新選組の本を読む ~誠の栞~

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 木内昇『新選組 幕末の青嵐』 

長編小説。タイトル読みは「しんせんぐみ ばくまつのせいらん」。
新選組の草創から終焉を、主な隊士や関係人物ら多数の視点から描き出す。
ストーリーは在京期に重点を置いている。

主な登場人物は実在した人物、出来事はほぼ史実のとおりと、オーソドックスな新選組小説。
余分なものを足したり、必要なものを省いたりせず、基本に忠実かつ丁寧に構築されている。
これから新選組小説をいろいろと読んでみようという向き、荒唐無稽なトンデモ設定やどぎついエログロ描写は要らないという向きにも、安心してオススメできる秀作。

内容の特徴を知るには目次を見るのが最適と思われるので、以下に引用してみた。

遠景の光
暗闇 土方歳三
武州 佐藤彦五郎
試衛館 沖田総司
策謀 清川八郎
浪士組 近藤勇
今の若い者は 鵜殿鳩翁
京 山南敬助
裏切り 土方歳三
離脱 近藤勇
組織と個人と 山岡鉄太郎

足下の薄氷
壬生浪士組 芹沢鴨
恍惚 斎藤一
局中法度 井上源三郎
回り道 永倉新八
八月十八日の政変 原田左之助
粛清 近藤勇
切腹 土方歳三
学問と修行と 山南敬助

烟月の夜
蠕動 永倉新八
大きなもの 沖田総司
長州間者 斎藤一
盟友 佐藤彦五郎
停滞 近藤勇
覚悟 井上源三郎
桝屋 武田観柳斎
煙草盆 山南敬助
池田屋 藤堂平助
血 土方歳三

覇者の風招き
英雄 原田左之助
武士 土方歳三
帰還 近藤勇
再起 山南敬助
脱走 沖田総司
ほころび 土方歳三

一筋の露
焦燥 藤堂平助
勤王 伊東甲子太郎
密偵 斎藤一
大政奉還 井上源三郎
坂本龍馬 藤堂平助
油小路 永倉新八
王政復古 井上源三郎

洛陽の嵐
鳥羽伏見 土方歳三

記憶

文体は一貫して三人称ながら、目次のとおり時々の局面をそれぞれの人物の主観で描いている。
こうした手法は、作者の専売特許というわけではなく、多くの作家に用いられてきた。
ただ、主観人物と視点変更がこれほど多く、しかも長編小説ながら一編ごとに明確な区切りをつけた作品は、あまり類がないと思う。
これを読みにくいと思う読者もいるかもしれないが、当方は群像劇として面白く読めた。

新選組を題材に話を作る時、苦心する点のひとつは人物の描き分けだと思う。
フィクションは、それぞれの個性がはっきりしなければ面白くない。しかし、試衛館一党だけでも8~9人いるところへ、芹沢派、伊東派、そのほか隊士や関係人物の多数が入れ代わり立ち替わり登場するとなると、描き分けにはなかなか工夫を要する。
本作は、それぞれの人物の性格や考え方などの内面と、それがどのような言動となって現れるかという外面、双方合わせた個性をよく描き分けている、と感じた。
脇役人物については類型的なところもあるが、中心人物はなかなか掘り下げられている。

主要人物のそれぞれは、仲間内で、属する組織の中で、そして目まぐるしく変化していく大きな社会の中で、おのれが何を拠り所に生きていくのかを模索している。その内省的な心情が、わかりやすく丁寧に描写されている。
彼らの価値観はかなり現代的と感じる。「当時の人はこのように考えるだろうか」と多少疑問を覚える面もあるのだが、一方で「昔も今も人の考えはそう変わらないだろうな」とも思える。一種絶妙のバランスと言えるかもしれない。

作者は時代小説を書くことを、雑誌インタビューにて以下のように語っている。

一本調子になってしまうと、それこそ過去のことで、関係ないやという意識でとられてしまうかもしれないですが、多角的に描いていくことで、自分の身にも起こりうるかもとか、生々しく書くことでちょっと自分の身に振り返って感じられるというのがおもしろいと思っています。
自分の書いたものが「昔のお話」という感じで読まれてしまうのが一番こわいんですね。
――「いま、新選組を描くということ」(『歴史読本』2012年9月号掲載)より

つまり、本作を書くに当たって、いわゆる「歴史上の英雄ではない等身大の青春群像」を描きたい、現代の読者にも新選組の面々を身近な存在と感じて欲しい、という意図があったのだろう。
その試みは成功している、と思う。
世間の価値観にとらわれることなく理想の実現に熱意を傾ける土方歳三、理想と現実との乖離に悩み疲れていく山南敬助など、我々の周囲にもいそうな人物と思えてくる。

近藤勇が純朴過ぎておバカなところは、司馬遼太郎の影響ではないかと感じた。雑誌インタビューによると、やはり作者は司馬作品が好きだそうだ。
土方や沖田の描写も、いくらか司馬的なものを感じさせる。
他の試衛館派の中で、特に永倉新八の造形――いつも冷静で、自分自身を「普通の人間」と捉えているなど――には作者なりの独自性が感じられ、興味深く思えた。

人物同士の相互関係や、他者を見る目線(人物評)も面白い。
井上源三郎が土方歳三を理解し、口には出さずとも様々に気遣っているところは、心温まる。
沖田総司は、天才すぎて理解されにくいというか、誰からも「わけのわからないことばかり言う奴」とみなされているものの、本人は全然気にしていないところがユーモラス。

藤堂平助が、近藤・土方らに反発して隊を離れ、斎藤一の忠告にも耳を貸さなかったけれども、彼らの真意を知った時にはすでに遅く……という場面は、切ない。
序盤と中盤に登場した佐藤彦五郎が最後にも登場し、在りし日の近藤や沖田、そして義弟・歳三の姿を思い出す場面は、哀しくも懐かしさ愛おしさに満ちている。

「青嵐」という言葉の意味を調べると、「1.青々とした山の気。 2.青葉のころに吹きわたる風。あおあらし」と説明されている。
新選組という組織を、ひいては幕末という時代を牽引したのは若者達のエネルギーであり、それらが激しく、時にはぶつかり合いながら駆け抜けていったことを感じさせる、相応しいタイトルと思えた。

本作は、作者の小説家デビュー第一作と聞く。
デビュー作でこれだけ書けるなら、もっとオリジナリティを盛り込んだものも上手いだろう。
多くの作家が描いてきて半ば定説化しているような事柄から一歩抜け出して、それでいて荒唐無稽なトンデモ話に陥らない作品を、作者には書けるはずだし、書いてもらいたいと思った。
新選組を題材とした小説は、本作と翌年発表の『地虫鳴く』との2作だけらしいが、今後に期待したい。

2004年、アスコムより単行本が出版。
2009年、集英社文庫版が刊行された。

新選組 幕末の青嵐
(集英社文庫)
>>詳細を見る



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現代的な視点

こんばんは。

150年前の人物の心情を完全に理解するというのは、おそらく不可能に近いのではないかと思います。そこに現代的な解釈を与えるからこそ小説として成立するのかもしれませんね。

ご紹介されたこの作品の中では、井上源三郎の視点で書かれた話に興味があります。試衛館一派の中では常に脇役で語られることが多いですからね。
しかし、試衛館一派では最古参ですし、存在感はもっとあったのではと思っています。

しかし、近藤局長は司馬遼太郎を恨んでるんじゃないですかね?どんな作品でも司馬的イメージが強いですよね。かく言うワタクシのマンガもそうなんですが・・・(汗;)

2014/02/23(Sun) |URL|イッセー [edit]

イッセーさんへ

イッセーさん、コメントありがとうございます。

仰せのとおり、現代人が幕末人の内面を完全に理解するのはほぼ不可能と思います。
司馬遼太郎とか浅田次郎とかベテランの作品を読むと、かなりリアルな描写もあり感心させられますが、それだとて現代人の感覚というフィルターを通して表現されたものに違いありませんよね。

本作を読んでいて、つい「ここがこうだったらいいのに」と考えてしまうことが何度かありました。
単純な娯楽作品ならさして気にしないのですが、本作は真面目にきっちりと書かれており、なおかつ作者の技術にまだ伸びしろがあると感じさせるので、いろいろ惜しくなったというか。
ただ、すでに10年前の処女作ですし、他の作家とあれこれ比べるのもどうか思い、具体的に細かく突っ込むのは控えました。
新選組とは関係なさそうですが、『茗荷谷の猫』『漂砂のうたう』『ある男』『櫛挽道守(くしひきちもり)』などの幕末~明治初期を題材とした木内作品も、いつか読んでみたい気がします。

本作の源さん、なかなかいいですよ。
近藤さんの自慢癖を微笑ましく思い、病床に伏せる総司を励まし、困難があっても誰にも相談しない歳さんを気遣い、控えめに言葉をかけます。
皆一緒にいつか多摩へ帰って、若者達に剣術を教えたり、子供や孫に昔の自慢話を聞かせたりして余生を暮らしたい……と鳥羽伏見開戦前に夢想する場面は、正直ぐっと来ました。

フィクションに大なり小なり誇張が入るのは、やむを得ないでしょう。
実際はそんなバカじゃないってちゃんとわかってますよ、ねえ近藤先生(笑)

2014/02/24(Mon) |URL|東屋梢風 [edit]

テンプレート

すごくシンプルになりましたね。
でも、確かに読みやすさは上がったように思います。
これくらいシンプルな方が、「誠の栞」には合っているかもしれませんね。
天然理心流剣術のようにストレートです!

2014/03/22(Sat) |URL|イッセー [edit]

イッセーさんへ

前のテンプレも好きですが、少し気分を変えたくなりました。
殺風景なほどシンプルなデザイン、横幅960ピクセルもしくはそれ以上、フォントはメイリオ使用、というブログを近頃よく見かけ、読みやすそうに思えたので真似した次第です。
元のデザインはグレー系なのを、ブルー系にカスタマイズしました。
もう少し手を加えたいところもあり、追々に取り組んでいくつもりです。
(携帯用、スマホ用テンプレは従来のまま保留してあります。)
よろしくご了承ください。

2014/03/23(Sun) |URL|東屋梢風 [edit]

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