新選組の本を読む ~誠の栞~

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 津本陽『密偵』 

短編小説集。副題『幕末明治剣豪綺談』。
幕末から明治期にかけ実在した人物の生涯を、様々なエピソードを交え描く8編。
そのうち、新選組に関わるのは「密偵」「弥兵衛斬り死に」「風樹」「北の狼」の4編。

「密偵」
新選組隊士・中島登の奮戦を、油小路事件から甲州勝沼戦争にかけて描く。

八王子千人隊の家に生まれた中島は、地縁から近藤勇と知りあい、近藤・土方直属の密偵となる。
命知らずの放胆な性分を生かし、高台寺月真院の床下で御陵衛士の内情を探り、町人を装って薩長軍の兵力・装備を探り、淀の白兵戦では敵兵を斬りまくった。
しかし、旧幕方の劣勢は覆うべくもなく、新選組も負け戦を強いられる。
甲州でも到底勝ち目のない情勢となり、寄せ集めの隊からは脱走者が続出する。
しかし中島は、同志のために踏み止まった。

新選組の落日を見ながら、なおも戦い続ける中島登の姿は、胸を打つ。
この作品に続く物語が、長編小説『幕末剣客伝』に描かれている。

「弥兵衛斬り死に」
富山弥兵衛が、薩摩の探索方として越後へ赴き、凄絶な最期を遂げる物語。

油小路事件の後、富山は薩摩藩へ帰参した。
長岡柏崎にいる旧幕勢力の動静を探るよう命じられ、博徒を装って潜入を試みたものの、出雲崎で身元を怪しまれ捕われてしまう。

掌編ながら、富山の「剽悍無類」の薩摩隼人ぶりがよく描かれている。
司馬遼太郎「弥兵衛奮迅」、中村彰彦「近藤勇を撃った男」と読み比べると、同じ題材ながらもそれぞれ味わいが異なり、興味深い。

「風樹」
明治初期の北海道、永倉新八が衰えぬ剣技を以て、悪質なやくざを懲らしめる痛快譚。

戊辰戦争後、松前藩に帰参を許された永倉は、藩医・杉村家に養子入りし、北海道へ渡った。
名を「杉村義衛」と改め、福山にて家庭を持ち、穏やかな日々を過ごす。
ある時、恩人の親戚が、やくざ一家と漁師達との争いに巻き込まれた。
永倉は、やくざと話をつけるべく、単身出向く。
しかしそこには、用心棒として雇われた二人の剣客が待ち受けていた。

数々の修羅場をくぐり抜けてきた剣の冴えを見せながらも、永倉の心中に漂う空虚と寂寥が切ない。

「北の狼」
杉村義衛(永倉新八)が、赴任先の樺戸集治監で、脱獄事件に巻き込まれる経緯。

明治15年、剣術師範として樺戸集治監に赴任した杉村。
囚人達の非人道的な境遇に心を痛め、看守達に「真の武士道」を叩き込もうと厳しく稽古をつける。
彼が元新選組の永倉新八と知り興味本位で挑戦した看守達は、格の違いを思い知らされた。
それでも、看守達の囚人虐待は続き、杉村が窘めても反発されるばかりだった。
そんな時、囚人5名が脱走し、杉村も追跡隊に同行することになる。
追い詰められて抵抗する脱獄囚と、看守達との戦いを見届けた彼は…

武士道が市井に埋没していった」時代に、士魂を貫く永倉の後半生は、しみじみと感慨深い。

この他の収録作品は、下記のとおり。
「喉の傷痕」 近代剣道の祖・高野佐三郎が、若き日の試合と修行によって剣の道に開眼する。
「弥太郎ざんげ」 幕末、恐喝や強盗を繰り返して捕えられた悪旗本・青木弥太郎の生涯。
「唐竹割り」 樺戸集治監で杉村義衛(永倉新八)の教えを受けた看守・花沢清文が、凶悪な脱獄囚を追跡して斃すまで。本書の中で、この主人公だけは架空の人物と思われる。
「小栗上野介遺聞」 幕府瓦解後、小栗上野介が上野国権田村にて過ごした多難の日々。

角川書店より、単行本(1989)と文庫本(1991)が出版された。
そのほか、各作品が収録されている他の書籍は、下記のとおり。

「密偵」
『誠の旗がゆく』 集英社文庫 2003

「弥兵衛斬り死に」
『最後の武士道 幕末維新傑作選』 集英社文庫 2010

「北の狼」
『北の狼 津本陽自選時代小説集』 集英社文庫 1989
『剣よ風を呼べ』 日本文芸家協会編 講談社文庫 1994
『新選組アンソロジー その虚と実に迫る 下巻』 舞字社 2004

密偵
幕末明治剣豪綺談
(角川文庫)
>>詳細を見る



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