新選組の本を読む ~誠の栞~

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 童門冬二『維新の女たち』 

短編小説集。幕末維新の英傑を愛した女たちを描く連作14編。
このうち、新撰組に関わるのは「地獄 芹沢うめ」「屈折 近藤たか」の2編。

「地獄 芹沢うめ」 菱屋の妾おうめが、芹沢鴨を心から慕い、その愛に殉じる。
新撰組を維持するために悪役を演じては、自己嫌悪に陥る芹沢。
心に同じ傷を抱えるおうめは、芹沢の苦悩を理解し労る。
ふたりは、非業の死を予感しながらも、その運命を甘受しようと覚悟を決める。

単純な悪役ではなく、組織のため敢えて憎まれ役に徹する芹沢鴨の姿が、描かれている。

「屈折 近藤たか」 近藤勇と側妾おたかとの、馴れ初めと別離。
姉・深雪太夫が近藤に落籍され側妾となって、妹おたかも一緒に休息所に住まうことになった。
近藤を「人斬りの鬼」と恐れていたおたかだが、姉に代わって側妾となり、彼の人柄を理解していく。
やがて新撰組が落日を迎えた時、自分の中の「滅びる男」を求めていた屈折感を自覚する。

近藤勇の艶福家ぶりが、若干の皮肉を込めて描かれる。

新撰組幹部の休息所と妾を公費で調達、まるで企業の福利厚生の一環のように描かれている。
これはいくら創作でもありえないと思った。
幹部は充分な給与を受け取っているのだから、自分の甲斐性で何とでもするのが当然だろう。

深雪太夫とお孝の姉妹については、姉の病死後に妹が身請けされたという説もあり、このほうが信憑性ありと見なされている様子。
また、お孝は「おこう」と読ませる文献もある。

その他の収録作は、下記のとおり。
「別離 西郷アイ」 奄美大島に流された西郷吉之助と、島妻アイ(愛加那)との出会いと別れ。
「魔性 村山たか」 井伊直弼、長野主膳と繋がる村山たかが、生き晒しの憂き目に遭う胸の内。
「狂夢 梁川景子」 梁川星巌と妻景子の奇妙な夫婦生活と、死別。
「殉愛 清河れん」 清河八郎と、彼を庇って獄死した内妻れんとの関係を描く。
「神秘 山岡英子」 山岡鉄太郎の常識を超えた言動にふりまわされる、妻英子の苦労の日々。
「奇癖 佐久間順子」 勝海舟の妹順子が、夫の佐久間象山を理解していくさまと、突然の別れ。
「真実 森田琴」 森田節斎と、文武両道の才媛ながら醜女の琴との、腐れ縁的な夫婦関係。
「忍耐 桂幾松」 但馬出石に潜伏する桂小五郎を、遙々訪ねていく幾松の嫉妬と献身。
「嫉妬 伊藤梅子」 漁色家の伊藤俊輔(博文)と、芸者あがりの梅子との真実の愛。
「流浪 坂本お竜」 坂本竜馬との心の距離を埋められなかった、妻お竜の孤独。
「憧憬 日柳お松」 日柳燕石の妾お松が、高杉晋作とおうのの関係に羨望を抱く。
「得度 高杉おうの」 高杉晋作を、明るく健気に支え続けた妾おうのの天真爛漫。

いずれも実在の人物をモデルとしている。
史実をある程度取り入れているが、私生活の描写などは大部分が作者の創作であろう。

本作に登場する男は、理想や信念のために苦闘を続ける。
そして、世間には見せない本音や弱さを、愛する女にだけは吐露する。
女は、男の身勝手に怒ったり呆れたりしながらも、その苦悩を理解して優しく受け止めてやる。
そうした男女の心の機微を、ユーモアやペーソスを交え描き出している。

性描写がやや多いものの、官能小説というほどでもなく、艶笑小咄のような雰囲気。

春陽堂から文庫本(1982)が出版された。

ちなみに、同じ作者の類似書として、『新撰組の女たち』がある。

維新の女たち



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