新選組の本を読む ~誠の栞~

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 山田風太郎『幕末妖人伝』 

作者の幕末明治もの短編7作を収録した「時代短篇選集1」。
このうち、新選組が関わるのは「おれは不知火」「新選組の道化師」の2作品。

「おれは不知火」
※幕末妖人伝 第三話(初出時は第二話)「河上彦斎」(←作品末尾に付された副題、以下同)
元治元年7月、佐久間象山が何者かに暗殺される。
遺児・恪二郎は仇討ちを強く望み、会津藩士・山本覚馬の紹介で新選組に入隊した。
ところが、義理の伯父・勝海舟からの手紙により、犯人は肥後の河上彦斎であること、現在は長州藩内にいることを知る。
また、義母・順子も仇討ちを願い、自らの再婚相手・村上俊五郎と、女中・お酉を助っ人として差し向けてきた。恪二郎は、このふたりと連れだって旅立つ。
一方、河上彦斎は肥後へ戻り、藩論を反幕府へ転換させようと試みて投獄される。
保守派の重役は、恪二郎に彦斎を斬らせようとする。

佐久間恪二郎(三浦啓之助)は、子母澤寛「象山の伜」、神坂次郎「影(シャドウ・ボーイ)男」、戸部新十郎「大望の身」にも登場する人物。
これらでは、能力もないのにプライドばかり高いダメ二世と設定されているが、本作ではそうでもない。
新選組の実態に拒否感を覚えながらも真面目に勤務し、仇討ちの本懐を遂げようと努力を続ける。

また、村上俊五郎の存在がユニーク。本作では、剣の腕がありながら新内節が得意で、流しの芸人を巧みに装う、へらへらした男と描写されている。
永倉新八の証言(『新撰組顛末記』『新選組奮戦記』)では、浪士組が上京する途次、山南敬助に余計なことを言って怒らせたという逸話の持ち主なのだが、かなりイメージが違う。

「新選組の道化師」
※(初出時は幕末妖人伝 第四話「芹沢鴨」)
常陸国行方郡芹ヶ沢の豪家の次男・木村継次は、神道無念流・戸ヶ崎熊太郎の道場で師範代を務める腕の持ち主。その理想は、「大義のために死ぬこと」だった。
戊午の密勅をきっかけとして井伊大老襲撃計画に加わるものの、郷士出身であることを理由に外される。次の安藤信正襲撃計画でもまた同様だった。
忌まわしい記憶に満ちた江戸を離れるべく、浪士組に加わり「芹沢鴨」と名を変えた彼は、京へ上る。

本作の芹沢鴨は、3日と置かず女色に接しないと正気を保てない、という困った体質の持ち主。
大義に命を捧げる願いが何度も挫折するのも、結局はこの体質が原因となっている。
芹沢が引き起こす厄介事をいつも後始末する新見錦が、なんとも甲斐甲斐しい。
また、芹沢が戸ヶ崎道場にいた頃から、近藤勇土方歳三らと知り合いだった、という設定が面白い。土方はよく稽古のために訪ねていくが、近藤は剣呑なものを感じて避けている。

そのほか収録作品は、以下のとおり。

「からすがね検校」
※幕末妖人伝 第一話「男谷検校」
座頭の平蔵が、極貧から高利貸しとして成り上がっていく一方、将軍家指南役・柳生又右衛門と奇妙な因縁を持つ。石坂宋哲、柳生十兵衛、男谷精一郎、勝小吉も登場。

「ヤマトフの逃亡」
※幕末妖人伝 第二話「日本人ヤマトフ」
掛川藩太田家の家臣・立花久米蔵(蘭方医・立花耕斎)が、極端な開明論を唱えたために危険分子とみなされ、お尋ね者となって、壮絶な逃亡劇の果てに日本を脱出する顛末。

「首の座」
※幕末妖人伝 第四話「江藤新平」
慶応4年の浦上四番崩れを題材とした物語。九州鎮撫総督として長崎に着任した沢宣嘉は、キリシタンの中心人物である青年に改宗を迫り、苛烈な弾圧を加える。
部下の江藤新平は、沢がかつて生野の変から生き延びた顛末を突きつけ、笑ったものの…。

「東京南町奉行」
※幕末妖人伝 第五話(初出時は第一話)「鳥居耀蔵」
瓦解後、世の変わり様を悲憤慷慨してやまない林頑固斎は、その論の過激さと旧幕時代の辣腕によって周囲から恐れ疎まれていた。この林老人が、岩倉使節団に随行する青年の秘密計画を知って、自分自身すら思いも寄らなかった行動に出る。
木村毅(摂津守)、福沢諭吉、勝海舟なども登場する。

「伝馬町から今晩は」
※(初出時は幕末妖人伝 第三話「高野長英」)
伝馬町牢屋敷に投獄されていた高野長英が、火災による切放しをきっかけに脱走し、知る辺を次々と訪れる。脱走犯に関わった者達はことごとく破滅するが、長英は逃亡・潜伏を続ける。

いずれの作品も実際の出来事、実在の人物を題材としているが、ストーリーは虚実ないまぜ。
しかし、フィクションと割り切って楽しむなら、何の問題も無い。
事実でないとわかっていてもつい引き込まれてしまう、筋運びの巧さはさすがと感じる。
また、人間心理の不思議さ、運命の皮肉さを、よく描き出している。

巻末の編者(日下三蔵)解説によると、山田風太郎は1947年(昭和22)に作家デビュー。
1958年から約12年間、「忍法帖」シリーズを発表し、人気作家の地位を不動のものとする。
『飛騨忍法帖』もその1作。)
1973年からは、明治期を題材とする伝奇小説に力を入れ、『警視庁草紙』『幻燈辻馬車』『地の果ての獄』『明治断頭台』『エドの舞踏会』などの長編名作を発表した。
その忍法帖から明治ものへ移行する過渡期の1971~73年、幕末明治期を扱った中・短編を多く書いており、それらは文芸誌に掲載の後、3冊の作品集(下記)にまとめられた。

『斬奸状は馬車に乗って』 講談社 1973
 表題作ほか「笈ノ目万兵衛門外へ」「獣人の獄」「切腹禁止令」「大谷刑部は幕末に死ぬ」
『幕末妖人伝』 講談社 1974 (講談社ロマン・ブックス 1979)
 「からすがね検校」「ヤマトフの逃亡」「おれは不知火」「首の座」「東京南町奉行」
『南無殺生三万人』 東京文芸社 1975
 表題作ほか「非人八万騎」「伝馬町から今晩は」「陰萎将軍伝」「新選組の道化師」「明治暗黒星」

いずれも、作者の時代短編小説として高評価を得ている作品群である。後に明治もの長編小説を執筆する契機となった作品も含まれている。
これらの中から7作を選んで収録したのが、本項の主題書である小学館文庫『幕末妖人伝』 (2013)。
ちなみに、ほかの短編は同「時代短篇選集」シリーズ続巻『斬奸状は馬車に乗って』『明治かげろう俥』(2013)に収録されている。

「おれは不知火」は、前掲書以外には下記の書籍に収録される。
『東京南町奉行』 旺文社文庫 1987
『東京南町奉行』 大陸文庫 1989
『おれは不知火』 〈山田風太郎コレクション維新編〉 河出文庫 1993
『剣狼 幕末を駆けた七人の兵法者』(作家8名の作品集) 新潮文庫 2007

「新選組の道化師」は、同様に下記に収録。
『ヤマトフの逃亡』 〈山田風太郎傑作大全19〉 廣済堂文庫 1998

なお、「新選組の道化師」はマンガ化されている。
タイトルは同じく「新選組の道化師」、副題として「新選組初代局長・芹沢鴨物語」とある。
原作・山田風太郎、作画・田中憲による描き下ろし作品。
2004年、講談社コミッククリエイトよりKCピース・シリーズとして出版。
ストーリーは概ね原作小説に忠実ながら、主に土方歳三の視点から展開する、終章として新選組の末路と土方の死が描かれる、といったオリジナリティもある。

幕末妖人伝
時代短篇選集〈1〉
(小学館文庫)
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新選組の道化師
新選組初代局長・
芹沢鴨物語
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COMMENT FORM

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ご紹介の中では、やはりこの人に話が面白そうですね。仰るように鴨と近藤、土方が知り合いだったというのは小説とすれば面白いですね。
江戸で思い通りの活動ができず浪士組に加わるという話も、鴨にある種のコンプレックスを感じさせるいい設定だと思います。
一説に鴨は瘡(梅毒?)を患っていて、その恐怖から逃れるために酒に逃げていたという話を読んだことがあります。
それが本当であるなら、きわめて人間的な弱さを持つ人物だといえますね。

2014/01/26(Sun) |URL|イッセー [edit]

イッセーさんへ

イッセーさん、コメントありがとうございます。

芹沢鴨について、「天狗党の生き残り」だとか『新選組始末記』にありますよね。
そこから、作者は閣老暗殺計画への参加を考えついたのでは?と感じました。

「新選組の道化師」の芹沢は、女なしではいられない体質ですが、決して女を奴隷や品物扱いしているわけでなく、むしろフェミニストなところが哀れでもあり滑稽でもあります。
江戸を離れたいと思ったのも、身分を理由に「義挙」から除外されたことと同時に、女性関係で取り返しのつかない不始末を起こし自己嫌悪に陥ったことが原因しています。

近藤・土方らとは、江戸ではそれなりに親しい間柄であったのに、京へ上ってからは…という展開にもペーソスとアイロニーを感じました。

実際の人柄は知る由もありませんが、「人間的な弱さ」を抱えて悩み苦しんでいる本作の芹沢鴨は、なかなか魅力的なキャラクターです。

2014/01/27(Mon) |URL|東屋梢風 [edit]

スミマセン。
今さらで恐縮ですが、リンクを貼らせていただいても
よろしいでしょうか?
お願いします。

2014/02/12(Wed) |URL|イッセー [edit]

イッセーさんへ

お申し出どうもありがとうございます。
こちらこそよろしくお願い申し上げます。

2014/02/12(Wed) |URL|東屋梢風 [edit]

警視庁草紙

先日、「警視庁草紙」を読みました。
脇役で、警視庁に奉職した斉藤一が出てきます。
明治の斉藤は、こんな感じだったかなと思えます。

2014/03/30(Sun) |URL|やぶひび [edit]

やぶひびさんへ

『警視庁草紙』も山田風太郎の傑作ですよね。
当ブログでは、下記の記事にて少々触れました。

斎藤一の本
http://bookrest.blog.fc2.com/blog-entry-140.html
山田風太郎『飛騨忍法帖』
http://bookrest.blog.fc2.com/blog-entry-150.html

いずれきちんと取り上げたいと思っています。

2014/03/30(Sun) |URL|東屋梢風 [edit]

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