新選組の本を読む ~誠の栞~

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 広瀬仁紀『幕末鬼骨伝』 

幕末~明治の実在人物を主人公とする時代小説集。中編1作+短編3作を収録。
収録作のうち新選組に関わるものは、中編「高台寺の鵺」と短編「最後の御殿医」「青嵐独歩録」

「高台寺の鵺(ぬえ) 伊東甲子太郎」
伊東甲子太郎が近藤勇の勧誘により加盟上京してから暗殺されるまでを、土方歳三ら新選組、大久保一蔵ら薩摩藩との、虚々実々の駆け引きを交えて描く。
藤堂平助の推薦によって加盟した伊東を、土方は自身より上位の参謀職に就ける。
まもなく、西本願寺への屯所移転をめぐり、山南敬助が脱走、切腹した。
土方にとっては、山南とよく話し合おうとしていた矢先の出来事であり、伊東が山南を煽動した結果と受け止めざるをえなかった。
伊東は、新選組参謀として活躍し、勤王論者として京洛に知られていく一方、幕威の凋落を実感する。
そんな時、土方は伊東に、分派して薩摩の情勢を探って欲しいと依頼。伊東も了承した。
薩摩の大久保一蔵は、富山弥兵衛を新選組に潜入させるため伊東の協力を得ていたものの、伊東が頻りに面会を求めてくるようになった意図を計りかねる。
そして慶応3年の正月、伊東と永倉新八、斎藤一の3人が島原の角屋に流連、無断外泊して隊務懈怠を問われるという事件が起きる。

史実の裏にはこのような経緯があったと、独自の推理を交えて展開するスリリングな陰謀劇。
伊東の分離脱盟は、土方との密約による諜報活動とされている。さらに島原流連事件は、土方が斎藤に授けた秘策であり、伊東はそうと気づかなかった(事件自体は実際にあったらしく、永倉新八『新撰組顛末記』に記述されている)。真相は不明だが、ひょっとするとこれらが事実だったかも、と思わせる。
また、土方が山南の死を悔やむ場面は、印象的。自ら追っ手となって逃がそうとしたのに、山南が連れ戻されることを望んだために、喪う結果となってしまった。

作者の時代小説は、会話と地の文とが混じり合うような独特の文体で書かれることが多い。
本作では特にそれが際立ち、慣れないと読みづらいかもしれない。しかし、古典文学にも似た味わいがある。
本書のための書き下ろし作品であり、他書には収録されていない様子。

「最後の御典医 松本良順」
将軍家茂・慶喜に仕えた典医であり、近代医学発展に努めた松本良順の生涯を描く。
戊辰戦争に際して会津へ赴き、負傷者の治療に尽くした時期に重点を置いている。
近藤勇との初めての出会い、西本願寺屯所の訪問と助言、沖田総司の肉食嫌い、会津での土方歳三との再会、仙台での別離など、新選組と関わる場面も多い。良順が新選組の面々に寄せた愛惜が、よく伝わってくる。
初出は新人物往来社刊『歴史読本』昭和51年(1976)9月号。

「青嵐独歩録 山岡鉄舟」
新政府軍による江戸総攻撃をやめさせた真の功労者、幕臣・山岡鉄舟の生涯を描く。
前半は、清河八郎との出会い、浪士組取締役として上京・東帰したこと、暗殺された清河の首級を隠したことが中心。
後半は、前将軍慶喜の意を受け、江戸へ進攻してくる東征軍の西郷隆盛と恭順交渉をしたことが中心となっている。
浪士組上京の途次に起きた本庄宿の大篝火事件、浪士組東帰と芹沢・近藤派の残留、甲陽鎮撫隊のことなど、新選組に関連した場面がある。
初出は旺文社刊『ブレーン・歴史にみる群像 3』(1986)。

「松籟颯々 頭山満」
自由民権運動の壮士、福岡玄洋社のリーダーであった頭山満の生涯を描く。新選組は登場しない。
初出はTBSブリタニカ刊『日本のリーダー 11』(1983)。

書名の「きこつ」は、「気骨」あるいは「奇骨」と表記されるのが一般的であろう。
巻末解説を書いた郷原宏は、作者が「鬼骨」とした理由を「気骨のある鬼才」の意味と推測している。

作者の新選組登場作では『適塾の維新』(1976)、『洛陽の死神』(1977)、『沖田総司恋唄』(1977)、『土方歳三散華』(1978)、『新選組風雲録』(1987-89)に続き、本書は1993年、富士見書房・時代小説文庫として刊行された。

余談だが、作者が「最後の御典医」を含む新選組関連作品で参考とした松本良順の回顧録「蘭疇自伝」は、平凡社の東洋文庫『松本順自伝・長与専斎自伝』(1980)に収録されている。
近藤勇や土方歳三の逸話が松本順(良順)自身の言葉で語られ、なかなか興味深い。

幕末鬼骨伝
(時代小説文庫)
>>詳細を見る



松本順自伝・
長与専斎自伝
(東洋文庫)
>>詳細を見る


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こんばんわ。
いつも有難うございます。
この本は全く知りませんでした。
中古書店で探してみますね。
山南と土方の関係については、私は、同士であったと思いたいです。山南の死を最も悲しんだのは土方ではなかったか・・・と思っています。(願望です)広瀬氏の見方は其の点で共感できますね。
ご紹介有難うございます。
蓄積に感嘆します。

2012/05/14(Mon) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん、コメントありがとうございます。

「高台寺の鵺」は、登場人物の言動や思惑が錯綜していて、わかりにくいです。
正体不明なものを喩える「鵺」は、伊東だけでなく土方をも指しているような気がしますし、
もっと言えば、作品全体がつかみどころのない雰囲気に満ちています。
独特の文体は、敢えてわかりにくさを演出する手段なのかもしれません。

加えて不可解なのは、佐野七五三之助や茨木司らの脱走事件に言及していないこと。
新選組と御陵衛士との関係では重要なはずなのに、なぜか本作では扱われません。
そんなこんなで、読後にもいろいろと疑問が残ります。

ただ、土方が山南の死を心底悲しむ気持ちは、まっすぐ伝わってきました。
見つかったらぜひお読みになってみてください。

2012/05/15(Tue) |URL|東屋梢風 [edit]

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