新選組の本を読む ~誠の栞~

小説 史談 エッセイ マンガ 研究書など

 古川薫「池田屋事件の二人」 

中編小説。副題「沖田総司と吉田稔麿」。後に改題「三条河原町の遭遇」(後述)。
幕末維新期にそれぞれの道を歩んできた2人の青年の、運命的な邂逅を描く。

ストーリーは現代、京都を訪れた作者が、あちこち探しあぐねた末に池田屋跡に辿り着き、現状を見て幕末に思いを馳せるところから始まる。
続いて安政3年に遡り、沖田総司と吉田稔麿、それぞれの人生が年代を追って交互に描写されていく。
そして最後、池田屋における両者の対決に至る。

新選組隊士と長州志士、政治的には対極にある二人。
年齢は互いに近いものの、出自や境遇に特筆するような共通点があるわけではない。
2人は偶然に敵として出会い、戦った。
1人は命を落とし、もう1人は勝ったものの、その後長くは生存できず病没した。
事実はただそれだけである。
(実際に直接対決したかどうかは不明だが、その点は本作では重視されていない。)

しかし、そこに至るまでの両者の人生が対比的に描かれることによって、人知の及ばない運命の不思議さが醸し出される。
さらに、様々に苦労しつつ目標と上昇志向を持って努力した、という生き方が共通している。
この生き方の根本が、時代を牽引した幕末青春像の普遍性を感じさせる。

些細なことだが、安政5年、15歳の沖田が初めて人を斬る逸話は、やや粗っぽく強引な展開に思えた。
相手が先に抜刀しようと、近藤勇が一緒にいて、そう簡単に斬り合いになるだろうか。
史料が乏しく、詳しい経歴が伝わっていない以上、創作が多いのはやむを得まい。
ただ、もう少しリアリティを出す工夫があっても良さそうな気がした。

本作は、新人物往来社刊『沖田総司 剣と愛と死』(1975)に収録されている。
この本は、3人の作家がそれぞれ沖田について書く共著書として企画された。
ほか2人による収録作品は↓
◆滝口康彦「青い落日――沖田総司」
◆石沢英太郎「沖田総司を研究する女」

作者はその後、本作を全面改稿し、改題「三条河原町の遭遇」として発表した。
改稿前との違いは、おおよそ下記のとおり。
  • 導入部、作者の池田屋跡探訪の体験談が、ほとんど削除された。
  • 背景的な政局の説明は、やや簡略化。
  • 吉田稔麿の脱藩~復籍の経緯が大きく書き換えられ、毛利定広に代わって桂小五郎が登場する。
  • 文久3年~元治元年の吉田稔麿の行動について、解釈が変わる。
  • 池田屋の場面に、奥沢栄助の戦死、宮部鼎蔵の自刃が付け加えられた。
  • 終結後に関する説明部分が、削除された。
このほか、文末表現や接続詞などに、細かい違いが見られる。

改題「三条河原町の遭遇」は、作者の中編小説集『狂雲われを過ぐ』に収録。
新人物往来社より単行本(1988)、次いで新潮文庫(1991)として出版された。
本作改題のほかに、赤根武人の贈位が実現しなかった理由を探る表題作「狂雲われを過ぐ」、大久保利通と西郷隆盛との関係の変化を描く「秋霜の隼人」が収録されている。



狂雲われを過ぐ
(新潮文庫)




短編小説の関連記事

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

Trackback

トラックバックURL:https://bookrest.blog.fc2.com/tb.php/105-d6e988a8


back to TOP