新選組の本を読む ~誠の栞~

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 新宮正春『西郷暗殺行』 

中短編5編を収録した歴史小説集。
表題作「西郷暗殺行」は、西南戦争に警視隊として派遣された藤田五郎と、同僚の射撃手・吉良清之助が、西郷隆盛暗殺の密命を帯びて戦うさまを描く中編。

警視庁の電信掛・吉良清之助は、紀州藩出身のため、薩摩出身者が牛耳る庁内では肩身が狭い。
会津出身ながら上方訛りのある巡査・藤田五郎にだけは、気を許すことができた。

やがて、旧会津藩士を中心に編成された警視隊に、藤田と吉良も加えられ、出征する。
吉良は、旧藩時代に修得した射撃の腕を買われ、前線へ出ることになった。

そんな時、警視隊の別働隊を指揮する佐川官兵衛が、吉良を訪ねた。
かつて戊辰戦争で会津藩軍を率いて戦った佐川は、藤田五郎が元新選組の斎藤一であることを打ち明け、敵将・西郷隆盛を討ち取る手助けをしてやって欲しいと依頼。その後、戦死を遂げる。

戦場に西郷の姿を探し求める藤田と吉良。
三川内の戦いで、吉良の援護を受け、薩軍の砲台を単身制圧した藤田は、西郷の腹心・桐野利秋に肉迫し、立ち合いを挑む。


「鬼官兵衛」こと佐川官兵衛と藤田とは、平素は没交渉ながら、実は互いに深く思い遣っている。
昔の身分を決して知られてはならない藤田は、警視庁の剣道場でも目立たぬよう心がけているが、一転して戦場でふるう剣の冴えは凄まじい。

藤田自身は多くを語らず、その心中に去来する様々な思いは、主に吉良の主観によって示唆される。
ただ、吉良も単なる狂言回しではなく、最後の場面では負傷した藤田に代わって、最大の働きをする。
作者はできるだけ史実に沿った展開にしたかったようだが、斎藤一ファンには結末が少々物足りないかも知れない。

西南戦争勃発の原因や経過、政府内部の複雑な対立構造、旧藩時代から続く因縁など、背景となった事情が詳しく書かれている。おかげで、それぞれの登場人物の立場や心理を理解し、ストーリーを楽しむことができる。

このほかの収録作品「ひなげし外記」「霧ヶ城落つ」「高天神攻防」「今川義元の歯型」は、いずれも幕末維新期でなく戦国期を扱ったもの。

徳間書店から単行本(1991)として出版された時の書名は『戦乱軍記 頸を獲る』。
徳間文庫版(1995)で『西郷暗殺行』と改められた。

西郷暗殺行



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