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 高橋克彦「悪玉放生」 

短編小説。タイトル読みは「あくだまほうじょう」。
『完四郎広目手控(かんしろうひろめてびかえ)』シリーズ第1巻収録の1編。
20代前半の土方歳三近藤勇が登場する。

『完四郎広目手控』は、幕末から明治期を舞台に、旗本の次男坊・香治完四郎(こうやかんしろう)が、噂の謎や怪事件を解き明かす時代小説シリーズである。
完四郎の居候先・藤岡屋由蔵は、『藤岡屋日記』で知られる実在の古書商、情報屋。本作では巷の噂を売買し、瓦版発行に携わるなど広目屋(広告代理業)を営む。仕事仲間の戯作者・仮名垣魯文や、浮世絵師・一恵斎芳幾も登場。完四郎も手伝ううち、事件に遭遇することになる。
連作短編集の形式で、原則1話ごとに完結。ただ、レギュラー人物の過去が少しずつ明かされ、年月と共に境遇が変わっていくなど、長編的な要素もある。

「悪玉放生」
安政2年(1855)7月半ば、由蔵・魯文・完四郎は、店先で雑談に興じていた。
途中、薬箱と竹刀を背負った旅姿の若者が立ち寄るが、一同は構わず話し続ける。
来月の放生会(ほうじょうえ)にちなんだ新企画を求める由蔵に、魯文は悪徳商人を揶揄する瓦版「悪玉放生」を提案。由蔵は報復を懸念し却下したが、魯文は具体名を出さず判じ物ふうにすれば問題ないと考え、発行してしまう。売り上げは上々だった。
ところが、悪玉のひとりとして描かれた材木商・相馬屋が、「悪玉放生組」を名乗る者達に5両を脅し取られるという事件が発生。
魯文をとばっちりから守るため、完四郎は第二、第三の犯行を食い止めようと犯人を捜す。

今で言う世相風刺マンガのようなものが、事件のきっかけになるところが面白い。
残念なのは、犯行動機があまり明確にされないこと。完四郎が推理したのみで追及しないのは「武士の情け」だとしても、本人達が語る思いを聞きたかった気がする。
完四郎の「武士の時代は終わる」「剣が通用する時代ではない」という見解は、武士に愛想を尽かした彼自身の心情らしいが、時代をやや先取りしすぎのようにも感じられた。
土方歳三vs.完四郎の真剣勝負と、その後に完四郎が漏らす感想は、印象的である。

第1巻の収録作は「梅試合」「花見小僧」「化物娘」「雨乞い小町」「花火絵師」「かぐや御殿」「変生男子」「怪談茶屋」「首なし武者」「目覚まし鯰」「大江戸大変」に、本作を加えた全12話。

大方の事件は完四郎が鋭い読みと武術の腕であっさり解決してしまうので、推理ものの味わいは薄め。
登場人物達が織りなす人間模様、実在の人物や事件と創作との融合を楽しむ作品、と感じた。
安藤広重の「名所江戸百景」が挿画に使われているのも、洒落た趣向。

本シリーズは、集英社から今のところ第5巻まで出版されている。
1.『完四郎広目手控』 単行本1998/文庫本2001 (※本作収録巻)
2.『完四郎広目手控 天狗殺し』 単行本2000/文庫本2003
3.『完四郎広目手控 いじん幽霊』 単行本2003/文庫本2006
4.『完四郎広目手控 文明怪化』 単行本2007/文庫本2010
5.『完四郎広目手控 不惑剣』 単行本2011/文庫本は未刊
第2巻以降にも、坂本龍馬・浜田彦蔵・月岡芳年・松旭斎天一・高畠藍泉ら、実在人物が多数登場。
第5巻では、明治9年、警視庁の剣術師範となった完四郎が、藤田五郎(斎藤一)と熊本へ赴く。

余談だが、作者の著作には、沖田総司が時空を超えた戦いに挑むSF小説『刻謎宮(ときめいきゅう)』もある。
最初の単行本は1989年、最新刊は2006年の講談社文庫(全4巻)。

完四郎広目手控
(集英社文庫)




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