里中満智子『浅葱色の風 沖田総司』
長編マンガ。夢の実現を願い真摯に生きた青年剣士・沖田総司の生涯を描く。
姉おみつ、兄とも慕う土方歳三、剣の師匠・近藤勇などの人々から愛され、自身もまた彼らを愛して育った沖田総司は、素直で明るい青年に成長する。
悲しい時も笑顔でふるまい、人を思いやる優しさを持っていた。
そして、自分の取り柄は剣だけであり、その剣で師匠の役に立てるならと考え、近藤らと共に浪士組に加盟し、新選組隊士となる。
島原の遊郭で、総司は娼妓・松葉と出会う。
彼女は、遠い昔に別れた幼なじみのおまつだった。
足繁く通う総司だが、その優しさをおまつは愛でなく同情と思い込み、身請けされることを拒んで姿を消す。
取り残された総司は、ただおまつの幸せを願った。
新選組は京都の治安を守るべく活躍し、総司も先頭に立って尊攘激派を斬った。
闘うことで住民を守り、組織を維持し、部下の負担を減らし、近藤・土方の役に立てると信じたのである。
労咳に蝕まれていると医師に宣告された時、多くの人命を断った自らが命を惜しむのは傲慢だろうかと、己の心に深く問う。
やがて、医師の家で出会ったおちずと惹かれあう。おちずは夫と別れ、幼い娘と胎内の子を抱えていた。
総司は彼女と子供達の力になりたいと申し出、おちずもそれを受け入れたが、病を得て世を去る。
新選組の闘いは苛烈を極め、江戸以来の同志だった山南敬助や藤堂平助も命を散らす。
刀の重さにも耐えかねた総司は、病床に伏す。
鳥羽伏見戦争の勝敗を銃砲の性能が決したと聞き、剣だけを拠り所としてきた自分はどうすればよいのか、わからなくなっていた。
江戸での療養の日々、ひとり孤独に過ごす総司のもとに、おまつが訪ねてくる。
まっすぐで健気な沖田総司像が、清々しい。
土方歳三や近藤勇、試衛館出身の同志らも、生き生きと描かれている。
芹沢鴨は、貪欲で酒色にだらしない面ばかり強調され、あっけなく暗殺されてしまう。
ページ数が限られ、多くを割けなかったのだろうが、少々惜しい。
ただ、総司に諫められた芹沢が、総司と近藤との信頼関係を心中羨む場面は印象的。
終盤、療養中の総司を土方が訪ねる場面で、土方は函館に独立政権を樹立する夢を語る。
実際には、土方が会津へ行った時期であり、蝦夷地渡航などは考えていなかったろう。
しかし作者はそれを知らなかったわけでなくて、土方が総司に新しい夢を語る場面を描きたかったのだと思う。
「あれもしたい、これもしたいと願いながら死んでいくのがいい。何もしたいことが無くなって死んでいくのは、寂しい」と土方が語り、総司も「そうですね」と答える。
この他にも、ふたりの会話には心に残る台詞が多い。
全体として、真面目にきっちり描かれた作品、と感じる。
あとがきによると、作者は若い頃から沖田総司に惹かれ、彼が暗いイメージで語られがちであることを残念に思ったという。
そして、自身がガンを告知された時、病に冒された総司の心理をより身近に感じた様子である。
作者闘病の中で本作が描かれたことを思うと、いっそう感慨深い。
これまで講談社(1984)、翔泳社(1995)、中公文庫(1997)、嶋中書店(2003)から出版された。
電子書籍版も出ている。

姉おみつ、兄とも慕う土方歳三、剣の師匠・近藤勇などの人々から愛され、自身もまた彼らを愛して育った沖田総司は、素直で明るい青年に成長する。
悲しい時も笑顔でふるまい、人を思いやる優しさを持っていた。
そして、自分の取り柄は剣だけであり、その剣で師匠の役に立てるならと考え、近藤らと共に浪士組に加盟し、新選組隊士となる。
島原の遊郭で、総司は娼妓・松葉と出会う。
彼女は、遠い昔に別れた幼なじみのおまつだった。
足繁く通う総司だが、その優しさをおまつは愛でなく同情と思い込み、身請けされることを拒んで姿を消す。
取り残された総司は、ただおまつの幸せを願った。
新選組は京都の治安を守るべく活躍し、総司も先頭に立って尊攘激派を斬った。
闘うことで住民を守り、組織を維持し、部下の負担を減らし、近藤・土方の役に立てると信じたのである。
労咳に蝕まれていると医師に宣告された時、多くの人命を断った自らが命を惜しむのは傲慢だろうかと、己の心に深く問う。
やがて、医師の家で出会ったおちずと惹かれあう。おちずは夫と別れ、幼い娘と胎内の子を抱えていた。
総司は彼女と子供達の力になりたいと申し出、おちずもそれを受け入れたが、病を得て世を去る。
新選組の闘いは苛烈を極め、江戸以来の同志だった山南敬助や藤堂平助も命を散らす。
刀の重さにも耐えかねた総司は、病床に伏す。
鳥羽伏見戦争の勝敗を銃砲の性能が決したと聞き、剣だけを拠り所としてきた自分はどうすればよいのか、わからなくなっていた。
江戸での療養の日々、ひとり孤独に過ごす総司のもとに、おまつが訪ねてくる。
まっすぐで健気な沖田総司像が、清々しい。
土方歳三や近藤勇、試衛館出身の同志らも、生き生きと描かれている。
芹沢鴨は、貪欲で酒色にだらしない面ばかり強調され、あっけなく暗殺されてしまう。
ページ数が限られ、多くを割けなかったのだろうが、少々惜しい。
ただ、総司に諫められた芹沢が、総司と近藤との信頼関係を心中羨む場面は印象的。
終盤、療養中の総司を土方が訪ねる場面で、土方は函館に独立政権を樹立する夢を語る。
実際には、土方が会津へ行った時期であり、蝦夷地渡航などは考えていなかったろう。
しかし作者はそれを知らなかったわけでなくて、土方が総司に新しい夢を語る場面を描きたかったのだと思う。
「あれもしたい、これもしたいと願いながら死んでいくのがいい。何もしたいことが無くなって死んでいくのは、寂しい」と土方が語り、総司も「そうですね」と答える。
この他にも、ふたりの会話には心に残る台詞が多い。
全体として、真面目にきっちり描かれた作品、と感じる。
あとがきによると、作者は若い頃から沖田総司に惹かれ、彼が暗いイメージで語られがちであることを残念に思ったという。
そして、自身がガンを告知された時、病に冒された総司の心理をより身近に感じた様子である。
作者闘病の中で本作が描かれたことを思うと、いっそう感慨深い。
これまで講談社(1984)、翔泳社(1995)、中公文庫(1997)、嶋中書店(2003)から出版された。
電子書籍版も出ている。
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