新選組の本を読む ~誠の栞~

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 火坂雅志『新選組魔道剣』 

短編小説集。京都に根付く様々な伝説や因縁に絡め、新選組の面々が関わる事件を描く7編。

「勇の腰痛」 近藤勇が、洛南深草の藤森神社へ、腰痛平癒の祈願に行く。
新選組と御陵衛士との確執が続く日々、近藤は急性腰痛を起こし、隊士の勧めで藤森神社へ出かけた。
祈願後、裏手の森に「揉み療治」の看板を発見。
治療師は若い女と思われたが、顔を見ないことが条件と言われ、目隠しをして治療を受けることに。
腰痛が癒えた後も、近藤は女の元へ足繁く通うが…

「祇園の女」 藤堂平助が、洛東下弁天町の安井金比羅宮で、縁切り祈願をする女と出会う。
幸薄い芸妓・君香の力になりたいと真面目に考えた藤堂は、彼女を休息所に迎える。
しかし、池田屋事件の後、隊士募集のため江戸へ下ることになり、すがる君香を振り切って旅立った。
帰京しほぼ1年ぶりに再会したものの、君香の過剰な愛情は、藤堂にとって重すぎる負担となっていた。
その後、藤堂は自ら勧誘した伊東甲子太郎らと、新選組を離れることになり…

「くらくら鞍馬」 勤王志士・芳村正秉(まさもち)が、洛北鞍馬寺で体験した不可思議。
京都に遊学中、勤王派と交わるようになった津山藩士の芳村は、池田屋で新選組に襲われ、辛くも逃れる。
そして、鞍馬寺の境内、由岐神社の床下に潜んだ。
その夜、彼の前に謎の女が姿を現す…
この話に、新選組隊士は登場しない。芳村正秉は、明治期に神習教を興した実在の宗教家。

「秘事」 守護職屋敷に出入りする若き侠客・会津ノ小鉄が、謎の辻斬り事件の真相に迫る。
長州や土佐の脱藩浪士が相次いで殺害され、新選組に容疑がかかる。近藤勇は、小鉄に下手人捜しを命じた。
犯行現場は、それぞれ不吉な伝説にまつわる魔所ばかり。
その中の、東寺の東南角、通称「猫の曲がり」を通りかかった小鉄は、妖しい女と出会う。
女の魅力に囚われ、妻にしたいと考えるが…

「狐憑き」 新選組脱退を企む浅野弥一郎が、洛北岩倉村の大雲寺で体験する恐怖。
酒井兵庫に誘われ入隊したものの、理想と現実のギャップに悩んだ浅野は、除名されようと狐憑きを装う。
しかし、実家へは帰れず、憑き物落としで知られる大雲寺へ送られてしまう。
そこには、多くの者が収容され、恐ろしい施療を受けていた…
この浅野弥一郎は、架空の隊士と思われる。

「石段下の闇」 新選組隊士・九戸市蔵が、情婦と家族との板挟みに悩む。
祇園石段下に「新選組隊士の亡霊が出る」との噂が立ち、何者かの陰謀が疑われた。
見張り番についた九戸は、身寄りのない女を保護し、いつしか深い仲になってしまう。
そして、同僚が殺害された事件を捜査するうち、怪しい寺院に集う不審な浪士達を発見し…
郷里に残した家族を思い、ひたすら仕送りを続ける南部脱藩・九戸市蔵は、吉村貫一郎がモデルか。

「古疵」 人の業を背負い続ける土方歳三と、将軍侍医・松本良順との、出会いと別れ。
土方は、膝下の古疵の腫れを人面疽と疑い、今まで手にかけた者の怨念を感じつつ、気にすまいと努めていた。
しかし、油小路事件の直後、腫れと痛みが増大し、体調を悪化させる。
治療に当たった松本は、人面疽などというものは実在しない、罪悪感がそう思わせたに過ぎない、と説く。
冷徹な鬼副長と言われた土方が持つ人間味と、それを知る松本の密かな哀惜が描かれている。

伝説や迷信など信じない現実主義者である新選組の面々が、「魔界」とも言われる京都のオカルティックな側面に、否応なく向き合うはめになるストーリーが面白い。

ちなみに、作者あとがきにも出てくる藤森神社の案内板は、当方も見たことがある。
「御旗塚」の説明に「ここにお参りすると腰痛がなおると云われ幕末の近藤勇も度々お参りをしてなおしたと伝えられている」とあり、その根拠が知りたいと思った(笑)。
なお作中、墨染狙撃事件で近藤が撃たれた場所は「藤森神社の鳥居の前」とされるが、関連文献を読む限り、実際はもっと南のようだ。

光文社より単行本(1996)、文庫本(1999)が出版された。
文春文庫版(2009)も出ている。

「勇の腰痛」は、 『幕末京都血風録』(細谷正充編/PHP文庫/2007)にも収録。
「祇園の女」は、 『誠の旗がゆく』(細谷正充編/集英社文庫/2003)にも収録。
「石段下の闇」は、『血闘! 新選組』(池波正太郎ほか/実業之日本社文庫/2016)にも収録。

新選組魔道剣
(文春文庫)
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