新選組の本を読む ~誠の栞~

小説 史談 エッセイ マンガ 研究書など

 高橋由太『新選組ござる』 

長編小説。武士になりたい一心で新選組に入隊した少年、市村鉄之助。
奮闘のうちに不可解な事件に巻き込まれていく、オカルトファンタジー。

市村鉄之助は、言うまでもなく実在の新選組隊士である。諸研究家の報告によると↓

父親は美濃大垣藩士だったが、安政5年に追放処分となって近江国国友村に住まい、文久3年に他界した。
鉄之助は、慶応3年秋頃、兄の辰之助とともに入隊する。
14歳という若年のため両長召抱人(小姓のような役目)となり、辰之助は局長附人数(仮同志)となった。
戊辰戦争勃発後、辰之助は綾瀬付近で離隊するも、鉄之助は箱館まで従軍。
明治2年4月、土方歳三の命令により箱館を脱出し、日野の佐藤彦五郎家へ歳三の遺品を届ける。
しばらく佐藤家に留まり、明治4年3月に大垣の親戚宅へと帰っていった。


本作は、上記の事柄が多少反映されるものの、大半はオリジナル設定で、創作性の高いストーリーが展開する。
序盤のあらすじは、以下のとおり。

鉄之助は、武士になりたいと切望し、郷里の美濃を出て京に上り、新選組に入った。
勝手についてきた飼い犬のモモも、なりゆきで入隊(?)する。

噂に聞く新選組一の天才剣士・沖田総司は、とても人斬りとは思えない、優しげな外見の持ち主。
人柄も穏やかで、冗談好きだった。
ところが秋の頃、その総司が隊を離れて、姿を見せなくなる。
「労咳のため」と言われたが、直前まで元気な姿を見ていた鉄之助には、とても信じられない。

やがて戊辰戦争が始まり、新選組は多くの同志を失いながら転戦、ついに箱館で終焉を迎える。
味方を救援すべく五稜郭を出撃する土方歳三に、鉄之助は強引に付き従う。
彼らの前に出現したのは、正体不明の不気味な敵だった――
そして、負傷した鉄之助が新政府軍に囲まれ、死を覚悟した時、思わぬ味方が出現する。


この後、ストーリーは明治の東京に舞台を移し、展開していく。
主な登場人物は、以下のとおり。

市村鉄之助
本作の主人公。直情径行型の熱血少年。
生家は美濃の山奥にあり、家業はインチキくさい拝み屋(祈祷師・霊媒師)だった。
しかも、「先祖は妖怪ぬらりひょん」という、由来不明の怪しい看板を掲げていた。
10歳の時、両親が病没し、隣家の老婆に引き取られる。
村人たちに愚弄された悔しさから、武士となり堂々と生きたいと望み、14歳にして新選組に入った。
奇しくも箱館戦争から生還し、明治の東京で新選組を再興しようと決意する。

モモ
大きな白い犬。鉄之助が美濃にいた時、どこからともなくやってきて鉄之助の家に居着いた。
京へ上る時にもついてきてしまい、以来どこへ行くのも一緒。
性格は温順だが、頼りない。あまり賢くもなく、鉄之助に「アホ犬」呼ばわりされる。
しかし人の言葉を理解しており、幽霊や妖怪とも意思を通じるなど、侮れない面もある。

九郎
700年前の鎌倉時代に死んだ、九郎判官こと源義経の幽霊。
名刀「薄緑」に宿っており、鉄之助に解放されて以来、ずっとついてくる。
烏帽子に狩衣姿の美男子だが、一般人には感知されない存在。
鉄之助やモモとは会話できて、なぜか語尾に必ず「ござる」を付ける。(本作タイトルは、この口癖が由来と思われる。)のんびりマイペース、いざとなると無敵の剣士に変貌するところも含めて、『るろ剣』の緋村剣心を連想させるキャラ。
モモとは良いコンビ。両者であれこれ余計なことまで喋り、鉄之助をイラつかせる場面が多い。

沖田総司
天然理心流・試衛館の門弟時代から名を馳せた、新選組随一の遣い手。
女と見間違うほどの優男だが、長大な振棒を軽々と降ってみせるなど、剣の実力は本物。
鉄之助をからかっては面白がり、モモをなぜか「辰之助」と呼ぶ。
「労咳のため死んだ」というのは意図的な情報操作で、維新後も生きのび東京に潜伏していた。
新政府の追及をかわすためだけでなく、何やら複雑な事情がある様子。
鉄之助が新選組の再結成を訴えても、「もう終わったこと」とまったく乗り気でない。
その重大な秘密は、本書の終盤近くで明かされる。

土方歳三
新選組の鬼副長。目つきの鋭い悪人顔の二枚目。
感情をあまり出さず、威圧感を漂わす。鉄之助も初めは怖れていたが、次第に慕うようになった。
佩刀は和泉守兼定、通称「ノサダ」。(※「之定」こと二代関兼定の作、ということらしい)
箱館戦争で命を落とす。敵の正体を鉄之助は知らなかったが、歳三にはわかっていた。

相馬主計
新選組の最後の隊長。
箱館で歳三が亡くなった後、隊長として投降。すべての責任を一身に負い、新島に流罪となった。
その後、東京に現れ、鉄之助に郷里へ帰るよう諭す。
総司の秘密を知っている様子。

(ふき)
東京深川の牛鍋屋もず亭で働く少女。15歳。
母を早くに亡くす。父は彰義隊に加わり、上野で戦死した。
そうした境遇にも挫けず、健気に日々を生きている。思いやり深く、鉄之助やモモにも親切。
深川十万坪に密葬された彰義隊の墓に、朝な夕な参るのが習慣となっている。

お芳
牛鍋屋もず亭の女主人。煙管のよく似合う、色っぽい美女。
実は新門辰五郎の娘であり、親譲りの侠気の持ち主。
ただ、父親のことも自身のこともほとんど語りたがらず、過去は謎めいている。
行く当てのない鉄之助とモモを、もず亭に置いてやる。

ぬらりひょん
鉄之助が出会った妖怪。見た目は、頭がやけに大きい禿げた爺さん。
鷹揚で太っ腹な物腰のとおり、江戸妖怪の総大将であったが、一時期その地位を退いていた。
理由は人間の娘と恋仲になったためで、両者の間に生まれた子が鉄之助の祖先だという(マジか)。
やがて明治の東京に舞い戻り、妖怪たちを相手になぜか西洋料理屋を営む。
料理の腕は確かで、「らいすかれい」「アイスクリン」など最先端のメニューも出す。
つかみどころのない存在だが、さりげなく鉄之助の力になる。

お歯黒べったり
鉄之助が出会った妖怪。
見かけは役者のような二枚目の男だが、派手な女の着物を着て、お歯黒を塗ったオカマ。
オネエ言葉を話し、何かにつけ鉄之助に迫り、邪険にされ罵られてもまったく堪えない。
ぬらりひょんとは長いつきあいらしい。

近藤勇
天然理心流・試衛館の道場主。文久元年、先代の周助から道場を引き継いだ。のち新選組局長。
剣は強いが不器用。若い頃は力加減ができず、稽古で道場をぶち壊すのでは、と懸念された。
ウソかまことか、三刀流が使えるという(『るろ剣』のみならず『ONE PEICE』もネタにされたか)。

近藤周助周斎
試衛館の先代道場主。道場経営に何かと苦労してきた。
総司の剣才に目をつけ、内弟子として入門させる。これが、思わぬ運命を呼び寄せることに。

勝麟太郎海舟
言わずと知れた、その才覚で幕府を支える旗本。
文久元年11月のある日、試衛館を訪ねてきて頼み事をする。その内容は驚くべきものだった。

山田吉亮(よしふさ)
山田流居合術の遣い手。
年齢は鉄之助と同じだが、外見は子供。12歳の時から身体が成長しなくなったという。

以上紹介のとおり、本作は奇想天外な時代ファンタジーである。
史実との違いを云々してもあまり意味がないので、やめておく。
ただ、それを抜きにしても、合理性を欠いたところがあって気になった。例えば――

◆鉄之助が箱館の戦場で気を失い、目覚めた時にはすべてが終わっていた、とある。
 その間どこに寝かされていたのか、降伏人として扱われたのか、だとすればいつ釈放され日野へ行かれたのか。
 具体的な状況がまったく示されない。

◆新選組結成の目的が設定のとおりだとすると、京都に上り留まる必然性がない。
 新徴組(しんちょうぐみ)と同様、江戸に本拠を置いたほうがずっと目的にかなうと思われる。

とは言え、勢いで読ませる作品なので、そこまで深く考えずに楽しむべきなのだろう。

この話をもしもシリアスに書いたら、不気味で残酷な怪奇譚になりそう。
コミカルな要素を多くして、あまり深刻にならず読める娯楽作に仕上げたのは良かったと思う。

本作のストーリーは、本書だけでは完結していない。
ひとまず危機が去ったものの解決には至らず、末尾は「事件は、まだ始まったばかりだった」と結ばれている。
この後に回収されるべき伏線と思われるものも、多く残る。
続きが気になるなら、続編『新選組はやる』『新選組おじゃる』の2作も読む必要があろう。

本作は、書き下ろし作品。
2015年、新潮文庫『新選組ござる』が出版された。
同年中に続編『新選組はやる』『新選組おじゃる』も刊行されている。

本作に関する余談を「深川十万坪/新門辰五郎と彰義隊/山田吉亮」にまとめた。
併せてご一読いただきたい。

作者の新選組関連著作には『斬られて、ちょんまげ 新選組!!!幕末ぞんび』(双葉文庫/2014)もある。
2015年公開の映画「新選組オブ・ザ・デッド」の原作かと思ったら、特に関係なかった(笑)

新選組ござる
(新潮文庫)
>>詳細を見る



新選組はやる
(新潮文庫)
>>詳細を見る



新選組おじゃる
(新潮文庫)
>>詳細を見る



にほんブログ村 歴史ブログ 新選組へ
にほんブログ村 ←クリック応援ありがとうございます

長編小説の関連記事

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

いつもながら面白い本のご紹介ありがとうございます!
本当にこちらでは新たな発見があって、楽しみにしています

これまた、異質(良い意味で)な作品のようですね
どちらかといえばコミカルな感じとのこと
かなり読みたいです!
そして、相変わらずこちらの興味を惹くご紹介文に頭が下がります!
年末年始、何も予定がないので、是非手にしてみようと決めましたw

ちなみに最近、「戦国新撰組」というコミックを購入したのですが
なかなか面白かったです
まだ1巻しか出てないので、先は長そうですけどw

またお邪魔させていただきます!


2016/12/24(Sat) |URL|うさぎ [edit]

うさぎさんへ

コメントありがとうございます。
拙いブログに過分なお褒めをいただき、恐れ入ります(汗)

この『新選組ござる』は、テンポ良く読ませる冒険譚です。
雰囲気がマンガふうで、記事中『るろ剣』『ONE PIECE』に触れましたが、『ぬらりひょんの孫』の影響もおそらくあるんでしょうね。
また、正編も続編も1冊あたりのページ数は多くないので、読了に時間もさほどかかりません。
心の中のツッコミ小人をいちいち発動させず、あっさり楽しむ作品と思います。

余談ですが、この記事を上げる数日前、朝日新聞の文化面に「1968年 アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』放送開始 妖怪の新しいイメージ定着」という記事が載り、ぬらりひょんの新旧画像もありました。
何かこの世ならぬものの力が作用していたのかもしれません(笑)

『戦国新撰組』第1~5話が電子版で公開されていたので、読んでみました。
幕末から戦国へのタイムスリップものは、ちょっと目新しいかも。
土方歳三が織田信長に代わって戦国の覇者になりそうな感じですね。

2016/12/25(Sun) |URL|東屋梢風 [edit]

Trackback

トラックバックURL:https://bookrest.blog.fc2.com/tb.php/208-a5884748


back to TOP