新選組の本を読む ~誠の栞~

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 永倉新八『新撰組顛末記』 

実歴談。元新選組隊士・永倉新八の回顧談を、新聞記者が筆記・連載した内容の集成。

(※永倉新八の関連書全般については、「永倉新八の本」へどうぞ。)

大正2年(1913)、75歳の杉村義衛こと永倉新八は、小樽に居住し、地元紙『小樽新聞』記者の取材を受けて半生を語った。
自身の生い立ちに始まり、近藤勇らとの出会い、新選組での活躍、戊辰戦争を経て松前藩に帰参し、杉村家の跡継ぎとなるまでの経緯が、70編にわたり詳述される。
新聞連載の約2年後、永倉は病没した。
その十三回忌に際し、子息・杉村義太郎が『新撰組永倉新八』と題して、私家本を編集・発行した。
これが本書の底本となっている。

体験者の談話だけあって、臨場感がある。
本人の記憶違い、記者の聞き間違いや憶測などもいくらか混じっているようだが、草創以来の幹部隊士の証言は貴重であり、他に代えがたい。
宮地正人『歴史のなかの新選組』では「後日の創作との混同や記憶の摩滅、誇張やホラ話をさし引いても、十分に利用できる好史料」と評価されている。

文体はクラシカルな表現が多用されているものの、現代とほぼ同じ普通文であり、読みやすい。
歴史的な文語体で書かれた史料とは異なり、今日の私達が読むのに現代語訳を必要としないので助かる。

作家・池波正太郎は、本書を読んで永倉を主人公とする長編小説『幕末新選組』を書いたという。
永倉の人柄や生き方に惹かれた池波の気持ちが、わかる気がする。

本編のほか、「新撰組資料」と題して下記8編が収録されている。
  • 同志連名記 ――杉村義衛遺稿――
  • 近藤勇と杉村翁 ――近藤勇の墓と永倉新八――
  • 記念の石碑と新撰組
  • 殉節両雄之碑
  • 夢のあと  杉村義太郎
  • 坂本竜馬を殺害した下手人の事  山川健次郎
  • 「両雄殉難の碑」を探して  倉田清
  • 永倉翁の俤を偲びて  佐々木鉄之助

1971年、単行本(初版)が刊行された。
1998年、単行本〈新装版〉が刊行。巻末に解説「“新撰組顛末記”の現在」が新規追加され、カバーや扉のデザインも一新された。
2009年、文庫本が刊行。単行本との違いは下記のとおり。
 ◯巻頭、杉村義太郎による「自序」が載っていない。
 ◯本文の全70編が、全8章に区切られている。(※単行本は区切りなし)
 ◯「新撰組資料」が、上記8編のうち「同志連名記」のみ収録され、他7編は省かれた。
 ◯巻末の解説が、杉村悦郎(永倉新八曾孫)執筆のものに差し替えられた。
以上、単行本も文庫本もすべて新人物往来社から出ている。

なお、本書の底本となった『新撰組永倉新八』は、新聞連載そのままではなく、改変された箇所がかなりある。
改変なしの原文を掲載した『新選組奮戦記』も刊行されており、注記方式の解説が載っていて興味深い。
詳細はリンク先の記事を参照されたい。

よりいっそう実像に迫りたい向きには、平成9年(1997)に発見された永倉の手記「浪士文久報国記事」との併読がオススメ。
双方の共通点・相違点を比較してみると、面白いだろう。
こちらも、詳細はリンク先の記事を参照されたい。

[追記 2012/02/13]
永倉新八の関連書籍全般について、「永倉新八の本」にまとめた。

[追記 2017/11/19]
角川新書『新撰組顛末記』が、2017年11月に発売された。
2009年の新人物文庫版に、解説(by木村幸比古)を付け足したもの。
単行本収録の「新撰組資料」7編(上述)は、これに収録されていない。
また、もともと現代人にも理解できる内容であるから、解説は必須と思えない。
もし解説を必要とするなら、いっそ新聞連載当時のままの『新選組奮戦記』を読むほうが有意義かも。

新撰組顛末記



新撰組顛末記
(新人物文庫)




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COMMENT FORM

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随分昔の記事で恐縮なのですが、
この本、あるいはこれに類する新八の記事に
野州佐野宿で新八を歓待した「猿屋の親分」というのがいるそうなのですが、何かご存知でしょうか。
また、このことに関して手に詳しい書籍はありますか。
あったら是非とも教えてください。

2020/03/16(Mon) |URL|甚左衛門 [edit]

甚左衛門さんへ

「猿屋の親分」については、むしろ甚左衛門さんが何かご存じなのでは?と思っていました。
関連記述を見かけたのは、記憶するかぎり本書『新撰組顛末記』と底本『新撰組永倉新八』のみで、両書ともほぼ同じです。
また、『新選組興亡史』も、同じ逸話を取り上げています。おそらく上記2冊からの転載でしょうが、著者・栗賀大介は以下のとおり付記しています。

後年これが永倉遺談の一つになっているが、講釈師の張扇から語呂合わせよく叩き出した類のようで、少々面白おかしく粉飾されているむきもある。
猿屋の親分も定かでないが、ときには立ち廻り先の土地の顔役衆から、こんな程度の依頼ごとや饗応の一つや二つはあったことであろう。


あるいは、子母澤寛あたりが調査していても良さそうな気はしますね。
以上、お役に立てず申し訳ありません。
もし何か情報を得られたら、ご教示いただけますと幸いです。

2020/03/17(Tue) |URL|東屋梢風 [edit]

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