新選組の本を読む ~誠の栞~

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 司馬遼太郎『燃えよ剣』 

長編小説。新選組副長・土方歳三の生涯を描く。

武州多摩郡石田村に生まれ育ち、「バラガキのトシ」と異名をとった歳三。
喧嘩好きな性分と組織作りの才能を活かし、浪人や百姓の寄せ集めだった新選組を最強の剣客集団に作り上げ、幕末動乱の世に大きく関わっていく。

今更あれこれ評するのも野暮なほど、よく知られた名作である。
司馬遼太郎の代表作のひとつであり、なおかつ新選組小説の金字塔ともいうべき一作。

まず、従前の小説では陰険な策士、近藤勇を引き立てる脇役して描かれてきた土方歳三を、クールな主人公として描いたところが画期的な作品。
剣客、オルガナイザー、戦略家としての活躍が見事に活写されている。
作者が書きたかったという「男の典型」そのもの。

また、歳三が組織作りにかけた才能と情熱を、故郷多摩の風土と結びつけた着眼点がユニーク。
恋人お雪との交流も、しみじみとした情感に満ちており、なるほど女の目から見た歳三とはこういう男かもしれない、と感じさせる。
時には失敗したり弱みを見せたりと、立体的な人物造形がなされているところも、リアリティがあり好感が持てる。

司馬遼太郎が創出した魅力的な人物像、中でも土方歳三と沖田総司は、後の多くの新選組ものに少なからぬ影響を与えた。
土方や沖田を主人公とする小説が多数発表されるようになったのも、本作という嚆矢に拠るところが大きい。

執筆当時には史料が未発見だったためだろう、現在判明している史実とは食い違っている記述もある。
たとえば、斎藤一と斎藤一諾斎を同一人物としているなど。(名前がよく似ているけれども別人であり、両者とも箱館戦争には参戦していない。)
しかしながら、小説としての面白さに変わりはない。
「新選組にハマったきっかけは本作」と語る人は多く、当方もまたその口なので、個人的にも忘れがたい1冊である。

初出は『週刊文春』昭和37年(1962)11月19日号~39年(1964)3月9日号の連載。
同39年(1964)のポケット文春(文藝春秋新社)をはじめ、単行本・新書・文庫本が何度も刊行されている。
昨今は、新潮文庫の上・下巻(初版1972/改版2007)、文藝春秋の新書(1964)が入手しやすい。
ほとんど毎年のように「新潮文庫の100冊」に選ばれている。

[追記 2012/01/16]
甲州勝沼戦争の場面を執筆した際の裏話が、作者のエッセイ集『歴史と視点』に収録されている。

燃えよ剣〈上〉
(新潮文庫)
>>詳細を見る



燃えよ剣〈下〉
(新潮文庫)
>>詳細を見る



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こんにちわ。
擦り切れるほど繰り返して読みました。
名作ですよね。「挽歌」という語感がぴったりする後半の流れ。鳥羽伏見の戦いの最中にお雪と暮らした数日の描写。そして、五稜郭での再開。お雪が「歳三」と呼び捨てるところが哀しかったのを思い出します。架空の人物 お雪を実に効果的に登場させ、土方の隠された人間性を浮かび上がらせた手腕は、素晴らしいですよね。
何度読んでも、読後感がよい小説のひとつです。

2011/11/24(Thu) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん
コメントありがとうございます。
本作を読んで新選組ファン、土方歳三ファンになった人は多いようです。

司馬遼太郎は「恋愛を描くのは苦手」と言っていたとか、以前聞きました。
土方歳三とお雪の交流ひとつとってもあれだけ感動的なのに、何を謙遜しているのだろうと思いましたが、端々に感じられる含羞は作者の照れだったのかもしれません。それがまた興趣を深めており、作者の才能とも言える気がします。

2011/11/25(Fri) |URL|東屋梢風 [edit]

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