新選組の本を読む ~誠の栞~

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 吉村昭『幕府軍艦「回天」始末』 

中編小説と短編小説、各1編を収録。双方とも、幕末の実在事件を題材とする。
表題作「幕府軍艦「回天」始末」は、奥羽越戦役から箱館戦争終結までを背景に、旧幕海軍艦隊の奮戦をドキュメンタリータッチで描く叙事もの。

最新鋭軍艦「開陽」を失った後、「回天」を旗艦とした旧幕軍は、不利な状況を打開すべく、大胆な奇襲作戦を案出。全軍の命運を賭して、宮古湾海戦を戦う。

旧幕軍の戦いぶりを、数々の史料をもとに綿密な筆致で書き綴っている。
宮古湾奇襲作戦の準備を周到に積み重ねていく様子、出撃から戦闘の経緯、箱館の総力戦など、手に汗握る迫力で一気に読ませる。

新選組では、土方歳三がもちろん活躍する。
また、中島登を隊長とする密偵隊の存在も(おそらくは創作ながら)印象的である。

箱館戦争の場面は、陸上の戦闘も過不足なく描かれていると同時に、旧幕軍の命運を象徴する「回天」の動きを中心として、海上戦が活写されている。

外の吉村作品と同様、作者の主観は極力排され、史実が客観的に述べられているが、戦争の悲惨さや人々の辛苦はむしろリアルに伝わってくる。
同じ題材を扱った小説や史伝が世にいくつもある中で、本作はベストであろう。

本作の参考文献のひとつに、コラッシュの回想録「箱館戦争生き残りの記」も挙がっている。

本書収録の短編「牛」は、文政7年(1824)のトカラ列島・宝島におけるイギリス船侵入事件を題材とする。
新選組とは関連がない。

文藝春秋社から単行本(1990)、文庫本(1993)が出版された。
表題作は、『吉村昭歴史小説集成〈2〉天狗争乱・彰義隊・幕府軍艦「回天」始末』(岩波書店/2009)にも収録されている。

幕府軍艦「回天」始末
(文春文庫)




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