新選組の本を読む ~誠の栞~

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 三好徹『土方歳三 戦士の賦』 

長編小説。動乱の渦中に己の信念を貫き通した、土方歳三の苛烈な生涯を描く。

将来にこれといった展望を持てず、鬱屈した日々を試衛館道場に送っていた歳三。
しかし、浪士組加盟をきっかけに人生観を変え、時代の流れに身を投じ、その果てまでも行こうと決意する。
そして、抜群の組織力と士道の理念をもって、新選組を最強の武闘集団へと育て上げた。
ところが、時代の流れは新選組を瓦解へと導く。
人の力では如何ともしがたい運命を知りつつも、亡き盟友への手向けとして、また新選組と戦い倒れた者達への義務として、歳三は命あるかぎり戦い抜く。


本作の土方歳三は、剣客としてよりも、新選組の指揮者として、あるいは旧幕陸軍の指揮官として奮闘する機会が多い。

また、政客の適性に乏しいにもかかわらず政界に身を置く近藤勇、「剣の道」の理想とはほど遠い世界で剣を振るう沖田総司と、歳三との関係が重視されている。
陰ながらふたりの庇護者たらんと努める歳三が、やがて彼らを失い、ひとり孤独を胸に戦い続けるさまが切ない。

同朋に対してはこれほど思いやり深いのに、なぜか女に対してはひどく冷淡な歳三像というのも、あまり類を見ない気がする。

作者に、新選組を徒らに美化するような意図はないだろう。
ただ、「男の意地」を貫くことへの誇りと美意識を、鮮やかに描き出している。

初出は『歴史と旅』1984年11月号~1988年3月号の連載。
『戦士の賦 土方歳三の生と死』の書名で、秋田書店より単行本(1988)、集英社より文庫本(1993)が刊行。
『土方歳三 戦士の賦』と改題の上、学陽書房人物文庫(1998)、学研M文庫(2003)が出版されている。
以上いずれも上・下2巻の構成。

土方歳三
戦士の賦〈上〉
(人物文庫)



土方歳三
戦士の賦〈下〉
(人物文庫)




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