新選組の本を読む ~誠の栞~

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 ご当地グルメ 誠メシ! 

前回「しんせんぐルメ 誠メシ!」に続き、新選組と食の話。
今回は、特定の地域や老舗の名産品にかかわる説を挙げてみる。

たまごふわふわ
近頃「近藤勇はたまごふわふわが好物だった」という説を、よく見かけるようになった。

たまごふわふわとは、泡立てた玉子と出汁をまぜ蒸した料理で、江戸時代から存在した。
2004年のNHK大河ドラマに「食べたいものはありますか」「たまごふわふわ」というツネと勇の会話があった。これがきっかけで広まった気がするが、その少し前から流布するようになっていたと思う。

このたまごふわふわ、東海道・袋井宿(静岡県袋井市)の名物料理であった。
袋井観光協会の説明によると、文化10年、大阪の豪商・升屋平右衛門が記した「仙台下向日記」に、袋井宿の大田脇本陣で朝食の膳に載った、とあるそうだ。
現在、袋井市観光の目玉のひとつとなっており、市内の複数の飲食店で提供される。

袋井宿には、近藤勇も宿泊している。
江戸出張から京都へ戻る途中、元治元年10月26日のことであったと、東海道石部宿歴史民俗資料館(滋賀県湖南市)が所蔵する旧本陣小島家の宿帳に記載されているとか。
袋井宿に泊まったのなら、当地の名物料理を供された可能性も考えられよう。

ただし、実際に食べたという記録は発見されていない様子。
その可能性を否定するつもりはない。ただ、「好物」とするには根拠が弱いのではなかろうか。

ナマズ料理
近藤勇に関しては「ナマズが好物」という説もある。

2014年9月19日放送のNHK「キッチンが走る!」は、「発見!近藤勇も愛したユニーク食材 ~埼玉・江戸川中流域~」と題する内容だった。
番組中、吉川市内のナマズ養殖業者が「近藤勇も当地の料亭に来てナマズを食べた」と語った。

調べたところ、地元の老舗料亭が「近藤勇、勝海舟、板垣退助などの歴史的著名人も当店の料理を楽しんだと言われています」とPRしていることがわかった。

しかし残念なことに、いつどのような状況だったのか、具体情報が提示されていない。
事実とすれば、慶応4年、綾瀬の五兵衛新田から流山へ転陣する頃だろうか。
また、ナマズを食べたのが事実としても、「好物」「愛した」とまで言えるものだろうか。

上記以外にも、近藤勇が「おせきもち(京都市伏見区)」を訪れたとか、土方歳三が「お秀茶屋(会津若松市東山町)」を訪れた、とかいった伝承もある。

こうした話には、なかなか興趣を誘われる。
機会があればそれを食べてみよう、と思いたくもなる。
ただ、史実と断定できるかどうかは、また別の問題と捉えたい。

卵のふわふわ
(講談社文庫)




[追記 2021/03/19]

『考証要集 2』に、以下の記述を発見した。

ふわふわ卵【ふわふわたまご】
「卵ふわふわ」とも言う。(中略)大河『新選組!』の設定で、「いかつい近藤勇の意外な好物」として提案し採用され、放送でも好評だった。しかるに、番組終了後に出た江戸料理本やネット上に「一説には近藤勇の好物だったとも言われている」なんて、まことしやかに紹介されているのを見てびっくり仰天した。これは創作です!大河ドラマを鵜呑みにしてはいけません。

(引用元:考証要集 2 蔵出し NHK時代考証資料/大森洋平/文春文庫)

「近藤勇の好物=たまごふわふわ」説は創作であり、史実ではないときっぱり否定されている。
(『新選組!』以前にもどこかで見かけたような気がするが、記憶違いだったかも。)
というわけで、史実とする明確な根拠が出てこない限り、創作と思っておいたほうが妥当であろう。

考証要集 2
蔵出し NHK時代考証資料
(文春文庫)




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