新選組の本を読む ~誠の栞~

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 三好徹『沖田総司 六月は真紅の薔薇』 

長編小説。沖田総司の生涯を、一人称「僕」を用いて彼自身の視点から描く。

天賦の剣才に恵まれた沖田総司。
いつかその才能を以て広い世間に出ること、理想的な剣士の道を究めることを、心密かに願っていた。
しかし、近藤勇や土方歳三への親愛にひかれて共に行動し、新選組隊士として人斬りの日々を送る。
理想と遠く隔たった境遇にいる、という鬱屈は拭えない。
そうした彼の心にとって、薄幸の娘おあいとの恋が慰めとなった。
やがて彼女を喪い、自らも病に蝕まれていく。
最後に残された望みは、短い命を悔いなく燃焼させることだけだった。


何やら耽美小説のようなこのタイトルは、著者の説明によると「血と汗の60年代安保における若者達が愛唱した、作者不詳の一節であり、あの6月15日は、戦後の青春の終わりを告げる日でもあった」のだそうだ。
しかし、生憎と世代が違うせいか、さっぱりわからない。
ただ、主人公の内省的な主観によって「悩める青春像」を描いた、昔の文学青年が好みそうな情感は、そうした時代背景に由来しているように感じられる。

作中において「薔薇」は、沖田総司がおあいに送った鉢植えであり、「血」と「生命」の象徴として描かれる。

脇役の人物が、沖田との対話で真情を吐露する場面が多い。
その描写によって、相手の人物と沖田と、双方の人間像が鮮やかなものとなっている。
特に、沖田にとって最重要人物の土方歳三が、組織のために敢えて憎まれ役を演じる姿が印象に残る。

本作の後に著された、土方を主人公とする『戦士の賦』と、共通点・相違点を比較してみるのも面白い。

また、本作以外に作者が沖田総司を描いた作品として、短編『私説・沖田総司』がある。

初出は『週刊現代』1974年6月から1975年8月にかけての連載。
『六月は真紅の薔薇 小説 沖田総司』のタイトルで、講談社より単行本(1975)、文庫本(1978)が刊行。
『沖田総司 六月は真紅の薔薇』と改題の上、徳間文庫(1989)、学陽書房人物文庫(1997)、学研M文庫(2003)が出版されている。
以上すべて上・下2巻の構成である。

沖田総司
六月は真紅の薔薇〈上〉
(学研M文庫)



沖田総司
六月は真紅の薔薇〈下〉
(学研M文庫)




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