新選組の本を読む ~誠の栞~

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 佐木隆三『新選組事件帖』 

長編小説。瓦版屋の男と新選組との関わりを中心に、池田屋事件から鳥羽伏見戦争にかけての幕末動乱を描く。

近藤勇の幼なじみである文三郎は、平凡な瓦版屋の仕事を飽き足らなく思い、京都にやって来た。
時代を描く新しい記録文学の作家を志して、あらゆる事件を見聞し、記録に留めようとする。
何事も自身の目や耳で確かめなければ気が済まない彼は、人に話を聞くのみならず、事件の跡も生々しい池田屋内部に入り込んで逮捕されそうになったり、萩へ決死の潜入を果たして奇兵隊総管・赤禰武人と面談したりと、精力的な取材活動を繰り広げていく。


文三郎は、新選組と親しく好意的だが、時には批判的な目を向け、冷静に観察している。
その文三郎と、近藤勇をはじめとする新選組の面々とのやりとりが、面白い。
本作の近藤は、単純な武闘派でなく、赤禰武人と同調して不戦工作を試みるなど頭脳派でもある。
また、土方歳三は美男ながら油断のならない策士、沖田総司は明るく素直な好青年と、典型的な人物造形がなされている。

近藤が家族・後援者らに宛てた手紙の内容が、実際に残っている書簡と一致しているなど、作者がよく調べて反映させていることがわかる。

また、新選組だけでなく、奇兵隊の動向も詳しく描かれている。
作者は、双方の「草莽層を中心に構成された」「悲劇的な末路を辿った」という共通性に注目した様子。
小説の手法でそれを描き出そうとしたところが、本作の最もユニークな点かもしれない。

作者の分身ともいえる文三郎は、積極的に諸事に関わっていき、新選組と奇兵隊を結びつけもする。
狂言回しの役割を負っていても、ただの傍観者ではないところが、作者の技術・工夫を感じさせる。

文三郎との内妻として、料理屋の酌婦りょうが登場する。
ふたりの会話により、政情や新選組の内部事情が、説明っぽくならないよう、わかりやすく語られる。
ただ、彼女の前歴も新選組を嫌う理由も、はっきりしない。
このあたりはストーリー上の伏線だったようだが、作中では謎のままになっている。

作者は、実在の犯罪事件を主題とするドキュメンタリー、ノンフィクション小説を執筆、コメンテーターとしても知られるが、若手の頃にはNHK「歴史への招待」に何度か出演した。
同番組への出演は「新選組・池田屋騒動」の回が最初であり、これをきっかけとして新選組に興味を持ち、本作執筆に至ったという。

巻末あとがきによると、作者は本作の続編を構想していたようである。
しかし、残念なことに出版に至らないまま、2015年に他界した。

1982年、『新選組』のタイトルで文藝春秋より単行本が刊行。
1990年、『新選組事件帖』と改題の上、文春文庫版が出版された。

新選組事件帖




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