新選組の本を読む ~誠の栞~

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 松本零士『陽炎の紋章』 

長編マンガ。タイトル読みは「かげろうのもんしょう」。
謎多き来日外国人スネル兄弟(の弟)をモデルとする主人公と、幕府方の土方歳三、倒幕方の高杉晋作とが、相互に関わりつつ、それぞれの信念を貫いて幕末動乱の日本に生きる姿を描く。
他に実在モデルのいる人物として、近藤勇、沖田総司、野村望東尼、野津道貫などが登場。

1865年(慶応元年)、南北戦争終結直後のアメリカを、プロシャの武器商人エドワード・スネルが訪れる。
彼は、終戦により不要となった武器を大量に買い付け、横浜へと運ぶ。
その航海中、懲罰を受けていた乗組員クロウの身柄を引き取る。
ネイティヴ・アメリカンのクロウは、同胞を虐殺した白人に敵意を持っていた。
しかしスネルは、彼の誠実な人柄を見抜き、対等に扱う。

やがて駿河湾沖に到着、高杉晋作と落ち合い、注文されていた武器を引き渡した。

横浜に上陸し、久々に兄ヘンリーと再会したスネルを、土方歳三が訪ねてくる。
会津藩の注文によりスネルが持ち帰った銃砲類を確認すべく、江戸下りのついでに立ち寄ったのだった。
刺客に襲撃され、スネルは愛用の刀を損じる。
土方は、耐久性に優れた隕鉄合金の刀をスネルに贈った。その銘は「燦 天河無限」と切られ、刀身は星空のように輝く。
スネルは、クロウを土方に託し、日本で生きていけるようにしてやって欲しいと依頼した。

まもなく、スネルや土方、高杉の動向を監視し、命を狙う秘密結社の暗躍が明らかとなっていく。
それは、「闇の匠(ダークマイスター)」の意志であった。
「闇の匠」は、ある遠大な計画のため密かに来日しており、障害となる者を倒幕派・佐幕派問わず排除する挙に出たのだった。

スネルは、会津藩士となって京都に拠点を移し、次々襲い来る刺客と戦いながら、この国とサムライたちの行く末を見届けようとする。
だが、日本全土を覆い尽くす未曾有の大乱は、目前に迫っていた。

読めば最初にわかってしまうので明かすと、主人公スネルはジェンダーを偽装している。
服装や言動は男そのもので、わずかな例外を除き疑われることもない。
だが、ふとした拍子に(存在するはずのない)女の姿を目撃し、戸惑う者が続出。
徐々に、味方にも敵にも事実が知れていく。
スネルが男として行動し、高杉や土方ら日本人に命懸けで肩入れする理由は不明である。
ただ、故国では騎士、日本では武士の生き方に強く共鳴し、自らもそれに倣おうとしている。

本作の高杉晋作は、天衣無縫、陽気、病を抱えながらも酒と女を愛してやまない自由な冒険者。
一方の土方歳三は、折り目正しく、冷静沈着でストイック、近代武器にも関心の深いサムライ。
このふたりが偶然に一度だけ出会い、政治的には対極にあると知りながら、互いの人格を認め合う。

クロウは、強力な近代武器を持つ白人によって滅ぼされた一族の、唯一の生き残りである。
土方に付き従ってよく働き、新選組隊士として認められるものの、異境に独り生きる悲哀を背負う。
その姿は、日本人もまた同様に滅ぼされかねない危地にある、という警告のようにも見える。

ストーリー展開に合わせて語られる古銃や刀剣の蘊蓄が、質・量ともにすごい。
特に銃器に関しては、その発達史を読んでいるかのよう。さすがミリオタ松本零士の面目躍如である。
この蘊蓄を語りたいがために、武器商人スネルを主役にしたとも思える。

作者の新選組贔屓は、『宇宙戦艦ヤマト』のキャラクターネーミングなどにより、夙に知られる。
少年期の終戦体験から、敗者の無念に共感を覚えるようになったと、本人は語る。
本作でも、「歴史」に抗いながら滅びてゆく者達の姿を、愛惜とロマンを込めて描いている。

本作は、中央公論社の月刊誌『小説中公』に1993年より1996年にわたって連載され、並行して単行本(中公コミック・スーリ スペシャル、A5判)が4巻まで発行された。
『陽炎の紋章 1 新選組の影』 1994年8月発行
『陽炎の紋章 2 晋作の時代』 1994年9月発行
『陽炎の紋章 3 闇の匠(ダークマイスター)』 1995年4月発行
『陽炎の紋章 4 昼間の梟』 1996年1月発行

ところが、掲載誌が休刊してしまい、本作も未完となっている。
ストーリーは、第4巻の最後に鳥羽伏見戦争が勃発。
連載では、その先の箱館の場面まで描かれていたものの、単行本未収録である。
作者は、描く意欲を失ってはいないそうだが、近頃は各機関の名誉職や後進の育英指導に忙しく、また『銀河鉄道999』をはじめ多数の未完作品を抱えていることもあり、本作の再開は困難と思われる。

陽炎の紋章 (1)
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陽炎の紋章 (2)
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陽炎の紋章 (3)
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陽炎の紋章 (4)
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はじめまして

ランキングから来ました。国会図書館で、単行本を閲覧しました。絵柄もストーリーも魅力的です。

2012/05/04(Fri) |URL|やぶひび [edit]

やぶひびさんへ

やぶひびさん、ようこそおいで下さいました。コメントありがとうございます。

絵柄やストーリーに加えて、銃器に関する蘊蓄も私は面白く読みました。
武器や道具に反映された米と欧、日本と中国の精神性の違いなど、興味深いです。

本作が未完のまま、増刷・再版もされないのは残念でなりません。
当時、出版元が経営不振に陥り体制が変わりましたが、原稿があれば再刊可能なはず。
すでに描かれた分だけでも、新社に刊行してもらいたいです。

2012/05/05(Sat) |URL|東屋梢風 [edit]

今日、ブックオフで立ち読みして検索して参りました。
1巻だけ読んで続きが非常に気になったのですが、やはり未完だったのですね…
松本先生は気になる未完の作品が多すぎる…

4巻まではネットで結構見つかりそうなので探してみます。

2013/06/11(Tue) |URL|白石 [edit]

白石さんへ

白石さん、コメントどうもありがとうございます。

ご指摘のとおり、松本零士作品は未完の大作が多いですね。
この『陽炎の紋章』も、「闇の匠」の真の目的は何か、スネルは敵と戦いながら自身の葛藤とどう向き合っていくのか、新選組は戊辰動乱の渦中をどう戦いぬくのか、生死の境をさまようクロウはどうなるのか等々、第4巻まで読んでもわからずじまいで、非常にもどかしいです。
ただ、そこに至るまでの展開もなかなか楽しめますよ。

2013/06/12(Wed) |URL|東屋梢風 [edit]

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