年9月、第2巻が発刊。
2016年3月、第3巻が発刊。
2016年11月、第4巻が発刊。
2017年5月、第5巻が発刊。
2018年2月、第6巻が発刊。
[追記 2017/12/11]
本作の連載は、『メロディ』2017年12月号をもって終了した。
作者コメントに「今回で一応、第一部終了という事で続きはまたいずれ」とある。






パン職人の少女・明(はる)と、元新選組の斎藤一こと藤田五郎が、明治の世を生きていくさまを描く。
樹なつみの作品は、少女マンガらしい華やかなキャラクターが印象に残る。
のみならずストーリーも面白い。特に、心理戦や政治的な駆け引きの描写が、個人的に好みだ。
主人公が一本気で正直な人物であっても、脇の味方や敵には権謀術数に長けた者がいて、目的達成のため様々な手段を用いて闘う。時には、世界規模の壮大な争いが繰り広げられる。
このような闘争を絵にするのは難しいだろうが、それを巧みに描き出すのが作者の才能と感じる。
この作者が、新選組の生き残り・斎藤一を登場させ時代ものを描くと知って、興味を惹かれた。
幕末の慶応4年(1868)、上野戦争によって戦災孤児となった少女・明。
仏人フェリに助けられ、彼の営むベーカリー「フェリパン舎」で働くことに。
懸命に修業し、15歳にしてパン職人の才能を開花させ、店を切り盛りできるまでに成長した。
そんな明治4年(1871)のある日。
築地ホテル館を訪ねた明は、岩倉具視からひとりの男を紹介される。
長身に黒衣をまとい、昏い眼をした無表情な男は、どこか狼を思わせた。
「下男でもよいから、この男をフェリパン舎に置け」と命令され、困惑し憂鬱になる明。
しかし男は、明が焼いたパンを完食した。当時、フランスパンは「皮が固く食べにくい」と不評だったにもかかわらずのことであり、これをきっかけに明の警戒心が解ける。
「藤田五郎」と名乗ったその男は、両刀を置き、身なりを改め、住み込みの下男となった。
納品(配達)や薪割りなど力仕事を任され、寡黙ながらよく働くものの、何やら隠し事がある様子。
ある日の夕方、新島原(新富町の花街)へ五郎を探しに行った明は、怪しい浪人の2人組に捕まる。
言いがかりをつけられ、斬り殺されそうになったところを救ったのは、五郎だった。
五郎には公にできない前歴や秘めた目的がある、と気づいてしまった明だが、本人にそれを問い質すことはできなかった。もし穿鑿すれば、この人は出て行ってしまう。二度と会えなくなる。
それならいっそ何も知らずにいたほうがよいと思うほど、明の心は彼に惹かれ始めていた。
主な登場人物については、以下のとおり。
西塔明(さいとうはる)
苦労に負けず前向きに頑張る、おきゃんな15歳。
もとは江戸・谷中の長屋に住む夫婦の一人娘。父親は、不忍池近くで水茶屋商売をしていた。
上野戦争の際、彰義隊の残党に両親を斬殺され、火の中に呆然と立ち尽くしていたところ、別の彰義隊隊士に救い出された。路傍で、たまたま通りかかったフェリに拾われる。
フェリの恩に報いようと懸命に働き、パン作りの秘伝を教わるほどになった。それを嫉んだ他の職人たちが「色仕掛けで取り入った」と中傷し出ていったため、人手不足の店を切り回すのに苦労している。
フランス料理も勉強中。フェリからもらった耳飾り(ピアス)をつけている。
名字を名乗ったのは明治3年から。「西塔」は、母の出身地の村名に因む。
藤田五郎
もとは新選組の三番組長・斎藤一。
会津には特別な思い入れがあるらしく、戊辰戦争では会津に残って戦い続けた。
降伏後、どういう経緯があったものか、薩摩藩・西郷隆盛の配下となり、西郷の命によって川路利良の密偵となる。しかも背後には大久保利通がいるという、複雑怪奇な立場に置かれている様子。
東京では本郷に住まいを持ち、新選組時代からの従者・清水卯吉に家内を任せていた。
任務のため、フェリパン舎に下男として入り込むが、同舎の人々を巻き込んではいけないと考える。
食べ物の味には執着しない性格。単に食事を残すのはよくないと思い、明の焼いたパンを完食した。
それがもとで明から好意を寄せられるが、乙女の恋心にはまったく気づかない鈍感ぶり。
フェリックス・マレ
スイス系フランス人。27歳。周囲からは「フェリ」「フェリさん」と通称されている。
パリで修業し、上海経由で幕末の横浜へやってきたらしい。
東京・築地の外国人居留地に築地ホテルが開設されると、その料理長として招聘された。
一方、居留地内に自分の店フェリックス・ベーカリー(通称フェリパン舎)を営む。
年齢や性別によって差別することなく、明の味覚とセンスを高く評価している。
一見クールな美形だが、感情の起伏がずいぶん激しい。明が作ったパンの出来に感激したり、フランスパンの良さが日本では理解されないことに憤ってみたり。
五郎の受け入れに当初かなり難色を示すものの、本人に会うと、真のサムライを間近に見た喜びに萌えまくる。
佐助
銀座丸木屋の跡取り息子。パン作りの修業と称してフェリパン舎に入り浸り、仕事を手伝う。
明に好意を寄せているが、明からは友達か兄弟、もしくは同業の同志としか思われていない。
徳三(とくぞう)
フェリパン舎の職人。温厚な人柄。一緒に働く明を、父のように優しく見守っている。
お吟
もとは柳橋の売れっ子芸者。高級料亭・富岳楼を、女将に代わって切り盛りするやり手。明の理解者。
人力車夫をしていた弟を亡くし、形見の衣類を五郎にゆずる。
岩倉具視
言わずとしれた明治政府の大立て者だが、依然として直衣に烏帽子の公家姿。
鷹揚な殿様として振る舞いながら、観察眼は鋭く、穏やかな口調で毒舌を吐く。
出店の便宜を図るなどフェリの後援者であるが、無理難題を押しつけることも多く、フェリには「今まで会った日本人の中で最も食えない人物」と評される。明にも、苦手な人と敬遠されている。
清水卯吉(しみずうきち)
元新選組隊士、年若い。斎藤一の従者として共に会津戦争を戦い、降伏後の斗南移封にも同行した。
(※実在人物。慶応3年秋頃に入隊、年齢や出身地は不詳。降伏後の消息も伝わっていない。)
五郎を今も「斎藤先生」と呼び、心服している。
郷里に帰るよう諭されても聞き入れず、五郎の身辺をあれこれ世話している。料理が得意。
密偵の任務に時間を充てたい五郎が、卯吉をフェリパン舎に連れてきてパン作りの手伝いをさせたところ、器用で飲み込みが早いため重宝される。
原田左之助
もとは新選組の十番組長。(※先年、新選組内の小隊は八番までだったとする考察が発表され、原田の役職は「小荷駄」の組頭から「七番」組頭に移行したと指摘されている。)
上野戦争に彰義隊の一員として参戦、死亡したと思われていたが、なんと生きていた。
突然に五郎を訪ねてきて、互いの無事を喜び合うものの、何やらワケありの様子。
永倉新八
松前脱藩、もとは新選組の二番組長。
戊辰戦争の折、新選組と決別し、靖共隊を組織して戦う。途中までは原田と一緒だった。
降伏後、松前藩への帰参が許され、藩医・杉村家の婿養子となり、福山(松前)に移り住んだ。
東京へ人捜しにやって来て、偶然に朋友の原田と再会する。
元新選組隊士では、ほかに「梶谷」「吉田」と呼ばれる2人組が登場。
食い詰めて過激攘夷派の用心棒に雇われ、五郎を探す明を見咎め、危害を加えようとする。
この2人は、戊辰戦争の際に銚子で高崎藩に降伏、放免後に勝海舟を訪れ金銭を借用したと伝わる梶谷麟之助と吉田泉(俊太郎)がモデルと推測される。
また、新選組時代の回想シーンに、土方歳三や沖田総司が登場する。
土方は、怜悧な策士であり、斎藤に密偵役を命じた上司。
沖田は、ざっくばらんに振る舞いながらも、油断ならない雰囲気を漂わす同輩。
伊東甲子太郎は、1コマのみ登場するが、台詞はない。
近藤勇もちらっと出てくるが、台詞がない上、なぜか顔の下半分や後ろ姿しか見えない。
会津戦争・如来堂の場面では「新井」「池田」という隊士が出てくるが、かなり引きのコマなので容貌ははっきりしない。当地で戦死したと伝わる新井破魔男と、脱出して生きのびた池田七三郎(稗田利八)と推測される。
さらに、如来堂には前述の吉田俊太郎もいたはずで、よく見るとそれと思しき人物が描かれている。
新選組以外の実在人物では、過激攘夷派の愛宕通旭と外山光輔、古賀十郎、中村恕助、堀内誠之進が登場。彼らの密謀は、後に「二卿事件」として知られることに。
また、山縣有朋や中村半次郎(桐野利秋)も登場する。
連載7回までの登場人物はこういう状況だが、今後は上記の新選組隊士らが再登場するのか、あるいは新たに登場する元隊士もいるのか、楽しみである。
例えば、安富才助や中島登、島田魁、川村三郎(近藤芳助)、市村鉄之助、立川主税、三木三郎や阿部隆明あたりが出てきたら面白いだろう。
もしくは、永井尚志、榎本武揚や大鳥圭介など隊士を知る人物、佐藤彦五郎や沖田みつなど親類縁者も良さそう、などと想像をめぐらせてみる。
明にとって、フェリパン舎は唯一の居場所であり、共に働く奉公人たちは家族のような存在である。
だからこそ彼女は、まかない(食事)も自ら心を込めて作る。
五郎に不審な行動があっても何も聞かず、ただ「夕食は必ず皆で一緒に食べてください、それがフェリパンの掟です」と宣言して食事を出す。
食べ物の美味い不味いに興味のない五郎にも、明のパンや手料理の味わいは伝わるのだった。
この場面に込められた思いが、作品タイトル『一の食卓』の由来なのだろう。
明治初年、政治も人々の暮らしも安定しない新生日本が、本作には描かれている。
登場人物たちは、それぞれ経歴も境遇も異なるが、己の過去にどう区切りをつけ、新時代をどう生きていくのかを模索している、という点で共通している。
その中で、藤田五郎は何のために政府の密偵として働くのか、明やその他の人々との関わりによってどう変わっていくのか、今後の展開が興味深い。
行き場の定まらない清水卯吉や原田左之助も、自分なりの着地点を見出すことができればよいと思う。
明の片想いは、おそらく実らずに終わるのだろう。
それでも、めげずに日本一のパン職人を目指して、幸せになってもらいたい。
日本は、明のような人々の生きる力によって築かれた。そこに今、我々が生きている。
白泉社刊『メロディ』(偶数月刊)に、2014年8月号より連載中。
2015年3月、単行本(花とゆめCOMICS)第1巻が刊行された。
2015年9月、第2巻が発刊。
2016年3月、第3巻が発刊。
2016年11月、第4巻が発刊。
2017年5月、第5巻が発刊。
2018年2月、第6巻が発刊。
[追記 2017/12/11]
本作の連載は、『メロディ』2017年12月号をもって終了した。
作者コメントに「今回で一応、第一部終了という事で続きはまたいずれ」とある。
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