新選組の本を読む ~誠の栞~

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 大内美予子『沖田総司拾遺』 

沖田総司の生涯におけるさまざまな逸話を描いた小説5編とエッセイ1編、合計6編を収録する。
作者の長編小説『沖田総司』の番外編的な内容。

「竹馬と竹刀」
総司が幼少期から青年期へ成長していく過程と、周囲の人々との関わりを描く短編。
幼ない頃は、日野で姉夫婦と暮らしていた。姉のお光は、弟の腕白ぶりにほとほと手を焼く。その苦労を、労り励ますのが土方歳三の姉おのぶであった。
9歳の時、江戸の試衛館道場に入門、住み込みの弟子となる。剣の腕は順調に上達していく。
12歳の時、阿部藩の指南役に剣才を見込まれ、養子入りを持ちかけられる。
18歳で天然理心流の免許皆伝を受け、師範代を務めるまでに成長。
近藤勇の四代目襲名披露の野試合では、本陣付きとして合図の太鼓を受け持つ。すっかり大人になったようでいて、試合の後は子供たちと遊ぶほうが楽しそうな総司。
19歳(文久2年)の夏、当時流行していた麻疹にかかる。周囲の人々は容態を案じる。

史料や伝承を取り入れつつ、自由な想像力によって紡がれたストーリー。
姉お光、義兄の林太郎、土方歳三、近藤勇や近藤周斎などとの交流が、ほのぼのと描かれる。
周囲の人々から愛され成長していく様子に、心温まる。
本作では、総司の父は病死し、母は他家へ再縁したという設定。麻疹にかかった総司が、母宛ての手紙を自らの死後残すまいと処分する心境は、微笑ましくも切ない。

「おしの」
総司と武家娘おしの。ふたりの出会いと再会、苦しい恋の行方を描く中編。
上京の前年、江戸の近藤道場でひとり稽古をしていた総司。そこへ、必死の面持ちで駆け込んできたおしの。
助けを請われ、導かれるまま駆けつけた先では、彼女の兄が死に瀕していた……。
衝撃的な出会いの翌年。ふたりは偶然にも京都、鴨川の畔で再会を果たす。
悲しみを思い出させまいと総司は早々に立ち去るが、おしのは名残惜しく思う。
彼女が京へ来たのは、兄と懇意だった桂小五郎の世話により、公家屋敷に奉公するためだった。
そして、桂に命じられ、何やら手紙を運ばされたりもしていた。
桂は、おしのが総司と知り合いであったと気づき、その関係を利用しようと思い立つ。
総司は、そうした事情をまったく知らず、彼女の願いに応じて会うようになる。

桂小五郎に加えて、吉田稔麿も登場する。
おしのの扱いをめぐり、稔麿が桂に意見するところなど、それぞれの人間性が窺えて興味深い。
出版当時、稔麿は池田屋で総司と戦って死んだ、という通説が流布していた。本作では、池田屋事件の前にも両者が対峙し、息詰まる場面がある。
土方歳三が隊務のかたわら、総司のため密かに心を砕いている様子は、いかにも彼らしい。
また、総司&おしのの関係と並行して、桂&幾松の関係も描かれ、それぞれの愛の在り方を考えさせる。
おしのの恋心が報われないのは予測できたものの、この結末はあまりに悲しく残念に思えた。

「月と姫君」
総司と公家の幼い姫との、楽しくも短い交流を描く短編。
ある夜、子連れの男が襲撃されているのを目撃した総司は、駆けつけて犯人たちを追い払う。
男は公家の家臣であり、屋敷が襲われ主人が殺されたこと、姫が連れ去られようとしたことを語り絶命した。
傍らの姫を保護した総司は、襲撃犯の追撃を退け、やむなく屯所へ連れ帰る。
裕子姫は、亡き母の実家である大名家に引き取られることが決まった。
ただ、国許から迎えが来るまでの間、総司が姫の面倒を見るはめになってしまう。

裕子姫は7歳とあるので、現代の満年齢でいうと5~6歳であろう。
高貴な生まれ育ちによる浮き世離れした言動が、総司を戸惑わせ、周囲の笑いを誘う。
総司が裕子姫に教わるうたぐさり(歌鎖)の遊びが、雅びやか。
苦労の一方で楽しくもあった日々は、やがて終わりを告げる。その寂しさと、二度と会うこともない相手の幸福を祈る思いは、心に染み入る。

作中、渋沢栄一の要請によって、大沢源次郎(源二郎)が情報漏洩の容疑で逮捕される。
これは慶応2年11月頃、実際にあった事件を参考にしている。
御書院番士・大沢源次郎は、不逞浪士と共謀し反逆を企てた容疑のため、渋沢と新選組によって捕縛され、江戸へ送られた。後日の取り調べで判明した罪状は、物産取引にからむ汚職、ならびに出頭命令の無視だった。

「壬生心中」
松原忠司の道ならぬ恋と、それを知った総司の思いを描く中編。
新選組の副長助勤・柔術師範の松原忠司は、愛嬌のある親切者ながら、酒癖の良くないところがあった。
四条大橋あたりを酔歩していたある夜、すれ違った浪人を些細な諍いから斬ってしまう。
後悔の念に駆られ、遺体を浪人の住居へ運ぶと、そこでは妻女いくが重病の男児を看病していた。
自分が手を下したとは言い出せないまま、松原は総司の助けを借りて男児を医者へ運ぶ……。
不幸にうちひしがれるいくを、松原は放っておけず、つい面倒を見るようになっていった。
一方、総司は、浪人を斬った犯人を捜し出し敵を討つ、と憤る。

『新選組物語』所収の「壬生心中」に、独自のアレンジを加えた物語。
総司が男児と親しく、壬生寺の境内で遊んでやっていた、という設定である。
松原と未亡人いく、ふたりが先行きのない恋に落ち、陶酔の一方で閉塞と絶望へ追い込まれていくさまに胸が詰まる。
一連の出来事をめぐる総司と原田左之助とのやりとりが、深刻な展開の緩和剤ともなっている。
最後、光縁寺に残された松原の埋葬記録の謎に触れたところが興味深い。

「岐路」
新選組隊士の桜井大輔と酒井兵庫、それぞれの道が分かれていくさまを描く短編。
幼い頃から一緒に育った従兄弟同士の大輔と兵庫。大輔は快活で武芸が好き、兵庫は沈着で学問が得意と性格が異なり、風貌も対照的だったものの、妙にウマが合った。
そんなふたりが揃って、結成初期の新選組に入隊を果たす。
大輔は、井上源三郎の組下に配属され、池田屋事件をきっかけに沖田総司の組下へ転属となる。多くの実戦を経て成長し、沖田とも信頼関係を築いていく。
一方の兵庫は、頭脳を買われて文書や会計の処理に携わる。しかし、新選組の実態を知るにつれ、「勤王」を掲げながら「勤王」の志士を斃す、という矛盾に違和感を抱くようになっていた。
心配した大輔が声をかけても、彼に理解されないと思う兵庫は何も語ろうとしない。
そんな時、兵庫が薩摩藩の海江田武次と偶然に遭遇する。海江田は、長州藩との繋がりを新選組に探られている人物だった。

酒井兵庫は実在の隊士。西村兼文『新撰組始末記』には、脱走して沖田に斬られ、命を取り留めながらも傷の深さに驚きショック死した、とある。ただし実際は何らかの理由で退職し、脱走したわけではなかった模様。
桜井大輔については実在が確認できず、架空の人物と思われる。

大輔の目から見た沖田総司、井上源三郎の人物像や関係が興味深い。
隊士の前では弱さを見せない沖田も、井上には気を許している。井上もまた沖田を甘やかしては、土方歳三から意見されている様子で、郷党であり同門である彼らの心理的な繋がりが微笑ましい。
また、沖田の素っ気ない態度に隠された信頼に対して、大輔も部下として応えようと努める。
井上は、絶望した大輔を穏やかに諭す。優しさの奥の厳しさに気づいた大輔は、闘志を取り戻すのだった。
最後、大輔は井上の励ましのとおり、本懐を遂げたのだろう。それが兵庫にも伝わっていて欲しい。
そして、そうした一人ひとりの思いなど斟酌することなく、何もかも打ち砕く戦争の無惨さを感じた。

「沖田総司拾遺」
取材や史料調査の体験談と、それらから感じ取った沖田総司の生涯について綴る創作ノート。
小説ではなく、ノンフィクション的なエッセイである。下記のとおり全5章の構成。

一、沖田の生い立ちとその周辺
二、多摩という土地の持つ意味
三、京都における挿話
四、伏見から江戸へ
五、結び


作者の小説が、想像力だけでなく、地道な情報収集に基づいて創作されたとよくわかる一編。
関係者子孫や研究家から直接聞いた話が紹介される。中でも、日野と沖田家との関係については貴重な証言。
総司の姉お光を知る人が、この頃はまだ存命だったという事実を感慨深く感じた。
総司の実像を知る手がかりとして、目を通しておいて損はないと思う。

本書は、長編小説『沖田総司』に次ぐ、大内美予子の単著2冊目である。
前作の挿話的な中短編が主となっている。前作出版の際、編集者のアドバイスにより割愛した部分があったというから、それを書き直したものであろう。
総司がさまざまな人生の試練にめげず成長し、動乱の渦中を生き抜く姿は、前作と変わりない。
前作に登場した悍馬・初霜が「月と姫君」にも出てくる、といった共通項もある。
人物の心理描写が細やかでリアリティがあり、作者の技術力を感じさせるところも同じ。

新人物往来社より、単行本が1973年(初版)と2003年(新装版)に出版された。
巻末あとがきとして、初版には「記」、新装版には「新装版によせて」が掲載されている。

下記のとおり、アンソロジーに収録された例もある。
「おしの」 →『血闘!新選組』 実業之日本社 2016
「月と姫君」 →『沖田総司・青春の愛と死』 新人物往来社 2001

沖田総司拾遺
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