新選組の本を読む ~誠の栞~

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 山田風太郎『飛騨忍法帖』 

長編小説。忍術「飛騨幻法」を操る野生児・乗鞍丞馬が、愛と復讐に命を賭ける冒険活劇。
幕末の動乱が背景となっており、文久2年3月から慶応4年8月にかけてストーリーが展開する。
実際の出来事がストーリーに絡んでくるものの、史実より独創性が優先された娯楽作。
新選組も登場する。

主要な登場人物は、以下のとおり。

乗鞍丞馬(のりくらじょうま)
本作の主人公。飛騨高山の郷士出身。無骨で不器用な田舎者だが、思い込んだら一途な性格。
檜夕雲斎に忍術「飛騨幻法」を学んだ、唯一の奥義伝承者である。
講武所で開催される御前試合に出場すべく出府。飛騨から追ってきた男女らの制止を聞かず、試合に出場。飛騨幻法の摩訶不思議、強力無比な術を操り、名だたる剣士たちを斃しながら、宗像主水正に敗れて左腕を失う。その後、主水正と美也夫婦に、若党として忠実に仕える。
主水正が暗殺された後、仇討ちを決意した美也を助けるため、江戸から京都、神戸…と苦難の旅を続け、主人の仇を追い詰めていく。

狭霧/お藤/おゆん/お柳/小笹
丞馬を愛し飛騨から追ってきた5人の女たち。それぞれ丞馬を引き止めよう、籠絡しようとする。

土屋蓮之丞/中西半兵衛/堀甚十郎/小見山大六/片桐直人
飛騨高山陣屋に勤務する侍たち。夕雲斎に武術を学び、丞馬の兄弟子にあたるが、飛騨幻法についてはよく知らない。夕雲斎の意を受け、御前試合出場をやめさせようと丞馬を追ってきた。
また、それぞれが5人の女たちの許婚者や求愛者であり、彼女らを連れ戻すのが目的でもある。
嫉妬心から丞馬の目的を阻んだり命を狙ったりする。

宗像主水正(むなかたもんどのしょう)
若き旗本。さっぱりした気性で物事にこだわらない好青年。直新影流剣術の遣い手。
勝安房に師事し、幕府の軍制改革に尽くす。美也を娶るが、それを嫉んだ旗本達に暗殺される。

美也
講武所奉行・酒井壱岐守の娘。以前から慕っていた宗像主水正に嫁ぐ。
しかし夫を殺され、仇を討つべく丞馬を伴って旅立つ。苛酷な旅の末、胸を病んでしまう。

烏帽子右近/玉虫兵庫/鴉田門五郎/宇陀久我之介/筧伝八郎
5人とも若き旗本。元は宗像主水正を交えた親友同士。それぞれ美也に求婚し、御前試合で優秀な成績を収めた者が彼女を娶る約束だった。美也を得た主水正に激しく嫉妬する。
勝安房を牽制しようとする小栗豊後の密謀にかこつけ、主水正を暗殺。ほとぼりを冷ますべく、浪士組に加わり京都へ上る。その後も、丞馬や美也と深く関わる。

以上は架空の人物だが、実在の人物も登場する。
たとえば勝安房(海舟)、小栗豊後(上野介忠順)、益満休之助、清河八郎、坂本龍馬、岡田以蔵
新選組では芹沢鴨、近藤勇、土方歳三、平山五郎、平間重助など。

浪士組(作中では「新徴組」)に加わって京都へ行った旗本たちは、新選組の客分として留まる。
美也と丞馬も彼らを追って京都へ向かうが、道中の戦いで丞馬は負傷。
着京後、壬生屯所へ様子を探りに行った美也は、旗本たちに捕えられてしまう。
さらに、芹沢鴨が美也の美貌に目をつけ、旗本たちから彼女を強引に奪う。
折しも、幕府の密命を受けた近藤勇・土方歳三らが、芹沢を暗殺すべく機会を窺っていた。
美也の身に危機が迫ったその時、丞馬が闇の中から忽然と現れる。
これに続く芹沢暗殺事件の顛末が、独自の展開を見せる。

また、池田屋事件の様子も描かれる。
新選組が池田屋へ踏み込み、謀議を凝らしていた志士らが討たれるまではよくある展開だが、本作では、ここに「紅騎隊」という騎馬隊が現れ、逃れようとする志士らを狙撃、追捕する。
この騎馬隊は30騎余、揃いの赤い陣羽織を着て、西洋銃で武装している。その正体は、神戸で勝安房の洋式訓練を受けた鴉田門五郎が、同志を率い脱走してきたもの。
引き続き京都で反幕派の逮捕にあたり、反幕派にとっては新選組以上の脅威となる。

主人公・丞馬が操る飛騨幻法という忍術も荒唐無稽だが、それ以上にこの騎馬隊がすごい。
戦争ではなく市中取り締まりであるのに、人口密度が高く狭小な道が多い洛中を騎馬隊が駆けぬけて銃を撃ちまくるなど、現実にはありえない。イメージ的には西部劇か。
いちいちリアリティを云々するのも無粋だが、実際にはこのようなことが不可能だからこそ新選組や見廻組は刀槍主体で任務をこなしていた、という事実は忘れずにおきたい。

本作には、幕末維新という時代を象徴するかのような二極対立が、様々に描かれている。
日本古来の武術 vs. 西洋の近代兵器――
幕府の存続を堅持する者 vs. 新しい日本の在り方を模索する者――
多くを語らずひたすら尽くす献身的な愛 vs. 言葉を飾り相手を支配しようとする身勝手な愛――
これらのせめぎ合いの中に、作者の哲学が垣間見える気がした。

全体として奇想天外、波瀾万丈の展開につい引き込まれてしまう快作。
心理描写はリアルなので、アクションなどが荒唐無稽でもついていける。
登場人物の多さゆえ込み入った面もある。普通に読んでも楽しめるものの、メモでも取って整理しながら読んだほうがわかりやすいかも。
最後、嵐の海へ出航した軍艦の中で迎える結末は悲劇的。ただし、因縁の対決に決着がつくのでカタルシスはある。

山田風太郎の忍法帖シリーズは、1958~59年の雑誌連載を初出とする『甲賀忍法帖』を皮切りに、長編27作、短編90作が発表され、一大ブームとなった。

本作『飛騨忍法帖』は、1959年に雑誌連載された初期作品。
タイトルは『飛騨幻法帖』『軍艦忍法帖』とされることも。
書籍は、下記のとおり刊行されている。
『飛騨忍法帖』 東都書房 1960
『山田風太郎忍法全集 第3 飛騨忍法帖』 講談社 1963 (※1994-96年版全集には未収録)
『飛騨忍法帖』 講談社ロマン・ブックス 1967
『軍艦忍法帖』 角川文庫 1986 (『飛騨忍法帖』の改題)
『飛騨忍法帖』 文春ネスコ 2003 (角川刊『軍艦忍法帖』を底本として再刊)

なお、本作のほか新選組が登場する山田風太郎作品としては、長編『旅人国定龍次』、短編「新選組の道化師」がある。また、長編『警視庁草紙』には藤田五郎(斎藤一)が出てくる。

飛騨忍法帖
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