新選組の本を読む ~誠の栞~

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 森村誠一『士魂の音色』 

短編小説集。書名の読みは「しこんのおんしょく」。
実際の事件や人物を題材として、その裏に隠された経緯と意外な結末を描く9編。
このうち、新選組に関わるのは「魂無き暗殺者」「剣菓」の2編。

「魂無き暗殺者」
酒井兵庫は、薩摩の田中新兵衛と肝胆相照らす仲となり、友情の証として互いの佩刀を交換した。
のち新選組に入隊したところ、三条実美暗殺を命じられる。
その夜、酒井を含む5人の新選組隊士は、朔平門外で帰宅途中の公卿を襲撃。
ところが、それは標的の三条ではなく、姉小路公知であった。
酒井は刀を奪われてしまい、そのまま撤退する。
遺留品のため容疑者として町奉行所へ連行された田中は、黙秘したまま自害を遂げた。
酒井は、不覚を取ったとして隊内での面目を失墜するが、それ以上に親友を死なせた悔恨に苦しむ。
その後、土方歳三が自分を処断しようとしていることを知って、決死の反撃と脱走計画を試みる。

酒井兵庫は、慶応元年7月頃に脱走し、追っ手の沖田総司に斬られたと伝わる実在隊士。
その死と姉小路公知暗殺事件を関連づけ、創作されたのが本作である。
松平容保が暗殺を画策するあたりはどうかと思うが、フィクションとしては面白い。
ただ、ストーリー展開が優先されているせいか、酒井の観念した理由がわかりにくいなど、人物の心理描写は不充分と感じた。
なお、本作の土方は非常に陰険で狭量な上、かなりかっこわるい役回り。

「剣菓」
明治中期の東京、裏街の長屋に住みついた「入布新」と名乗る老人と、内気な少年・留吉との交流を描く。
留吉は、菓子をもらったり、勉強を教わったりするうち、老人に秘められた過去があることを感じ取る。
長屋には、悪質なごろつきの一党が出入りし、住民を苦しめていた。
一党をやっつけるため剣術を習いたいと言う留吉を、入布老は厳しく諭し、一党に関わらないよう忠告する。
しかしまもなく、留吉に試練と決意の時が来る。
老人は留吉の決意を認め、住人達に団結と決起を呼びかけるが、賛同は得られなかった。
老人と少年、たった二人の闘いが始まる。――
――成長した留吉は、老人から西洋菓子をもらった思い出を胸に、菓子職人として修業。
やがて、西洋菓子の製造販売業「紅屋」を興し、成功する。
入布老の素性を知ったのは、幾星霜を重ねた後のことだった。

「入布新」が永倉新八(杉村義衛)の変名と気づいた向きは、なかなかの新選組通。
(※作中ではかなり高齢のように描写されているが、経歴から推測される年齢は48~60歳と幅がある。)
歴戦の勇士が積み重ねてきた年月の重みを感じさせる。彼と留吉少年との友情、師弟愛もしみじみと感動的。
本作のためだけでも、本書を手に取ってみる価値は充分あると思う。

上記以外の収録作品は、下記のとおり。
「飯怨」 将軍継嗣問題をめぐる、一橋派と紀州派との対立。
「計勅」 戊午の密勅をめぐる、井伊直弼の陰謀。
「恩走」 坂下門外の変で、安藤信正を救った小者の忠誠心と命がけの活躍。
「一針の稗史」 生麦事件と、その端緒となった名も無き庶民の怨恨、復讐の果て。
「魔剣」 武市瑞山に命じられるまま暗殺剣をふるった岡田以蔵の生涯と、最後の仕事を描く。
「膿殺」 池田屋事件の裏に、桂小五郎の深慮遠謀があったとする物語。
「士の魂」 江戸中~後期、飛騨の大原騒動(一揆)を扱った作品。唯一、幕末ものではない。

新潮社刊の単行本(1991)、カドカワノベルズ・改題『魔剣 士魂の音色』(1994)、新潮文庫(1994)が出版されている。

中公文庫・改題『魂無き刺客――士魂の音色』(2009)は、「剣菓」「士の魂」が無く、代わりに「吉良上野介御用足」を収録(「魂無き暗殺者」は掲載されている)。

「剣菓」は、『休眠用心棒 ――武士の本分』(中公文庫/2008)、『血闘! 新選組』(実業之日本社文庫/2016)にも収録されている。

士魂の音色
(新潮文庫)




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ご訪問、コメント有難うございます。
これからも楽しみに勉強させていただきます。

2011/12/03(Sat) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん
こちらこそ度々ご訪問いただき、ありがとうございます。

このブログを始めた理由のひとつは、あちこちで
「新選組に興味を持ったが、どんな本を読めばいいか」との問いを見かけることです。
特に規準はなく、当人が読みたいと思ったものを読むのが一番ですが、
自分の読書体験を披露することで、多少なりと参考になればと考えました。
オススメ本はもちろん、そうでなくても印象に残ったものは紹介する方針です。

すでに新選組に詳しい方、読書家の方にはお役に立つかどうかわかりませんが、
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

なお、戦国期について、なおまゆさんのブログ「お父さんの歴史散歩」にて
勉強させていただきたく思います。

2011/12/05(Mon) |URL|東屋梢風 [edit]

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