新選組の本を読む ~誠の栞~

小説 史談 エッセイ マンガ 研究書など

 大鳥圭介・今井信郎『南柯紀行・北国戦争概略衝鉾隊之記』 

史料集。戊辰戦争を旧幕府方に属して戦った人物の手記、4編を収録。

戊辰戦争の記録は、新政府側の残したものが多く、それに対して旧幕側のものは少ない。
その理由は、様々に考えられる。陣中で記されたものの多くは、戦時の混乱で失われた可能性が高い。
戦後も、政府に反逆した賊軍の著作を世に出すことは、簡単ではなかったろう。
秘匿されているうちに所在不明となってしまったものも、少なからずありそうだ。
しかし、物事は両面から見てこそ真実に迫ることができる。

本書は、数少ない旧幕側の記録のうち、下記4編を収録している。
大鳥圭介  「南柯紀行」
今井信郎  「北国戦争概略衝鉾隊之記」「蝦夷之夢」
小杉雅之進 「麦叢録」

「南柯紀行」
幕府歩兵奉行であった大鳥圭介は、旧幕脱走軍を率いて北関東から会津の各地を転戦し、仙台で旧幕海軍と合流、蝦夷地に渡る。
榎本武揚の箱館政権下では陸軍奉行を務め、五稜郭開城まで抗戦を続けた。
降伏後は、榎本らとともに東京へ送られて獄中生活を送る。
明治5年1月、特赦により放免された。

大鳥が執筆した体験記は、獄中で書かれた手記Aと、これに手を加えて明治30年頃に脱稿された手記Bの2種類が存在する。
両方とも現物は世に出ていないが、写本があるという。

明治30~31年、丸毛恒利が、手記Aの写本を新聞・雑誌に発表した。
この時の『旧幕府』『同方会誌』の連載が、本書掲載「南柯紀行」の底本となっている。
内容は、江戸城開城から五稜郭開城までの実戦史と、その後の獄中記である。

一方、手記Bの写本を元に、明治44年、中田蕭村が『幕末実戦史』を宝文館・誠文館より刊行した。
(※昭和53年、これに「麦叢録」を追加した『幕末実戦史』が、新人物往来社から出た。)
ただ、この『幕末実戦史』には、誤字や原文改変された箇所が非常に多い。
大正4年には山崎有信が、より精度を高めたものを『大鳥圭介伝』として北文館から出版している。
(※『大鳥圭介伝』は、平成7年に大空社、同22年にマツノ書店より復刻刊行されているので、大きな図書館には所蔵されていると思われる。)

本書は、もともと『幕末実戦史』の再刊として企画された。
しかし、内容を検討してみるとあまりにも問題点が多いとわかったので、中田蕭村の編集改変を経ていない『旧幕府』『同方会誌』の連載を収録することになったと、本書「解説」にある。

「北国戦争概略衝鉾隊之記」「蝦夷之夢」
今井信郎は、見廻組の一員として、坂本龍馬・中岡慎太郎の暗殺にも関わったとされる人物。
戊辰戦争期には、古屋佐久左衛門率いる衝鋒隊の副隊長として北関東、北越、会津、箱館と戦った。

その体験を元に記されたのが、この「北国戦争概略衝鉾隊之記」「蝦夷之夢」である。
(※前述の中田蕭村『幕末実戦史』には「衝鉾隊戦史」が収録されている。この今井の体験記2編に他の諸記録を交えて編纂されたもので、やはり原史料とは隔たりがあるという。)

「北国戦争概略衝鉾隊之記」は、昭和46年『坂本竜馬を斬った男』(今井幸彦著/新人物往来社刊)に収録された。これが本書の底本であり、内容は、北関東から箱館に至る衝鋒隊の記録である。
「蝦夷之夢」は、昭和47年『歴史と人物』11月号(中央公論社)の誌上に発表されたものが底本。内容は、旧幕軍の箱館戦争記である。

「麦叢録」
小杉雅之進は、長崎海軍伝習所の第三期生、幕府軍艦開陽の機関長であり、榎本武揚ら旧幕脱走軍の箱館政権下では軍艦役と江差奉行並を務めた人物である。

小杉の著作「麦叢録」は、敗戦直後、弘前の最勝院に収容されている時に書かれ、明治7年と非常に早い時期に刊行された。
これについては、明治6年に『両窓記聞』という本が出版されたのがきっかけという。
小杉がたまたまこれを読んでみると、自身の「麦叢録」のタイトルを変えただけで内容はそっくり同じものだったので、訴訟を起こし絶版とさせた。
その後、人に勧められて真正な「麦叢録」の刊行に至ったという。
内容は旧幕軍の戊辰戦記であり、海軍の動向がわりあいに詳しい。

いずれの4編も、新選組に焦点を当てたものではない。
しかし、新選組が戊辰戦争をいかに戦ったかを知る手がかりとして、大変貴重な記録である。

中でも「南柯紀行」は詳しく、大いに参考になる。
たとえば会津戦争の後半、土方歳三は援軍を求め庄内へ向かい、斎藤一らが消息を絶ち、島田魁中島登らを中心とする新選組は、大鳥ら伝習隊とともに土湯峠を越え、福島を経て仙台へ至ったとされる。
この移動について、島田や中島の手記ではよくわからないものの、「南柯紀行」には詳述されており、峠越えルートもほぼ特定できる。
夜の山中、足を傷め空腹を抱えつつ、道なき道を踏破してやっと土湯温泉に辿り着いてみたら、人家はほとんど焼き払われており、わずかに残る数軒に泊めてもらったとか、酒屋で濁酒を入手し皆で分け合って飲んだとか、かなり細かい。
本人の感想も記され、状況を想像すると思わず笑えてしまう箇所もある。大鳥は作家の才能もあったと思う。

4編とも文語体で書かれているため、取っつきは良くない。
しかし、漢字や仮名遣いが現代的に改められ、句読点も適宜補われているので、充分読解できる。
できるだけ原文に近いものを読み、著者の意思や心情に触れることの意義は大きいであろう。

平成10年(1998)、新人物往来社より刊行された。四六判ハードカバー。

南柯紀行・
北国戦争概略衝鉾隊之記
>>詳細を見る



にほんブログ村 歴史ブログ 新選組へ
にほんブログ村 ←クリック応援ありがとうございます

ノンフィクションの関連記事

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

Trackback

トラックバックURL:https://bookrest.blog.fc2.com/tb.php/74-52732115


back to TOP