新選組の本を読む ~誠の栞~

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 森村誠一『新選組剣客伝』 

長編小説。新選組に入隊した斎藤一が、闘争の日々に疑問を抱き、新しい生き方を模索するさまを描く。

全体の構成は、章にエピローグを加えた5部から成っている。
内容は以下のとおり。

一 正装(フォーマル)の入隊
文久3年(1863)、会津藩士・山口祐助の息子である一は、江戸の会津藩邸に呼び出された。
そして、重役諸氏から「京へ上り新選組に所属せよ」と命じられる。目的は、組織の戦力補強と暴走阻止だった。
ごろつきを斬って追われていた一は、渡りに舟と京へ赴く。名も「斎藤一」と変えた。
着京後、しばしの自由を楽しもうと島原や祇園で遊びながら、京の情勢や新選組の様子をそれとなく観察。
ある夜、新選組の巡察隊が西国浪士の集団と戦うのを目撃し、少人数で苦戦する隊士らに加勢した。
翌日、服装を新しく整えた一は、屯所に出向いて入隊試験を受ける。
高い実力を持ち、試衛館の人々とすでに江戸で知りあっていた一は、難なく合格した。

二 暗夜の刺客
新選組を疎ましがる尊攘志士の集団が、夜間、壬生屯所の前川邸を襲撃してくる。
いち早く気づいた一の活躍もあり、前川邸を宿舎としていた近藤派は一丸となって撃退した。
一方、局長のひとり芹沢鴨は、強引な借金や遊所での乱行など横暴を尽くし、世の顰蹙と会津藩の怒りを招く。
近藤派の幹部たちは、ついに芹沢派の排除を決意。
土方歳三から芹沢暗殺を命じられた一は、芹沢の優しさや孤独など人間性を知るだけに、迷い苦しむ。

三 脱走した恋
暗殺グループの先頭に立った一は、苦悩しながらもやむなく粛清の剣を振るう。
そして、せめてもの償いとして、引き取り手のないお梅の遺骸を小さな古寺に埋葬するのだった。
やがて、ある西国浪士と知り合って意気投合、無益な争いのない平和な世の到来を語り合う。
まもなく尊攘派の蜂起計画が発覚し、阻止すべく出動する新選組。
池田屋の屋外を守備していた一は、敵方の中にあの浪士・朝倉英之進を発見する――。
池田屋事件によって、新選組の勇名は鳴り響く。得意の絶頂にある土方は、隊内の独裁支配を強める。
そこへ伊東甲子太郎の一派が入隊し、山南敬助が脱走をくわだてて切腹を言い渡される。
隊士たちの心は近藤・土方から離れ、新選組の結束は揺らぐ。

四 美しい執念
土方は、松原忠司、河合耆三郎、谷三十郎などの己の意に染まぬ者たちを、独断専行により次々と粛清。
一は、土方に対する反感を心中に募らせ、いずれ自分も粛清されるのではと警戒するようになっていった。
そんな時、伊東派の分離脱退が決定。近藤・土方は、一に監視役として伊東派に潜入するよう命じる。
新選組を公然と出られて喜ぶ一だったが、坂本龍馬が暗殺され、自分に嫌疑がかけられそうな雲行きとなる。
難しい対処を迫られていた時、一の前に現れたのは――
これ以後、一は新たな人生を歩み出す。
人の命を奪うよりも助けることを目標として、戊辰の戦乱をくぐり抜け、新時代を生きていくのだった。

エピローグ
時代がずっと下って、2015年の日本。
安全保障関連法案の可決に反対する人々が、国会議事堂の前でデモ活動をしている。

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斎藤一は、経歴不明の謎多き隊士だったが、近頃は研究が進んで実像が明確になりつつある。
しかし本作は、そういう斎藤一を主人公としながらも、史実に沿わない独自の設定を多く交えて描いている。
特に第四章からは、まったくの創作となる。一種のファンタジー小説と思って読むべきかと感じた。

小説は虚構なのだから、史実と異なっていても、もちろん問題ないと思う。
ただし、本作の場合はいろいろと引っかかることが多い。
一例を挙げれば、斎藤一は会津藩士の子と設定され、会津藩の命令で新選組に入隊する。しかしその後、会津藩に新選組の内情を報告するわけでなく、すべて自己判断で行動し、隊を離れる際も何ら許可をとらない。また維新後も、会津の旧主旧臣とは特に関わりを持たずに生きている。
つまり、会津藩士の子という設定に、何ら必然性が窺えないのだ。それなら定説どおり、御家人の子でかまわないのではなかろうか。独自の設定をするなら、それなりの必然性が欲しい。

必然性云々を別としても、道理に合わない流れはどう解釈すべきだろう。
例えば、維新後の一は、世俗を離れ隠棲していた。かと思えば、「藤田五郎」と名を変えて警視庁の警部補となり、また旧隊士の赦免を新政府に嘆願している。
常識的に考えて、そのようなことは当時、身元の確かな者でなければ到底無理であったろう。
本作では、旧会津藩関係者の後ろ盾もないのにどうして可能となったのか、根拠が示されず理解に苦しむ。

一の行動原理が、あまり武士らしくなくて、現代の若者のように感じられる。
当時の社会における武士は、いくら理想に目覚めようとも、主に尽くすべき忠、自分の立場として守るべき義を、そう簡単には捨てられないのではあるまいか。
まるで現代人がブラック企業に見切りをつけて社会貢献活動に転身するかのように、何でも個人の意志で決められる自由や価値観はなかったと思う。

作者の新選組に対する考え方は、当ブログでも以前紹介した『新選組』の頃と変わっていない。
すなわち、銃砲の時代となっても剣を振り回し、指導者の強権によって所属者を抑圧する時代錯誤的な集団・新選組が、時代の流れに抗い続けたあげく、自滅していく。
しかし、この「時代錯誤」という評価は、後の歴史を知る現代人の視点でなされている。
そもそも封建時代の日本を描いて、新選組だけがことさら閉鎖的、非民主的であるかのように強調、批判するのもいかがなものだろうか。

その新選組を牛耳る土方歳三は、気に入らない者を強制排除する横暴な独裁者とされる。
それならそれで、悪逆非道ぶりが「これでもか」とばかり描かれていれば、まだ楽しみようがある。
ところが、具体的エピソードが少なく、印象に残らない。山南を脱走罪に処したり、松原や河合を死に追い込んだりの場面はあるが、型にはまった感じがする。こういうところにこそオリジナリティを発揮し、真に迫った描写を盛り込むのが、作者の手腕ではないだろうか。
「土方は横暴な独裁者」という言葉のみの説明を繰り返されても、読み手としては作者の脳内設定を押しつけられている感じで、納得しづらい。

相馬主計が、新選組への怨みを抱く者として登場する。これも、作者の『新選組』との共通項。
それなりに面白くはあるが、史実とは遠い設定でもあり、相馬ファンにとっては受け止めにくいかも。

近藤勇の最期は、単なる刑死に終わらず、独自の展開がある。
期待感を持たせるなら、それはそれで良いと思う。
ただ、「大久保大和」の正体に最初に気づいたとされる彦根藩士・渡辺九郎左衛門が、本作では試衛館の門人とされ、にもかかわらず役人に余計なことをしゃべる展開は、あまり肯けない。

本作の沖田総司には、お雪という恋人が京にいたらしい。
それにしても、交際の描写がなく、終盤にいきなり名前が出てくるのはどういうことか、不可解に感じた。

チビクロという黒猫が登場する。狂言回し的な役割。
入隊前の一がたまたま拾い、情が移り、新選組の荒くれ者たちの癒しになればと連れていった。
これが大当たりで、近藤も土方も目を細め、芹沢でさえ相好を崩して可愛がる。
斬り合いをして屯所に帰ってきた隊士たちも、チビクロを見て心を和らげた。
昨今の猫ブームにあやかったのか、なんとなくテレビドラマ「猫侍」を彷彿とさせる。
本作の中で、唯一心をなごませる要素と感じた。
このチビクロは、かなり人懐こく、誰にでも愛嬌を振りまく。
その上、リードをつけなくてもちゃんと散歩についてきて、知らない土地へ連れていっても決して迷子にならず、初対面の猫と仲良く遊ぶなど、あまり猫らしくないというか、むしろ犬っぽい感じがする。
それなりに可愛いものの、猫らしい魅力を描かないなら、いっそ犬でもかまわないような気がした。

最後のエピローグは、何やら唐突に感じられた。
どのような政治的思想や信念やメッセージを作品に込めようと、作者の自由であろう。
ただ、ここまでストレートだと、時代小説と思って読み進めてきた立場としては興醒めしてしまう。

技巧的にも、評価が難しい。
同じような表現が重複していたり、意味の通りにくい曖昧な表現があったり。
出来事の順番が前後して、流れが悪く、時系列を把握しづらいところもある。
初出の雑誌連載に加筆・訂正してあるそうなので、それが上手くいっていないのだろうか?と感じた。
それにしても、作者ほどのベテラン作家には不似合いな仕上がり、と言わざるをえない。

辛口な感想になってしまったが、幕末明治に仮託した現代青春小説と考えれば、それほど悪くない気もする。
「作者の描く新選組ものが好き」という向き、あるいは「時代小説らしいかどうかなんて気にしない、むしろ現代小説っぽいほうがわかりやすくていい」「とにかく斎藤一が活躍する話を読みたい」という向きには、それなりに楽しめるかもしれない。
分量も中編に近いので、あまり時間を要さずに読了できる。

本作は、月刊『ランティエ』2015年12月号から2016年3月号に連載された小説に、加筆・訂正したもの。
2016年、角川春樹事務所より時代小説文庫(ハルキ文庫)として出版された。

新選組剣客伝
(ハルキ文庫)




※同じ『新選組剣客伝』という書名で、研究家・山村竜也の著作が発表されている。
1998年に単行本が、また2002年に加筆・修正された文庫本が、PHP研究所より刊行された。
内容は小説ではなくてノンフィクション。近藤勇、土方歳三、沖田総司、山南敬助、永倉新八、原田左之助、藤堂平助、斎藤一の生涯を列伝形式でまとめたもの。
混同する向きはそれほどいないと思うが、念のため注意されたい。

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