新選組の本を読む ~誠の栞~

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 平尾道雄『新撰組史録』 

新選組研究の先駆者の一人、平尾道雄が著した通史。
西村兼文『新撰組始末記』、永倉新八『新撰組顛末記』、子母澤寛の新選組三部作などと並んで、古典と称される。

平尾は明治33年(1900)熊本県に生まれ、6歳のとき父の郷里・高知県に移り住んだ。
土佐藩の足軽の子であった父から、幕末維新期の話を聞いて育ったという。
上京して大学の夜間部に通い、山内家家史編修所に勤めて古文書解読などを学ぶ。
大正15年(1926)雑誌の依頼による近藤勇論の執筆をきっかけに、新選組の調査研究を進める。
昭和3年(1928)28歳で『新撰組史』を自費出版した。
これが縁で、同時期にたまたま『新選組始末記』を発表した子母澤寛とも親しくなる。
同20年(1945)高知に居を移す。主に土佐の維新史を研究、多大な業績を遺し、同54年(1979)78歳で世を去った。

『新撰組史』は、昭和17年(1942)育英書院より改訂版を刊行、書名を『新撰組史録』と改めた。
その後、同42年(1967)白竜社、同46年(1971)岬書房(白竜社)から出版、そのつど内容が少しずつ異なっている。
さらに、同52年(1977)新人物往来社より『定本 新撰組史録』、平成15年(2003)同社より新装版が出ている。

内容は、試衛館一党の浪士組加盟から新選組の終焉までを、編年式に述べた通史である。
近藤勇の死後の経過は、ごく短くまとめられている。

子母澤が「歴史を書くつもりはない」と公言して大衆向けの読みやすさに重点を置いたのとは対照的に、平尾は新選組を歴史として扱い、同時代史料を多数引用して客観的に記述している。新選組の学術的研究の草分けと言えよう。
所々、引用史料の出典や所説の根拠を明記していない箇所があり、全体として優れた研究書だけに惜しまれるが、研究目的でなく普通に読むなら特に問題ない。

成立時期ゆえに、現在は判明している事柄が不明とされている箇所、否定あるいは疑問視されている説が肯定されている箇所もある。一部の例として――
  • 近藤勇の初名を「勝太」としている
  • 家里次郎・殿内義雄の消息を不明としている
  • 壬生浪士組が「新選組(新撰組)」と命名された時期について、説明がない
  • 大坂西町奉行与力・内山彦次郎の暗殺を、新選組の犯行としている
  • 池田屋事件で、新選組が池田屋・四国屋を目標として出動したとしている
――など。ただ、当時は最先端の成果であったという研究史の一側面として、興味深い。

甲陽鎮撫隊の進軍に関して、日にちと行程に明らかな混乱が見られるが、これは後の改訂版で訂正されたかどうか、生憎と未確認である。
新選組が「賊軍」扱いされ、もしくは単なる講談や小説のネタとして扱われていた時代に、これほど綿密な調査研究を行い、一冊にまとめ上げた見識や才腕は、素晴らしい。
そして、土佐にとって「仇敵」であった新選組を、偏見を交えず純粋に研究対象として扱っている姿勢も、敬服に値する。
本書が後の研究に大きな影響を与えたことは、言うまでもない。

(※本項は、昭和42年の白竜社版を参考に記述した。)

定本 新撰組史録




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拍手とコメント有難うございます。
それにしても、この『新撰組史録』をご存知とは!!!!!!!!!
読んだことはないのです。書名のみ知ってました。幻の名著ですよね。神田の古書街でも見つけることができず、探しています。
すごいですね。
本当に凄い博覧強記な方ですね。

2012/02/21(Tue) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん、コメントありがとうございます。
本書は、新選組ノンフィクションの古典なので、
新選組オタクの大半は読んでいると思われます。
子母澤寛の三部作に比べると固く、親しみやすい感じではありませんが、
客観的かつ公平であろうとする姿勢が窺えます。

残念ながら、現在は入手しにくく、神保町にもないかもしれません。
「日本の古本屋」「本と文化の街 スーパー源氏」で検索すると
ヒット件数が少ない上、いずれも地方の古書店ですね。

戦前にこれだけの学術的な研究書が存在したにもかかわらず、
学術界ではこれに続く研究家が長らく出てこなかったことが、不可解と言えば不可解です。

2012/02/22(Wed) |URL|東屋梢風 [edit]

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