新選組の本を読む ~誠の栞~

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 笹沢左保『剣士燃え尽きて死す』 

長編小説。天才剣士・沖田総司の虚無感に満ちた孤独な一生を描く。

沖田総司は、江戸在住の頃、些細なことから長州藩士・宮川亀太郎と果たし合いを約す。
しかし、約束の刻限に宮川は現れず、宮川の伝言を持って来た許婚の千鶴を、過失から手にかけてしまう。
以来、人を斬ることに大きな心理的負担を感じるようになる。

それでも人前では明るくふるまおうと努め、近藤勇を信頼して浪士組に加盟した。
ところが、近藤からは人斬りの道具として扱われるばかり。
さらに、猜疑心の強い土方歳三は、新選組への忠誠心を試すかのように、宮川の斬殺を命じる。

宮川は、脱藩し京都にいた。そして、千鶴の死の真相を知らず、沖田を彼女の恩人と信じていたのだった。
それゆえ、儒学者の娘・麻衣の身柄を、沖田に託して死ぬ。
その遺志を尊重し、麻衣を江戸へ送り届けようとする沖田だったが、彼女もまた何者かに殺されてしまう。

隊内では粛清の嵐が吹き荒れ、親しかった山南敬助も、対立する土方の陰謀によって処断される。

身体を労咳に蝕まれ、心に深い苦悩を抱え、沖田はもはや傍観者のようにすべてをなりゆきに任せるだけだった


作者は、新選組に対して否定的である。
かつてNHK「歴史への招待」に出演した際は、思想など欠片も持たない食い詰め浪人の集団がたまたま京都守護職に拾われて「佐幕」「攘夷」を標榜した、などと語った。
この発言は、当時出版された番組ムックに掲載されている。

こうした見解が、本作にも反映されていると感じた。
登場人物は概ね批判的に扱われ、特に近藤・土方は徹底的に嫌な奴にされている。
沖田は好意的に描かれているものの、その投げやりな無気力さには苛立ちを禁じ得ない。
物語自体にも、まったく救いがない。

これほど暗く重苦しいと、よくぞここまで書けたと寧ろ感心したり、なんだか笑えてきたりもする。
気分が落ち込んだ時、敢えてこういう作品を読んでみたら逆療法になるかも知れない。

複数の出版社から、改題して繰り返し刊行されている。
『剣士燃え尽きて死す』 新潮社 1975
『沖田総司 剣士燃え尽きて死す』 廣済堂 1980
『剣士燃え尽きて死す 人間・沖田総司』 新潮文庫 1984
『剣士燃え尽きて死す』 徳間文庫 2003
『剣士燃え尽きて死す 人間・沖田総司』 小学館P+D BOOKS 2016

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おおっ!この本をお読みでしたか。
おはようございます。
読後感がざらざらした、砂を噛むような「厭な」印象でした。新撰組ファンの人は途中で読むのをやめたって言ってましたね。
でも、定説の新撰組イメージから逸脱した内容は新撰組の「ダークな部分」を表現して、私には楽しめる物でした。『沖田総司恋唄』の前に読んでおくと、気が楽な本ですね。

2011/11/12(Sat) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさん

なおまゆさん
新選組の小説がこの世に数ある中で、本作の暗さは屈指だと思います。
これほど虚しく絶望的な話を、途中で投げ出さず最後まで書き上げられるのも、
作家の才能といえるでしょう。
個人的に、人物造形や筋立ては好きになれませんが、情景描写などは巧いと感じます。

2011/11/12(Sat) |URL|東屋梢風 [edit]

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