新選組の本を読む ~誠の栞~

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 松浦玲『新選組』 

研究書。新選組の誕生から終焉にわたる実像を、近藤勇の書簡を主な根拠として究明する。

新選組の研究は、学術界から長らく排除されてきた。
賊軍、しかも草莽出身ときては、歴史に与えた影響など露ほどもなく、研究対象とする価値は皆無。
――つい最近まで、そう見なされていた。
新選組に興味を持ち歴史を学ぼうと志した高校生が、めでたく大学の史学科に入ったら、教授から「新選組なんか歴史じゃない」と全面否定され愕然とした、という笑えない実話を聞いたのも、とっくに平成になってからだった。

それでは、新選組研究はどのような人々が手がけてきたのかというと、いわゆる在野の研究家である。
作家やライター、もしくは著述業とは別の分野に本業を持つ人々が、調査・研究を行ってきた。
もしも彼らの活動が無かったとしたら、新選組の実像に迫る手がかりの数々は、年月に埋没し発掘困難になってしまっていたろう。

こうした状況が変わったのは、平成16年(2004)、NHK大河ドラマ「新選組!」がきっかけである。
ドラマ自体の評価は区々だろうが、大河ドラマの主役として取り上げられた影響は大きく、放映前年あたりから、学術界の研究者がようやく新選組を主題に著作を発表するようになった。
その第1号とも言えるのが、本書である。
幕末研究を専門とする学者が、学術研究書を多く手がける岩波書店から出版した、という意義は深い。

本書は、全5章にわたって新選組の通史を解説し、特にリーダー近藤勇の書簡からその思想を解き明かすことに主眼を置いている。
従来の研究では、沖田総司や土方歳三の書簡に比べると、近藤書簡は何故かなおざりにされていた。
『新選組史料集』に掲載されているものも断片的で、全文不明のものが多い。
著者がその原因を調べたところ、現存する書簡の多くを小島資料館が保有しており、同館長がいずれ研究書を刊行する予定であるため、全部は公開されてこなかったと知った。
そこで同館長に依頼し、内容を公表しない約束で読ませてもらい、自己の研究の資としたという。
(読者としてもそれら書簡の具体的内容を知りたいところだが、同館からまとまった研究書が出たとは未だ聞かない。)

幕末の政治史・思想史を専門とする著者だけあって、その観点からのアプローチは確かである。
新選組の出発点を思想集団と捉え、「尽忠報国」「尊王攘夷」といったスローガンの裏にある思想を分析し、かつその変容の過程を丁寧に追っている。
歴史における新選組の存在意義とは何か、文学的修辞ではなく学術的見地から明示した、初の一般向け啓蒙書ではないだろうか。

従前の研究書に対する異見の提示も多い。
井上松五郎(源三郎の兄)の日記にある「近藤が天狗になった」との記述を、慢心の意味ではなく芹沢鴨に影響され水戸天狗党の思想に染まったとする見解は、やや穿ちすぎのように思える。
(著者には確信的な理由があるようだが、本書の記述では今ひとつ明瞭でない。)
一方、新選組の組織体制、頻繁な大坂出張、禁門戦争直後の新選組の動向、松本良順と近藤との面談内容、伊東甲子太郎の九州行き、甲陽鎮撫隊と大久保一翁の関係など、非常に興味深い解釈・指摘も多々なされている。

本書の内容は、決して難解ではない。
従前の研究に反論する部分が多いので、できれば『新選組日誌』など先行の研究書を読んでおいたほうがよりわかりやすいが、本書を先に読んだとしても不都合はないだろう。
巻末の注釈、年表、索引など、読者の理解を助ける配慮もなされている。
新選組の実像に近づきたいなら、読んでおいて損はない。

新選組の学術的研究がこの時ようやく始まったからといって、在野研究が否定されたわけではない。
時々、学者の研究以外はすべて無価値と断ずるような声も聞くが、在野研究にも充実した成果は多数ある。
前述のとおり、もしも在野研究がなされてこなかったとしたら、学術研究も土台とすべきものが非常に限られ、成立し得なかった。
本書の著者も、在野研究を大いに参考にしたと認めている。
研究の価値とは、決して学術・在野の違いで決まるものではない。
レッテルにとらわれ、偏重主義に陥るべきではないだろう。

本書は、2003年発行の岩波新書、いわゆる書き下ろしである。

ちなみに、本書著者が監修する『新選組 知れば知るほど』(実業之日本社/1998)は、まったく内容の異なる別の図書である。
過って同一物として扱っているネット書店を見かけるので、要注意。

新選組
(岩波新書)
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