新選組の本を読む ~誠の栞~

小説 史談 エッセイ マンガ 研究書など

 広瀬仁紀『適塾の維新』 

長編小説。緒方洪庵の適々斎塾に学んだ若者、鶴見斧吉と武田太郎を中心に、ふたりをめぐる人々が幕末動乱の舞台に織りなす人間模様を描く。

下野小山の名主の子・鶴見斧吉と、南部盛岡出身の武田太郎。
ふたりは適塾の同期生として知りあい、共に勉学に励むうち、親友となる。

斧吉と太郎は、洪庵の勧めに従って長崎の医学伝習所へ移り、西洋医学を学ぶ。
その後、松本良順に半ば強制され、京都に共同開業して、貧しい庶民のために医業を行う。
洛中では、佐幕派と倒幕派との抗争の嵐が吹き荒れていた。
ふとしたことから沖田総司と知りあったふたりは、新選組の傷病者を度々往診するようになり、彼らと信頼関係を築いていく。
鳥羽伏見戦争では、新選組の負傷者を搬送して、江戸へ同行した。

江戸では、進駐してきた官兵の一団に、患者の娘が暴行されて死んだ。
憤激した斧吉は、土方歳三らの脱走に同行し、旧幕軍の軍医となって北関東から奥羽、箱館へも従軍する。

一方、江戸に残った太郎は、斧吉の安否を気遣いながらも、福沢諭吉の慶應義塾で教鞭を執る。
さらに、彰義隊の負傷者を手当てし、病床の沖田を看護した。
やがて――

幕末の青春像が、熱く鮮やかに、時にはユーモラスに活写された、壮快な名作である。
ふたりの主人公の個性の違いが、面白い。
慎重な斧吉が旧幕軍に従軍し、無鉄砲な太郎が江戸に残って人々を助けるという、性格に反した行動ぶりも、良い意味で期待を裏切る。
ふたりの先輩格として登場する福沢諭吉のディベート大好きな弁論家ぶり、松本良順の伝法で型破りな言動など、他の人物像も巧みに描き出されている。

新選組の面々との交流の場面も、多い。
無邪気で人懐こい沖田総司、冷徹を装う人情家の土方歳三、世に恐れられながら実は温和な近藤勇、誠実で有能な山崎蒸などが登場し、主人公らと様々に交流を持つ。

作者の文壇デビュー第一作であるが、後に発表された『沖田総司恋唄』など一連の新選組ものの下地は、すでに完成している。
近藤と松本良順との出会い、会津での土方と斎藤一との別離、仙台での土方と良順との別離などといった描写は、後の『土方歳三散華』『新選組風雲録』などにも共通する。

主人公らが生涯「適塾の精神」を貫き通し、医業に携わりつつ京都時代を懐かしく振り返る結末は、しみじみと感動する。
彼らのように権威権力とは無縁のまま市井に生きた人間も、歴史の担い手であったと感じた。

架空の人物である主人公が実在の著名人物と絡む話なので、読者にとって感情移入しやすいと思う。
読者の代理として幕末を生きる主人公、しかも職業は医者。村上もとか『JIN -仁-』を、ちょっと連想した。

学芸書林より単行本(1976)が出版された当時には、『福澤諭吉別伝』と副題が付いていた模様。
富士見書房・時代小説文庫(上・下巻/1983)では、副題は無い。
第76回直木賞の候補作でもあり、また復刊されて欲しい。

適塾の維新 上


適塾の維新 下



長編小説の関連記事

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

たくさん本を紹介していただいて有難うございます。来年もよろしくお願い致します。

2011/12/31(Sat) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん
旧年中はご高覧ありがとうございました。
本年もよろしくお願い申し上げます。

おかげさまで、昨年の目標=100タイトル紹介を達成できました。
この程度の記事ながら、毎日書くのはちょっと大変でした。
今年は頻度をやや控えめにして、より良い内容を実現できるよう
頑張りたいと思います。

2012/01/01(Sun) |URL|東屋梢風 [edit]

Trackback

トラックバックURL:https://bookrest.blog.fc2.com/tb.php/101-5ed506a1


back to TOP