新選組の本を読む ~誠の栞~

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 司馬遼太郎『新選組血風録』 

短編小説集。新選組隊士達の多彩な人間像を描く連作、15編を収録。

「油小路の決闘」 
篠原泰之進は、諍いの現場で鈴木三樹三郎を庇ったために、後ろ傷を負う。
隊規違反を問われる前に切腹しようとするが、内妻おけいに止められて思い留まり、傷を隠すことにした。
伊東甲子太郎から脱盟を持ちかけられ同意したのも、この出来事が最大の動機と言えた。

「芹沢鴨の暗殺」 
芹沢鴨の乱行は、本庄宿の大篝火、角屋破壊、大和屋焼き討ち、お梅略奪と留まるところを知らない。
土方歳三は、努めて冷静に状況を観察しつつ、粛清の機会を窺う。
そして、ついに目的を達した時、人間というものの「えたいの知れなさ」を思うのだった。

「長州の間者」 
浪人・深町新作は、小間物屋の娘おそのと夫婦約束をする。
しかし、かつて長州藩士であった父の遺言に反し、両刀を捨てて町人となることはためらわれた。
そんな時、吉田稔麿から、新選組へ間者として潜入するよう依頼される。
手柄を立て藩士として迎えられることを期待して、首尾よく入隊を果たすが……

「池田屋異聞」 
山崎烝は、大坂の鍼医・林屋五郎左衛門の次子として生まれたが、先祖は名門の武士だったと聞かされる。
やがて、具足師・大高忠兵衛と出会い、その挙動に反感を覚えた。
その後、忠兵衛の先祖が赤穂四十七士・大高源五であり、自身の先祖は義挙に加わらなかった重臣・奥野将監であったことも知った。この因縁に導かれるように、烝は忠兵衛と対決することになる。

「鴨川銭取橋」 
平隊士・狛野千蔵が斬殺され、土方歳三の密命を受けた山崎烝は調査にあたる。
調べるうち、武田観柳斎が薩摩藩に通じたあげく狛野を斬らせたと思われたが、決め手を欠いたまま日々が過ぎた。そこで、土方は山崎に策を授ける。

「虎徹」 
近藤勇は、京へ上る直前、刀剣商に依頼して名刀・虎徹を手に入れる。無銘で、対価はたった20両だった。
その刀を、斎藤一は虎徹ではなく源清麿と見抜くが、そうと聞いても近藤はさほど気にしない。
やがて、豪商鴻池に押し入った強盗を退け、その礼として本物の虎徹を贈られる。
ところが、使い比べてみると、なぜか最初の「虎徹」のほうがよく斬れるのだった。

「前髪の惣三郎」 
新入隊士の加納惣三郎は、剣技ばかりでなく容貌も優れた美少年だった。
惣三郎はやがて田代彪蔵の念弟となる。湯浅藤次郎も惣三郎に言い寄るが、ある日何者かに斬殺された。
一方、山崎烝は、近藤・土方の意を受け惣三郎を遊所に連れていこうとするが、うまくいかずに悩む。

「胡沙笛を吹く武士」 
南部出身の隊士・鹿内薫は、故郷を偲び胡沙笛を吹いていた時、その音色に惹かれた小つると知りあう。
原田左之助は、組下の鹿内に相愛の相手ができて励みになっていることを喜んだ。
ところが、池田屋への斬り込みに出動する際、薩摩の過激分子に襲われた鹿内は、それまでの豪胆が嘘のように命が惜しくなる。

「三条磧乱刃」 
新入隊士・国枝大二郎は、初対面の井上源三郎を「百姓の隠居」のようだと感じる。
そして、幹部らしからぬ不器用な剣技の持ち主とも知るが、その人柄を慕い信頼を寄せるのだった。
ある日、ふたりが道場で稽古をしていると、それを覗き見た浪人ふうの二人組が嘲笑って立ち去る。
この二人組を討って面目を回復することが、井上と国枝の使命となった。

「海仙寺党異聞」 
甲州出身の隊士・中倉主膳は、情婦の家で間男に斬られ、負傷して帰営したために処断される。
同郷の長坂小十郎は、実戦を嫌い会計方を務めていたが、なりゆきから中倉の仇を討つことになってしまう。
しかも、この仇討ちの計画は、思わぬところから敵方へ漏れていた。

「沖田総司の恋」 
池田屋の激闘で喀血した沖田総司は、医師・半井玄節に通ううち、娘お悠と顔見知りになる。
彼女が音羽の滝へ行く日には、総司もそこへ出かけ、遠くから眺めるのが密かな喜びだった。
ところが、その行動を不可解に思った土方歳三が強引に同行し、総司のほのかな想いを知る。

「槍は宝蔵院流」 
槍術の名手・谷三十郎が、養子の喬太郎を伴って入隊する。
近藤勇に重用され、喬太郎を近藤の養子にした谷は、いよいよ倨傲を強める。
そういう谷と関わるまいとする斎藤一も、彼の槍術の腕前だけは認めざるをえなかった。
やがて池田屋事件、次いで田内知の切腹をきっかけとして、谷の威勢は凋落していく。

「弥兵衛奮迅」 
伊東甲子太郎は、富山弥兵衛を薩摩の間者と知りつつ、新選組に入隊させる。
富山は素朴な人柄を愛されたが、土方歳三はやがてその正体に気づき、討手を差し向けた。
示現流の剛剣で討手を退け、薩摩藩に帰参した富山は、戊辰戦争に際しまたも間者として越後へ赴く。

「四斤山砲」 
かつての師範の弟と名乗る大林兵庫に、永倉新八は覚えがなかったものの、深く考えず入隊を仲介した。
この兵庫が砲術師範に抜擢されて以来、同役にもかかわらず不当な扱いを受けた阿部十郎は、伊東派に進んで加わり、新選組を脱盟する。この事態の深刻さに気づく者は、誰ひとりいなかった。
やがて、すべては鳥羽・伏見戦争における新選組の敗退につながっていく。

「菊一文字」 
馴染みの刀屋から名刀・菊一文字則宗を借り受けた沖田総司は、帰途に不逞浪士の襲撃を受けるが、対決を避け逃走する。この刀の美と品格を見て、人の血を吸わせたくないと感じたのだった。
一方、襲撃犯の戸沢鷲郎は、沖田の実力など噂ほどにもないと嘲り、沖田の組下・日野助次郎を斬殺した。
沖田は、日野のために菊一文字を以て報いようと決意する。

『燃えよ剣』と同時期に執筆された、司馬新選組の双璧をなす不朽の名作。ぜひ併せて読みたい。
架空の人物や虚構の設定を交えて展開する、人間模様の数々が秀逸。

実際には、山崎烝が奥野将監の子孫という事実はない。
池田屋事件で、討たれたのは大高又次郎であり、大高忠兵衛は捕縛され獄死した。
加納惣三郎は、女遊びの金欲しさに辻斬りを働き粛清されたと伝わる隊士で、ゲイという根拠はない。
井上源三郎は、近藤勇より5才年長なだけで、隠居じみた老人などではない。
しかし、史実と異なるとわかっていても、面白いものは面白いのだ。
人間の描かれ方に、時代小説の枠を超えた、高い普遍性を感じる。

初出は『小説中央公論』1962年5月号から1964年4月号にかけての連載。
中央公論新社をはじめ、複数の出版社が何度も書籍化している。
昨今は、中央公論新社の単行本(初版1964/新装改版1999)と文庫本(初版1975/改版1996)、角川文庫(初版1969/新装版2003)が入手しやすいと思われる。

新選組血風録
(角川文庫)
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新選組血風録
(中公文庫)
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