新選組の本を読む ~誠の栞~

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 宮地正人『歴史のなかの新選組』 

研究書。維新史専攻の学術研究家による、新選組史論であり新選組史料論である。

学術界では、長らく新選組を研究対象としてこなかった。
その弊習が2004年のNHK大河ドラマをきっかけに変わった、ということは松浦玲『新選組』の記事ですでに触れたとおりだ。
そして本書もまた、変革に一役買った1冊と言える。

著者は2003年6月、日野市にて「明治維新と新選組」と題する講演を行なった(主催はNPO法人日野・市民自治研究所、日野市は新選組幹部隊士たちのゆかりの地である)。
前年に大河ドラマの企画発表があったことから、地元では新選組の再評価が始まったものの、意見がなかなかまとまらなかった。
そこで、歴史学者を招いて見解を聞こうという流れになり、講演開催に至った模様。
ちょうど著者も、長年の維新史研究をもとに、新選組論を組み立てようと考えていたところだったという。
この講演の骨子をそのままに、大幅に加筆して出版されたのが本書である。
書名のとおり、幕末維新史における新選組の存在を、歴史学の見地からどのように位置づけるか、論理的に述べている。
内容は下記のとおり。

序章 問題の所在
第一章 幕末の政治過程をどう見るか
第二章 一会桑政権と近藤勇
第三章 有志集団としての浪士組・新選組
第四章 八月一八日事件以前の壬生浪士組の特徴
第五章 新選組の性格の多重化
第六章 超法規的武装集団化
第七章 他の諸集団との対立・抗争
第八章 「死さざれば脱退するを得ず」
第九章 組織矛盾とその展開
第一〇章 史実と虚構の区別と判別
第一一章 新選組研究の史料論
終章 結論


著者が挙げる課題は、新選組を含めた幕末政治構造の正確な把握、史実と虚構との区別に欠かせない「史料批判」の方法、新選組論の前提となる史料学を構築する方法、の3点であり、これに基づいて論を展開している。
また、本書では、草創期から近藤刑死までの新選組を取り上げている。
それ以降に関しては、「組織的性格が大きく変化してしまっている」として、論及していない。

それまで史実のように語られてきた定説にも検討の余地が多々ある、ということがよくわかる。
一例として、大和屋焼き討ち事件。
従来は芹沢鴨の犯行とされてきたが、当時の風説留(噂や流言が書き留められたもの)では、いずれも犯人不明となっている。
芹沢犯人説を主張する西村兼文『新撰組始末記』には、不自然な記述が多いので、裏付けがなければ信頼し難い。
永倉新八『新撰組顛末記』では、芹沢の暗殺理由にこの事件は挙がっていない。
――といった著者の見解は、まさに正論と思う。

ただ、全体から見れば些末なことだが、「芹沢は関係していない」と言い切っているのには、正直疑問を感じた。
このように断言できるのは(芹沢以外の)真犯人が判明した時、もしくは絶対確実なアリバイが証明された時であって、それがない段階では「不明」としか言えないのではなかろうか。

とは言え、本書が大変有意義な研究書であることは、間違いない。
従前の在野研究では未整理だった面がよく整理され、理解しやすくなったと思える。
巻末の注記や人名索引のほか、付録の「浪士組・新徴組隊士出身地別一覧表」も有用である。
幕末や新選組の研究を新たに志す向きは、どのように作業を進めればよいか、研究手法の参考として役立てることもできよう。

余談だが、近藤勇の書簡をまとめた史料集が何ら編纂・刊行されていないことについては、松浦玲『新選組』の記事ですでに触れたとおりである。
それについて、著者も本書あとがきで嘆いている。
『近藤勇書簡集』の未刊行が、幕末研究、新選組研究全体に及ぼしている損失は、決して小さくない。
この状況が早期に解消されることを、切に願う。

本書は、岩波書店より2004年に出版された。
また、岩波現代文庫が2017年に刊行された。研究の進展にともなう増補版。

歴史のなかの新選組
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(岩波現代文庫)
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