新選組の本を読む ~誠の栞~

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 沖田総司の写真…ではなかった 

沖田総司の肖像写真というものは、周知のとおり、未だ発見されていない。
テレビ番組などで見かけるふっくら顔の画像は、子孫(総司の姉ミツの孫)をモデルとした絵画である。
また近年、剣を八相にかまえたポーズの画像(とそのバリエーション)を歴史雑誌で見かけるが、これも本物ではなく、どこぞのイケメン青年の古写真を加工して作ったものという。

ところで、『激録 新撰組』(原康史、東京スポーツ新聞社出版部)なる書籍がある。
新聞の連載をまとめたもので、1977年に上・中・下の3巻が、1978年に別巻が刊行された。
新選組の興亡を描いた大衆的な読物、「実録ふうの小説」といった感じである。

出版当時、新選組ファンの間で物議を醸したという。
それを知ったのはすでにかなり後年のことだったが、古本屋で実物を見かけ、手に入れた。

激録新撰組 全4巻

特に注目されたのは、この本のカバー表紙(全4巻が同じデザイン)だった。
中央に若い侍の画像が配置され、周囲を細かい活字の文章が取り巻く。
文意を手短にまとめると、こんな感じだ。
  • この写真の主は誰だかわからないが、もしかすると沖田総司かもしれない
  • 箱館戦争の後、土方歳三の遺品の中から発見されたと伝わる
  • 大鳥圭介という説もあるが、既存の写真と比べると顔立ちが違う
  • この写真が仮に沖田でなかったとしても、沖田はこういう顔だったような気がする

要するに「明確な根拠はないが沖田の写真っぽい」と言いたいのだろう。
この思わせぶりな書き方に、「ホンモノかも?」と期待を抱いた向きは少なくなかったようだ。
当方も、この説を肯定も否定もできなくて、もどかしい思いをした。

その後しばらくして、『幕末の素顔 日本異外史』(毎日新聞社編・発行)なる写真集を古本屋で見つけた。

幕末の素顔 表紙

1970年発行。
幕末~明治に撮影されたらしい風景や人物の写真が、多数載っている。
扉に「アメリカ・ワシントン「米国国会図書館」に秘蔵されていた幕末日本の写真記録から」編集されたもの、と説明がある。

かつて来日外国人向けに販売された「お土産写真」の数々、と見受けられた。
大半は、被写体の具体情報が不明のようで、キャプションが付されていない。
その代わり、被写体には直接関係なく、永六輔による幕末史エッセイを併載している。

興味を感じてページをめくっていると、見覚えのある写真が目にとまった。

幕末の素顔 若侍の写真

これは、あの『激録 新撰組』の若侍ではないか!
思わず財布を握りしめてレジへ走り、購入してしまった。

どこの何者、という説明は一切されていない。
脇の文章は「五稜郭の戦い始末」と題するエッセイで、土方歳三に言及した部分はあっても、沖田総司に関しては一言も触れていない。
けれども、出版年次といい画像のトリミング状態といい、『激録 新撰組』の元ネタと考えて間違いなさそうだ。
どうやら「土方の遺品」説は事実でなく、「アメリカ議会図書館の所蔵品」というのが真相らしい。

後から思えば、「土方の遺品」説は合理性に乏しい。
もし事実なら、その来歴を関係者が多少なりと語り伝えていそうなものだ。しかし、それらしい話はいっこうに聞こえてこなかった。
素人はともかく、研究家諸氏がまともに取り上げてこなかったのも、つまりはそういうことだろう。

ちなみに、写真の真偽について「小袖の紋所が沖田の家紋ではない」という意見も聞く。
確かにそのとおりで、写真の紋が何か識別しにくいものの、楓や羽団扇に似た感じであり、「丸に糸輪木瓜」「子持ち輪に木瓜」などといわれる沖田家の木瓜紋と異なることは見て取れる。
着物は他人から借りるケースも考えられるが、当人がわざわざ安くもない費用を出して写真を撮るなら、借り着で写ろうとはしないだろう。

被写体の人物が本当は何者か、それはわからない。
ただ「お土産写真」を撮る写真師にモデルとして雇われた青年、と想像されるのみである。

それはそうと、いつの日か沖田総司の本物の写真が発見される可能性も、否定はできまい。
この世のどこかに存在するとしたら、ぜひ見てみたいものだ。

幕末の素顔
日本異外史
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激録新撰組〈下〉
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写真

今回の記事は、東屋さんの熱い思いが洒落た文体でつづられてて、楽しませていただきました。

「この写真が仮に沖田でなかったとしても、沖田はこういう顔だったような気がする」とはまさに言い得て妙。
なんだか妙に納得してしまう絶妙なチョイスの写真です。

たしかに近藤さんや土方さんの写真もあるくらいだから、一枚くらい沖田さんのがあってもおかしくないですよね。可能性はかなり少ないだろうけど…ゼロではないという点が、また興味をかきたてます。

2017/04/15(Sat) |URL|甚左衛門 [edit]

甚左衛門さんへ

ご感想ありがとうございます。

『激録 新撰組』のこと、「組歴」の長い先輩諸氏は概ねご存じのようです。
大幅に遅れて知った当方などが、いまさら訳知り顔で語るのもおこがましいかもしれません。
ただ、近頃では「一周回って知らない話」と化しつつある様子なので、取り上げてみました。

この若侍の写真、そこはかとなく「沖田っぽさ」を感じさせる画像ではありますね。
あるいは、複数のプリントが存在し、土方歳三の遺品に入っていた1枚があると、考えられなくもありません。いつ誰がどういう経過で伝えたのか明確ならば、真偽を検討する余地もあるでしょうが……
まあ十中八九、本人ではないだろうと思います(笑)

最近、斎藤一(藤田五郎)の写真が、秘蔵されていたご子孫により公開され話題になりました。
沖田総司の場合も、いつかどこかで発見されたら、一大センセーションになること必至でしょうね。

2017/04/16(Sun) |URL|東屋梢風 [edit]

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