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 桂三枝『ゴルフ夜明け前』 

長編小説。副題『書下ろし 大河レキシ小説』。
坂本龍馬と近藤勇とが、ゴルフを通じて相互理解する顛末とその後に辿った運命を、ユーモアとペーソスを交えて描く。

桂三枝の高座といえば「創作落語」である。
落語では「古典」の対義語は「新作」だが、この人は自身の新作を「創作落語」と称している。
本年7月16日、六代桂文枝を襲名するまでに、実に227ものネタを作り上げたとか。
先日、襲名記念のテレビ番組で元ネタとなった落語「ゴルフ夜明け前」が放送されていたので、本作を思い出した。(ただし、高座は2002年に収録された録画だそうな。)

三枝の創作落語「ゴルフ夜明け前」は、1982年に発表された初期作品であり、以来何度も高座にかけられてきた。噺の筋は以下のとおり。

【慶応3年の長崎】…坂本龍馬と西郷隆盛との面談。龍馬曰く、イギリス発祥のゴルフを日本に導入すべく、京都郊外の山中にゴルフ場を造った。近々、新撰組の近藤勇を招いてプレーする予定となっている。西郷、誰にも知られないよう要注意、と忠告する。

【京都のゴルフ場】…坂本龍馬・中岡慎太郎と、近藤勇・沖田総司の4人がコースへ出る。
初めてで勝手がわからない2人に、龍馬があれこれ指南し、プレーを楽しむ。

【3ヶ月後の新撰組屯所】…ゴルフの楽しさが忘れられないという沖田を戒める近藤だが、自身は再戦に備えて密かに練習している。ところが、龍馬暗殺の報が届き、激しく落胆する。

【鳥羽伏見戦争の戦場】…新撰組は散り散りに敗走。近藤と沖田、偶然にゴルフ場に辿り着き、懐かしさのあまり想像を交えエアゴルフを始めてしまう。そこへ敵の砲弾が飛来し…

三枝は、この噺を繰り返し演じるうち、坂本龍馬と近藤勇に愛着を抱くようになった。しかし、落語には口演時間の制約があり、ストーリーを膨らませるには小説にするしかないと思い至る。
やがてNHK長崎から依頼された仕事をきっかけに、ゴルフの日本伝来について調べ、オランダ商館日記の記録を見出したことで、小説化に弾みがついた。1987年、発表に至る。(この経緯は、本書あとがきに詳しく書かれている。)
小説化されたストーリーの概要は、下記のとおり。

第一部 坂本龍馬・編
龍馬、グラバーからゴルフを教わる。平和と自由の象徴たるゴルフを日本にも導入すべく、ゴルフ場と会員制クラブを作ることを思い立ち、後藤象二郎・岩崎弥太郎・陸奥陽之助などの協力を得て計画を進める。ただ、中岡慎太郎は良い顔をしない。長い苦難の末、小規模ながらも伏見にゴルフ場が完成する。

第二部 近藤勇・編
近藤は、後藤象二郎の仲介で龍馬と密会することになり、沖田総司のみを連れて出かけていく。
龍馬・陽之助と待ち合わせ場所で合流し、ゴルフ場へ案内される。何が何やらよくわからないまま龍馬のペースにのせられ、4人でプレーすることに。最初は戸惑う近藤・沖田も、次第に夢中になる。
龍馬とも互いの人柄を知って、信頼や友情のようなものが芽生える。
その1ヶ月後、龍馬が暗殺され、翌月には近藤も狙撃される。ついに鳥羽伏見開戦に至り、戦況を聞いて大坂から伏見に駆けつけた近藤は、土方率いる新撰組と合流するも、撤退の中で本隊とはぐれる。
近藤・沖田は、山中を逃げるうちゴルフ場に辿り着き、龍馬らとプレーした日を懐かしむ。
甲州敗退後、流山で投降した近藤は、板橋で土佐の谷干城に訊問される。何を言われても受け流すが、龍馬暗殺の容疑を問われた時だけは「あの人が生きていればこんな戦はなかった」と強く反論する。
沖田は、療養先で近所の子供にゴルフを教え、その子に看取られて息を引き取った。

第三部 トーマス・ブレイク・グラバー・編
明治36年、神戸ゴルフ倶楽部が開場される。
主賓として招かれたグラバーの脳裏に、龍馬との懐かしい思い出が鮮やかに甦る。

ストーリーの前後に「プロローグ」「エピローグ」と題する口上があり、ゴルフの発祥や日本への伝来など歴史について、作者自身のゴルフ体験について、語られている。

文章もストーリー構成もよく出来ていて、さすが「創作落語」の巨匠渾身の力作である。ゴルフの知識や体験がなくても、面白く読める作品に仕上がっている。
落語はやや説明不足で唐突に感じる展開もあるが、小説はストーリーが詳述され説得力を持つ。

落語が元ネタというと単にギャグを盛り込んだユーモア小説のように思えるが、読んでみると実在の人物や歴史上の出来事を絡め、時代背景を反映させ、史料の一部も提示するなど、よく調べて生かしていることがわかる。巻末の参考文献一覧には、なるほどと感じ入った。
人名解説の頭注も、本文に劣らずユーモラス。ただ、やはり本文と同様に史実・創作がないまぜであり、読み手は虚実を見極める力量を試される。

最も面白いのは、落語の聞かせどころと同じく、龍馬と近藤らが一緒にラウンドする場面だと思う。
エピソード自体は、おそらくアマチュアゴルファーの多くが体験するようなことを、誇張したものであろう。
ただ、人物それぞれのキャラクター性が、エピソードをより楽しくしている。
得意げにあれこれ教えながら相手を楽しませ自分も楽しむ龍馬、初心者にありがちなミスを連発しても痩せ我慢と生真面目ぶりが決してぶれない近藤、初心者のわりに運も勘も良く好成績を上げる沖田、打つ球はなぜかことごとく転がる陽之助と、四者四様が面白い。

新撰組では、土方歳三も登場。龍馬に呼び出された近藤を案じ、密偵に様子を探らせるが、報告を聞いても何があったのか皆目わからない。その後も、龍馬に信頼を寄せる近藤の心を理解できない。
ほかに、佐々木愛次郎伊藤鉄五郎が、なぜか重要な脇役に抜擢されている。
イケメンでモテモテの佐々木と、それを羨んでは下品なツッコミを入れる伊藤のやりとりが可笑しい。

龍馬も近藤も、ゴルフから芽生えた友情を世に生かす機会がないまま、命を落とす。それでも、その精神を受け継いだ人々によって、日本にゴルフが根づいていく、という結末が良い。
ゴルフを他の文化に置き換えても成立するような、普遍性を感じさせる作品である。

この小説は、発表と同じ1987年に同じ題名で、映画化されている。
監督:松林宗恵、製作:東宝映画、出演:渡瀬恒彦(坂本龍馬)、桂三枝(近藤勇)ほか。
興行的にはイマイチだった模様。当方は未見だが、不振の一因はキャスティング、つまり土方歳三を西川のりおが演じ、歳三ファンの女子に敬遠されたためではないか?と推測している(笑)。

本書は1987年、サンケイ出版より単行本(四六判ソフトカバー)が刊行された。
また、角川文庫『桂三枝の傑作落語大全集2』(1989)に「ゴルフ夜明け前」が他9編とともに収録されているが、こちらは小説ではなく、落語をテキスト化した内容らしい。

三枝が語る「ゴルフ夜明け前」を収録した音声ソフト、映像ソフトも各種販売されている。
CD『桂三枝爆笑落語大全集(二)』は1997年、コロムビアミュージックエンタテインメントから発売。「ゴルフ夜明け前」「生中継 源平」「新世界」の3編収録。
同じくCD『桂三枝大全集~創作落語125撰~第1集』は2001年、キングレコードから発売。「ゴルフ夜明け前」「ロボ・G」の2編収録。
DVD『桂三枝創作落語自撰・特撰・三四撰』は2007年、YOSHIMOTO R & Cから発売。〈喜〉〈笑〉〈天〉〈傑〉〈夢〉の5枚セットで、〈夢〉に「妻の旅行」「読書の時間」「宿題」「ゴルフ夜明け前」の4編を収録。

映画「ゴルフ夜明け前」のソフトは1987年、VHSビデオカセットがビデオメーカーより発売された。DVDやブルーレイは未発売の模様。

ゴルフ夜明け前
[単行本]
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爆笑落語(二)
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桂三枝 創作落語
自撰・特撰・三四撰
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