新選組の本を読む ~誠の栞~

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 司馬遼太郎『歴史と視点』 

史論ふうのエッセイ集。副題『私の雑記帳』。
小説執筆の源泉である作者の歴史的考察あれこれを、思うままに綴った10編を収録。
このうち、新選組に関連するのは「見廻組のこと」「黒鍬者」の2編。

「見廻組のこと」 
新選組と、同時期に同じ目的を持つ組織として京都に置かれた見廻組を、比較して論じる。

新選組は、いわば階級社会の下層で鬱屈していたエネルギーの発露であった。
志さえあれば上昇の可能性を得られた代わりに、その志を常に誇示する必要に迫られており、だからこそ勇猛果敢に戦った。
それに対して見廻組は、幕臣の子弟で構成され、従来の幕府組織の延長上にあった。
そのため、危機意識は低く、組織としての機能性も高くなかった、という。
さらに、見廻組が実行した坂本竜馬暗殺の真相、指揮官・佐々木唯三郎の人物像と出自の関連、会津藩の藩風などに話題が及ぶ。

作者の佐々木唯三郎に対する見解、幕末の抜擢人事で取り立てられた人物達の共通点に関する考察が、興味深い。
見廻組の活動記録は少なく、清河八郎暗殺(結成以前)と、坂本竜馬暗殺以外に目立った痕跡がない、と作者は指摘している。
決して無為徒食していたわけではなく、慶応元年に大坂市中でテロ計画を企てていた土佐系浪士を捕縛したり、膳所事件の際に出動したり、といったこともあったようだが、新選組ほど目立った活躍が見られないのはどうやら事実のようだ。
そのせいか、見廻組の通史で詳しい研究書というと、『京都見廻組史録』(菊地明/新人物往来社/2005)が目につくくらいである。

「黒鍬者」
甲陽鎮撫隊の始末から書き起こし、土方歳三が応援を求めた菜葉隊の隊長、江原素六について語る。
江原家は、「黒鍬」という最下級の御家人であり、その生活ぶりは赤貧洗うが如しであったという。

作者が『燃えよ剣』の甲州勝沼戦争(慶応4年3月)の場面で、近藤勇を多く描いて、肝心の主人公・土方歳三の動静を省筆した理由が語られており、興味深い。
通説では、この時の土方は、神奈川(現在の横浜)に駐屯する菜葉隊へ応援を要請するため、戦陣を離れ甲州街道を引き返した、とされている。
作者は当初、菜葉隊の隊長が江原素六と思い込み、神奈川で江原と土方が面談する場面を描こうと考えた。
しかし調べてみると、その頃の江原は江戸にいて、神奈川にいた節は見られない。
江原が面白そうな人物なので、なおあれこれ調べているうち、土方の動静を追う機会を逸してしまった模様。
後日、江原が菜葉隊にいたのはずいぶん前(文久2年頃)だったと判明し、落胆したという。

江原素六は、明治期に教育者として活躍したため詳しい伝記もあり、調べてみると確かに面白い。
それはそうと、土方歳三が菜葉隊に応援を求めて神奈川へ行った、という事実はない。根拠は2点ある。

1.勝沼から甲州街道を下ってきた彼が、日野を通過し江戸へ向かったとする同時代史料が複数ある。神奈川へ行くなら八王子で横浜街道に進路を取るべきで、日野を通る必然性がない。
2.菜葉隊は慶応2年に解散し、所属人員はばらばらに他の部署へ転属させられてしまった。したがって、慶応4年には存在していない。
(参考:歳月堂『ふぃーるどわーく甲州』)


土方が向かった先は、江戸と考えるのが順当だろう。
だから、作者は『燃えよ剣』に、江戸で土方と江原が面談する場面を描けばよかったのではなかろうか。(当時の江原は撒兵隊の隊長。)
司馬遼太郎ほどの作家でも、的外れな思い込みにハマってしまい、調査が及ばなかったりすることがあるようで、なんとなく微笑ましく思った。(これを以て司馬作品の価値を云々するつもりはまったくないので、念のため。)

この他の収録作は、下記のとおり。
「大正生まれの『古老』」 日清・日露戦争~太平洋戦争と、日本人の精神性。
「戦車・この憂鬱な乗物」 太平洋戦争に出征した作者の体験談と、戦車に関する考察。
「戦車の壁の中で」 戦車部隊に配属された体験談と、戦車に反映された日本という国の在り方。
「石鳥居の垢」 戦車部隊での体験、軍部政策の拙劣と異常性、敗戦をめぐる思いの数々。
「豊後の尼御前」 大友宗麟の麾下、鶴崎城を守って島津軍に抵抗した吉岡妙麟尼のこと。
「長州人の山の神」 白井小助の人物像と、吉田松陰・山県有朋・品川弥二郎らとの交流。
「権力の神聖装飾」 威権と、それを守るために必要不可欠とされた典礼との関係の歴史。
「人間が神になる話」 天皇や公家の神聖性に対する、各時代の日本人の考え方。

新潮社から単行本(1974)、文庫本(1980初版/1991改版)が発行された。
文庫本は、改版後にカバーデザイン変更もなされた様子。

「見廻組のこと」は、日本ペンクラブ編アンソロジー『歴史の零れもの』(1994)にも収録されている。

歴史と視点
(新潮文庫)
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こんばんわ。
いつも有難うございます。
それにしても、凄い蓄積ですね。
どれだけ勉強してらっしゃるのか?
本当に凄い!!これほどの本を読み、的確な書評をして、更新も早いし・・・。
尊敬します。

2012/01/16(Mon) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさん

なおまゆさん
コメントありがとうございます。過分なお褒めを頂戴し、恐れ入ります。
なおまゆさんの足元にも及ばない浅学の徒ですので、
いろいろと調べて勉強するほど己の無知を痛感します。こんな私の発信でも
「新選組の本を読みたいが何を選べばよいか」「◯◯という本はどんな内容か」
といった情報を求めている方々のために、多少なりとお役に立てれば幸いです。
これからも精進していきたいと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

2012/01/17(Tue) |URL|東屋梢風 [edit]

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