新選組の本を読む ~誠の栞~

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 中村彰彦『新選組秘帖』 

短編小説集。実在の人物をモデルとする新選組関連の短編小説9編と、山内昌之×中村彰彦の対談を収録している。

「輪違屋の客」
美少年隊士・加納惣三郎が、島原・輪違屋の錦木太夫に通いつめる。
あげく、遊興費欲しさに辻斬りを重ねたため、土方歳三によって粛清される顛末。

石田孝喜『幕末維新京都史跡事典』掲載の項目「加納惣三郎――島原田圃の辻斬りの場」に着想を得て書かれた。
司馬遼太郎「前髪の惣三郎」とは趣をまったく異にする作品。
土方歳三が輪違屋の太吉に命じ、合図を送らせる手段がちょっと面白い。
加納の実在が記録類に残っていないことが、作中でうまく理由付けされている。

「密偵きたる」
備前岡山藩に潜入した新選組・松山幾之助は、密偵であることが露見して暗殺される。
実行犯のひとり、備前勤王党・岡元太郎も、些細な出来事から思わぬ末路をたどる。

危険な探索行動にも拘らず、緊張感に欠けた振る舞いから敵の手に落ちた松山が哀れ。
その後、加害者の岡元も、つまらないことが端緒となって自滅する。この時代の人命の軽さを考えさせる。

「ふらつき愛之助」
食い詰めて新選組に入隊を志願したが、叶わなかった伊藤源助こと加藤愛之助。
なりゆきから倒幕派に加わり、最後は国事犯となって捕われてしまう、行き当たりばったり人生を描く。

伊藤源助は、慶応元年5月頃に入隊し、すぐ脱隊したと見なされている人物。
奥州への出陣、暗殺犯として刑死が史料に残るが、それ以外は創作と思われる。
冒頭、永倉新八とのやりとりが可笑しい。愛之助の無節操ぶりも、どこか笑いを誘う。ただ、結末は笑えない。

「近藤勇を撃った男」
御陵衛士残党のひとりとして復讐を企て、近藤を墨染で狙撃した富山弥兵衛
その後、新政府軍の密偵となり、探索のため越後へ潜入するが、苛酷な最期を迎える。

弥兵衛は本作のとおり、近藤の死からまもなく自らも殺害・梟首された。
その後、加害者の水戸藩諸生党も、戦死を遂げるなどしている。
時勢の移り変わりの残酷さを感じさせる。司馬遼太郎「弥兵衛奮迅」と読み比べるのも一興。

「忠助の赤いふんどし」
近藤勇、土方歳三に仕えた若き馬丁・忠助の爽快な活躍。

かなり短い作品。忠助に関して伝わっている事実が少ないため、大半は創作で補われている。
(作中では隊士・沢忠助と同一人物に設定されているが、研究者の間では別人説が有力の様子。)
士分に取り立てられたいと願いつつ、近藤・土方に忠実に仕えた忠助の真っ正直な生き方が気持ちよい。
その後、無事に帰り「白いふんどし」を締めて暮らしたと思いたい、との結びには同感。

「巨体倒るとも」
新選組伍長・島田魁が、降伏後に来し方を振り返り、明治期を生きて世を去るまで。

島田が力士に擬え「力さん」の愛称で親しまれた、という設定は、史料的裏づけのない通説を採り入れたと思われるが、本人の人柄をよく表している。
彼のような人物に支えられたことは、新選組や近藤・土方らにとって幸いだったろう。
作者は本作執筆後、長編『いつの日か還る』を書き、本作を一部改稿して同作に使用した。

「五稜郭の夕日」
少年隊士・市村鉄之助が、土方歳三の義兄・佐藤彦五郎を訪ね、託された遺品を渡し、箱館戦争の推移を語る。
しばらく滞在し、郷里に帰っていくが、やがて彦五郎の元に消息が届く。

若さゆえに命を惜しまない鉄之助の、生き急ぐさまが哀しい。
彦五郎が亡き歳三を偲ぶ思い、鉄之助を見守るまなざしの、暖かさ・切なさが伝わってくる。

「明治四年黒谷の私闘」
橋本皆助改め水野八郎は、天狗党→新選組→御陵衛士→土佐陸援隊と都合良く乗り換え出世を望んだものの、維新後は失職。やむなく新選組の元幹部を討って名を上げようと企てる。
戦死したはずの原田左之助が京都にいることをつきとめ、黒谷の会津墓地に呼び出し決闘を挑む。

水野が明治4年に37歳で急死したのは事実で、病死と推測されているものの暗殺説もある。
一方、彰義隊戦争で戦傷死したとされる原田には、生存説もある。これらに創作を交え書かれたのが本作。
原田の行方を探る過程には謎解きの面白さがあり、決闘場面にはスリルがある。

「明治新選組」
相馬主計の降伏後の生活と、謎の死の真相を描く。詳しくは『明治新選組』を参照。

「対談 新選組と日本精神」
歴史学者・山内昌之と作者が、会津の新選組史跡をめぐり、直後に対談。
各々が新選組に惹かれたきっかけが興味深い。
俗説を事実として語っている部分は少々気になるが、面白い分析も種々なされている。

初出はそれぞれ下記のとおり。
「輪違屋の客」 『オール讀物』1998年8月号
「密偵きたる」 『オール讀物』1995年7月号
「ふらつき愛之助」 『小説現代』2000年6月号
「近藤勇を撃った男」 『オール讀物』1995年2月号
「忠助の赤いふんどし」 『小説新潮』1996年1月号
「巨体倒るとも」 『問題小説』1994年7月号
「五稜郭の夕日」 『小説宝石』2001年7月号
「明治四年黒谷の死闘」 『オール讀物』1992年7月号
「明治新選組」 『小説宝石』1987年10月号
「対談 新選組と日本精神」 『諸君!』2000年5月号

新人物往来社より単行本(2002)、文藝春秋より文庫本(2005)が出ている。

各収録作は、他の書籍にも収録されている。
「密偵きたる」「近藤勇を撃った男」→『禁じられた敵討』 文藝春秋/1996 文春文庫/2003
「忠助の赤いふんどし」→『柳生最後の日』 徳間書店/1999 徳間文庫/2003
           →『新選組アンソロジー(下)』 舞字社/2004
「巨体倒るとも」→『名剣士と照姫様』 徳間書店/1995 徳間文庫/1998
        →『誠の旗がゆく』 集英社/2003
「五稜郭の夕日」『血闘!新選組』 実業之日本社文庫/2016 『明治新選組』 光文社文庫/2016
「明治四年黒谷の私闘」→『眉山は哭く』 文藝春秋/1995
           →『恋形見』(『眉山は哭く』の改題) 角川文庫/2002
「明治新選組」『明治新選組』 新人物往来社/1989 角川文庫/1993 光文社文庫/2016
       →『新選組アンソロジー(下)』 舞字社/2004

新選組秘帖
(文春文庫)
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「新選組秘帖を読みました

やっと読みました。
私のブログにも書いたのですが、当初は少々違和感を持ちながらの読書でした。
しかしながら、新選組にそれほど詳しくない私には、なかなかにユニークな本で、読み進むにつれ引き込まれていました。
この手の作品は、どこまでが史実で、創作はどの点なのか、を知りたくなりますね。

ところで、話は変わりますが、「第二級活字中毒者の遊読記」というブログで、
「池田屋乱刃」伊東潤
http://sanjyoumaki.blog136.fc2.com/blog-entry-818.html
という記事を見つけました。

こちらのサイトに見当たらない作品名でしたので、ご存じとは思いましたが念のためにご報告させて頂きます。

2015/05/27(Wed) |URL|siro [edit]

siroさんへ

ご感想ありがとうございます。
木内昇『新選組 幕末の青嵐』のような作品というご希望でしたが、正直よくわからなかったので、読後感が良いと感じたものをお薦めいたしました。ただ、木内作品では『地虫鳴く』のほうが面白かった当方としては、siroさんのお好みに合っているかどうか自信がありませんでした。
「つまらなかった」と言われなくて良かったです(笑)

中村彰彦は、お気づきのとおり、史実の土台の上に虚構を構築するタイプの作家です。史料引用など史実を詳しく記述することによって、虚構も史実のように見せる手法なのだろうと思います。
当方のような新選組オタクにとっては、その境目を見極めるのも楽しみです。
また、新選組のほかにも、会津藩や桑名藩、遊撃隊など戊辰戦争の敗者を多数題材としており、そこにシンパシーを感じます。

『池田屋乱刃』は、長州同調者の側が主人公だそうで、新選組は悪役扱いなのでは…?と敬遠しています。もしよろしければsiroさんがお読みになって、そのあたりを教えてください。
ちなみに、池田屋事件それ自体も、まだ充分に研究されておらず、史実として未解明の面が大変多く残されています。

2015/05/28(Thu) |URL|東屋梢風 [edit]

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