新選組の本を読む ~誠の栞~

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 伊藤春奈『幕末ハードボイルド』 

研究本。副題『明治維新を支えた志士たちとアウトロー』。
維新という革命に参加した人々の中でも「博徒」「侠客」「遊侠」などと呼ばれる階層に着目し、彼らが歴史の中で果たした役割を解説する。新選組に関連した項目あり。

博徒や侠客と、新選組との間にいかなる関わりがあったのか。
とっさに閃かなくとも、「会津の小鉄」や「水野弥太郎」の名を思い出せたら合点がいくだろう。
彼ら幕末アウトローの実像とその社会的背景について、本書はわかりやすく説明している。

内容は全5章。各章が4~7節に分かれ、さらに各節は数項目に分かれている。
各章の大まかな内容は、以下のとおり。

第一章 幕末――やくざの時代
博徒や侠客が日本社会に誕生した経緯と、その活動が幕末に活発化した事情。
反社会的な存在であるにもかかわらず、民衆にもてはやされた理由。

第二章 「諸隊」の誕生――武士の身代わりとして
幕末、武士以外の階層が政治的発言力を獲得。多くの諸隊が誕生し、そこに博徒・侠客が所属した。
  • 高杉晋作の奇兵隊(長州藩)
  • 大鳥圭介の伝習隊(幕府陸軍)
  • 古屋佐久左衛門の衝鋒隊(幕府陸軍)
  • 細谷十太夫の「からす組」こと衝撃隊(仙台藩)
  • 近藤実左衛門と集義隊(尾張藩)
  • 黒駒勝蔵と赤報隊(草莽、薩摩藩系)

第三章 片肌脱いで武士を助ける
日柳燕石… 高杉晋作など多くの志士を援助。富商、教養人、讃岐博徒の親分でもあった異色人物。
大分の灘亀… 彼の世話になった井上馨が、後年ゆかりの人々を訪問した事情。
水野弥太郎… 高台寺党(御陵衛士)との結びつき。赤報隊に加わった顛末。
新門辰五郎… 勝海舟に協力し、新政府軍の江戸城総攻撃に備え、江戸市中の治安や防災に努める。
口入屋「相政」相模屋政五郎… 土佐藩主・山内容堂と親交を結ぶ。稼業を通じて人足たちを救済した。

第四章 「遺体の埋葬」というタブーを打ち破る
会津の小鉄… 会津藩出入りとなった経緯。鳥羽・伏見に参戦後、会津・桑名藩の戦死者を埋葬した。
清水次郎長… 咸臨丸の幕兵遺体処理。山岡鉄舟との出会い。大親分・安東の文吉よりも有名になった事情。
三河屋幸三郎… 八丈島生まれ、神田育ちの侠商。彰義隊の戦死者を埋葬。『説夢録』の原稿を託される。
柳川熊吉… 大岡助右衛門とともに、箱館戦争後の旧幕戦死者を埋葬、地元の発展に尽くす。榎本武揚との親交。
明石屋万吉(小林佐兵衛)… 大坂の賭場荒らし、米相場潰しで名を上げ、治安や消防にも尽力。毛利家の依頼により、長州藩士の遺骨を回収。

第五章 アウトローの明治維新――破壊から再生へ
幕末から明治初期にかけての混乱期、社会奉仕や貧民救済を行なうアウトローが現われた。
近代化の過程における崩壊と再生の中、「公共」の担い手が不足した時期に、彼らがその役割を果たした。
大前田英五郎、飯岡助五郎、小金井小次郎、清水次郎長、会津の小鉄、小林佐兵衛(明石屋万吉)といった実例を挙げる。

このほかに「コラム」と銘打った別項5編が収録されている。
おおよその内容は、下記のとおり。

講談から時代劇へ
アウトローの活躍を描いた講談が、浪曲、時代小説、映画やドラマなどへ発展。
大衆文化に多大な影響を及ぼしてきた。

浪士組上洛の道中で起きた「抗争」
江戸帰還後の浪士組において、山本仙之助(祐天仙之助)が「父の仇」として大村達尾に討たれた経緯。
士分でなくとも剣術を学び、政治参加を目指す人々が増加した、幕末の実情。

お台場の裏面史に名を残した「台場やくざ」
品川沖に台場の築造を急ぐ工事に際し、多数の人足を調達した「大場の久八」。
そこには、代官・江川太郎左衛門英龍の優れた人材登用術があった。

義侠の僧、地元の戦死者を弔う
国定忠治ゆかりの僧・田村仙岳の生涯。元治元年の下仁田戦争後、高崎藩の戦死者を供養した。
また、明治2年、年貢軽減を求めた農民たちの一揆・五万石騒動では、交渉役として奔走した。

再び戦地へ――近代やくざとメディア戦略
昔ながらの親分衆が現役を退いて以降の、時代の推移とアウトローの変容。
産業(土建・炭鉱)、政治(自由民権運動)、軍事(西南戦争・日清戦争・日露戦争)との関わり。

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一般的に「博徒」「侠客」と聞いてイメージしやすいのは、時代劇の義侠的ヒーロー、もしくはイカサマ博打をしたり匕首を振り回したりするチンピラだろうか。
しかし実際は、そうしたパターンに収まりきれない多様な面を持っている。

そもそも彼らアウトローは、体制からはみ出しながらも、地域共同体の一員であった。
彼らと堅気との間に、黒白はっきりした区別はない。表向き正業を持ちつつ裏世界で活動する者も多く、表裏を巧みに使い分けていたようだ。社会の側も、さまざまな理由からそれを容認していた。
(新選組の面々も、彼らと隣り合わせに生きていた、と言えよう。)
このあたりの事情は、本書を読むとわかりやすいと思う。

博徒や侠客に関して、信頼できる史料は少ない。
反社会的な側面を忌避され、記録に残されず忘れられていくケースが多いのだろう。
ヒーロー扱いの有名人の場合も、記録には脚色が交じり、どこまでが事実かわかりにくい。
いきおい、この分野の研究は困難にならざるをえないが、その中で本書は丹念に調査された労作と感じた。

読者の理解を助ける工夫もされている。
関連年表(文化2年の関東取締出役設置から明治26年の清水次郎長死去まで)と、幕末期の日本地図(旧国名、主要な街道・地名・藩名を記載)が巻頭に載っており、なかなか重宝する。

個々の人物や出来事については、より詳細に記述した類書もあるだろう。
ただ、本書は多くの実例から「幕末アウトロー」の体系化を試みている様子で、その点が優れていると思えた。
頭の中の漠然としたイメージやまとまりのない情報が、本書によってかなり整理された気がする。

本書は、「幕末アウトロー」を徒に美化しておらず、善悪の二元論で断じてもいない。功罪両面を客観的に指摘し、どちらともつかない実像をありのまま提示している。
また、著者の主観に偏らず、多くの史料文献にあたり、歴史的事実を描き出そうとしている。かといって、学術論文のように取っつきにくいわけでなく、読みやすい上、そこはかとない余韻を残す。
バランスの良さを感じた。

余談ながら、会津の小鉄が会津藩や新選組の情報収集、諜報活動に関わっていたとすれば、その実態がいつか解明されて欲しいと思った。
諜報活動が秘密裏に行われる以上、そんな記録はなかなか残らないだろうが。

2016年、原書房より刊行された。四六判ソフトカバー。

※本書に用いられている漢字「俠(イ+夾)」は環境依存文字であるため、本項では「侠」で代用した。

※幕末の博徒・侠客に興味を持たれた向きには、以下もオススメ。
子母澤寛『新選組始末記』… 祐天仙之助の前歴や討たれた経緯を詳述した章がある。
子母澤寛『行きゆきて峠あり』… 榎本武揚の前半生を描く長編小説。柳川熊吉について詳しい。
飯干晃一『会津の小鉄』… 小鉄の生涯を描いた長編小説。新選組の面々も登場。
北方謙三『草莽枯れ行く』… 赤報隊の相楽総三と清水次郎長が主軸の長編小説。黒駒勝蔵や新門辰五郎も登場。
司馬遼太郎『アームストロング砲』… 侠客・鍵屋万助を描く短編「侠客万助珍談」を収録。万助のモデルは明石屋万吉。その後、万吉を主人公とした長編「俄 浪華遊侠伝」も著わされた。

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