新選組の本を読む ~誠の栞~

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 早乙女貢『新選組銘々伝』 

短編小説集。新選組の面々を主人公とする連作10編を収録。
評伝ふうな記述もある一方、創作されたエピソードも多い。

それぞれ独立した短編であると同時に、全編を通して読むことによって、様々な視点から捉えた新選組が立体的に見えてくる構成となっている。

「鴨と葱」 芹沢鴨の生き様を、新見錦とお梅、それぞれの視点から描く。
江戸で剣術修業していた頃から、芹沢は花街の遊びが不得手で、深川芸者相手に詩吟を唸ったりした。
新選組局長となった後も、島原の女たちを貶し、強引に手に入れたお梅と過ごすひとときを好む。
他人の女を奪うなどできない新見は、金のかかる遊女に入れあげ、商家への押し借りを繰り返す。
ところが、それを近藤・土方に咎められ、切腹を迫られる。

「散りてあとなき」 山南敬助が、土方歳三との対立関係に疲れ、死に至る経緯。
人との協調を重んじる山南は、いちいち理非曲直を正さなければ気がすまない土方とは相容れない仲。
試衛館時代から何事につけて突っかかられ、見かねた沖田総司が取りなしても収まらない。
西本願寺への屯所移転問題によって対立は決定的なものとなる。
土方の陰険で執拗な追及によって追い詰められた山南は、ついに脱走する。

「槍の三十郎」 谷三十郎、万太郎と周平の三兄弟の人生を描く。
兄弟の出身地、岡山県高梁市を訪ね、松山の城下町や谷家の屋敷跡を見た作者の感慨から始まる。
ある日、万太郎は家老一族とトラブルを起こし、庇おうとした三十郎も巻き込まれ、永の暇を言い渡された。
三十郎は、後悔よりもむしろ解放感をおぼえ、万太郎と大坂へ出て道場を開く。
やがて、人材を求める新選組に加盟。
家柄や刀槍の腕に加え、池田屋事件や石蔵屋事件の活躍によって高く評価された。
国元から呼び寄せた末弟の周平は、近藤勇の養子となる。

「耆三郎斬首」 勘定方の河合耆三郎が、公金紛失の咎を負わされる顛末。
播州高砂の米問屋の倅・耆三郎は、大坂の小料理屋の仲居おれんと親しい仲になる。
ところがある日、彼女は姿を消す。彼女を連れ去った新選組隊士・岸島芳太郎は、かつておれんと恋仲だった。
岸島の話によると、おれんは岸島と再び別れ、独りで郷里へ帰ったという。
呆然とする耆三郎だが、経済の才幹を買われ新選組に入隊。
勘定方を務めるうち、おれんと岸島との間にトラブルがあったと知る。

「御落胤罷り通る」 藤堂平助の生涯を、生い立ちと伊東甲子太郎との出会いを主に描く。
貧しい座頭とその妻に育てられた平助は、自分が大名の御落胤と聞かされていた。
養い親と別れて他に身寄りもなく、千葉周作道場に内弟子として住み込むうち、同流の鈴木大蔵(後の伊東)とも知りあう。
やがて近藤勇道場に寄宿し、浪士組として上京、新選組隊士として活躍する。
池田屋事件の後、旧知の伊東を新選組に迎えたことが、平助自身の運命をも大きく変えることとなった。

「忍びの蒸」 山崎蒸が、鍼医から新選組隊士へ転身、探索方として活躍する。
鍼医の倅に生まれた蒸は、十代のうちから父の代診を務め、客あしらいも上手く、女にモテた。
しかし鍼医に飽き足らず、武術を学び、従兄弟・林信太郎に誘われて新選組に入隊。
大坂の事情に明るい蒸は、探索方に任命されて密偵となり、情報収集を行う。
そんなある時、同じ密偵の佐伯又三郎が、久坂玄瑞らに惨たらしく殺される。
蒸の中に、長州への憎悪が芽生えた。
まもなく新選組は池田屋事件で手柄を立てるが、それを支えたのは蒸の諜報活動だった。

「死に損ないの左之助」 原田左之助が国元を出奔し、新選組隊士となって活躍する経緯。
伊予松山藩の足軽の家に生まれた左之助は、女の関心を集める美男子ながら気性が激しい。
藩士らに絡まれて切腹未遂事件を起こし、先輩に口答えして制裁されるなど、揉め事が絶えない。
松山での生活に倦み、人妻に夫殺しを持ちかけられたのをきっかけに出奔。
大坂へ出て谷兄弟の道場に寄宿し、さらに江戸へ出て近藤道場の内弟子となる。
やがて新選組の幹部となり、もともと死に損ねだから二度とは死なないと笑いつつ、数々の死線をかいくぐり抜群の働きを見せる。

「血を吐く剣士」 病床の沖田総司が、新選組で過ごした日々を回想する。
新選組の東帰後、戦列を離れた総司は、千駄ヶ谷の植木屋兵五郎方で療養生活を送る。
姉お光が、献身的な看病にあたった。
池田屋事件の折に喀血したこと、山南敬助と明里との仲を羨ましく思ったこと、脱走した山南を連れ戻して介錯しなければならなかったことなどが、総司の胸に去来する。

「近藤勇斬首」 武士となる夢を叶えながらも、時勢に背かれた近藤勇の無念。
新選組を守るため、苦渋の決断によって芹沢派を排除し、唯一の局長となった近藤。
以来、京都の治安維持に力を尽くし、その功績を評価され、幕臣に取り立てられもする。
ところが、幕府の凋落とともに、彼の運命にも暗い影が射す。
鳥羽伏見戦争以来、新選組は連敗を喫し、長年の同志をも失っていく。
そして、ついに下総流山で投降するのだった。

「鬼の歳三」 武士に憧れた土方歳三が、真の武士にはなりきれないまま箱館戦争に散る。
少年期から侍になりたいと願い、商家への奉公を嫌って剣術修業に励んだ歳三。
近藤勇と出会い、彼を局長とする新選組を築き上げ、自らは副長として智勇を発揮する。
しかし、近藤を失った後の歳三は、抜け殻も同然だった。
会津の戦場では、誇り高い会津武士達が一片の疑問もなく散っていく。
それに倣うことが出来ない歳三は、蝦夷地へ渡り抵抗を続ける。
武士になれたと思ったものの、所詮は付け焼き刃に過ぎなかったと知るのだった。

会津藩士を先祖とする作者にとって、誇り高く潔く散ることが理想なのだろう。
「会津を見捨てて」抵抗を続けた歳三の生き方は、お気に召さなかったようである。

1985年、徳間書店から単行本が出版。
1987年、徳間文庫版が刊行された。
2003年、『新選組列伝』と改題の上、本文を加筆・推敲した単行本(四六判ハードカバー)が新人物往来社から出版された。徳間書店版との違いについては、このページの下のほうをご覧いただきたい。

新選組銘々伝
(徳間文庫)
>>詳細を見る



新選組列伝
>>詳細を見る



『新選組銘々伝』と『新選組列伝』との比較

『新選組列伝』の巻末に、下記の注記がある。
「この作品は、『新選組銘々伝』(1987年、徳間文庫)を改題のうえ加筆推敲したものです」
そこで、具体的にはどのような異同があるのか、両書を校合してみた。

◆誤字・脱字を修正
 例)死地なるれ→死地に入るなれ 五人に御座候→右、五人に御座候
◆漢字・仮名の使い方を変更
 例)いってもいい→行ってもいい にも関わらず→にも拘わらず
◆元号表記に西暦を補足 
 例)文久三年の正月→文久三年(一八六三)の正月
◆理解しやすく言葉を補足
 例)毛利からも→町奉行の毛利からも 与力の内山→与力の内山彦次郎
◆より正確を期すための修正
 例)理心流→天然理心流 勝手に→勝手ニ(局中法度書の条文)
◆出版年の違いによる修正
 例)二十年近く前→三十数年前(作者自身の体験談について)
◆そのほか言い換え
 例)高級坊主たち→位の高い坊主たち こちらさま→こちらはん

といった程度で、ストーリーや意味内容は改変されておらず、まったく同じ作品と考えて差し支えない。
また、『新選組銘々伝』は巻末に解説(by菊池仁)があるが、『新選組列伝』はあとがきや解説がない。

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