新選組の本を読む ~誠の栞~

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 南條範夫「孤高の剣鬼」 

短編小説。幕末動乱期に生き方を模索し続けた、天才剣士・沖田総司の生涯を描く。

ある日、試衛館を訪ねてきた二十歳前後の青年剣士は、沖田総司と名乗る。
その剣技はすでに熟達しており、近藤勇は他の有名道場への入門を勧める。
しかし沖田は、動乱の世をいかに生きるべきか、近藤の教えを乞いたいと言う。
入門を許された彼は、直ちに師範代に抜擢された。

浪士組への加盟、新選組の結成、芹沢鴨暗殺、そして池田屋事件。
この戦いで沖田は喀血し、自分の命があまり長くないことを悟る。

新選組の名が世に知れ渡るにつれ、隊務も苛烈を極めた。
浪士狩りのみならず、内部粛清も増え、隊規に反した者は容赦なく処分されてゆく。
その一方で、近藤・土方をはじめとする幹部らは傲岸となり、酒色に耽り、汚濁にまみれていく。
酒も女も近づけない沖田は、それを悲しい思いで受け止めていた。
元同志の伊東甲子太郎らをも暗殺する近藤・土方の冷酷さには、最早ついて行けないものを感じていた。

鳥羽伏見戦争では、彼も戦闘に臨んだものの、ひどく喀血して退くことになる。
江戸で療養する日々、かつて通った町医者の娘おりつ、一橋慶喜に使える奥女中おみのとの、恋とも言えない淡い思い出が、脳裏に去来する。

病と闘い、人斬りの毎日に倦み疲れ、尊敬していた近藤の堕落した姿を見せつけられ、恋した女に告白することもなく、唯一の拠り所としていた剣も役に立たない時代の到来を知ることになる。
本作の沖田には、生きてきて良かったと思えることが何ひとつなかったようだ。哀しすぎる。

導入部、武州・日野の親戚の家で育った沖田が、近藤の評判を聞き試衛館を訪ねてきたのが初対面とされている。
これほど有望な青年剣士の存在を、日野に地縁のある近藤・土方が全然知らなかったというのは、かなり不自然な設定である。

本作の後に著された長編『十五代将軍 沖田総司外伝』と、共通のモチーフが見られる。
一橋慶喜に仕えるおみのの存在、近藤・土方の堕落あるいは非道ぶりなど。
ちなみに作者は、経済学者として中央大学、國學院大學の教授を務めてもいたそうだ。
このようなアカデミズム系の作家には、新選組を否定的に扱う傾向が多く見られるように思う。

初出は新人物往来社『歴史読本』1969年(昭和44)7月号。
作者の短編集『孤高の剣鬼』が、桃源社(1970)、徳間文庫(1994)から刊行された。
本作を含め、剣豪・剣客を描いた9編を収録する。
他8編は「塚原卜伝」「不肖の弟子」「霞の太刀」「丹田斬法」「伊藤一刀斎」「剣獣」「江戸ッ子旗本」「欅三十郎の生涯」であり、新選組とは無関係。

アンソロジー『幕末剣豪人斬り異聞 佐幕篇』(菊池仁編/アスキー/1997)、アンソロジー『沖田総司読本』(新人物往来社/1990)、ムック『別冊歴史読本 幕末明治剣客剣豪総覧』(新人物往来社/1999)にも本作が収録されている。

孤高の剣鬼
(徳間文庫)




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