新選組の本を読む ~誠の栞~

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 風巻絃一『斬りすて浪人』 

短編小説集。2編1話形式をとる、全16編8話の連作。
新選組の面々を主人公とする各話の集成が、全体として新選組の興亡を描き出している。

「壬生の朝」「祇園の露」
恋愛問題と新選組隊士としての苛烈な日々に苦しむ美青年、佐々木愛次郎
新見錦が隊規違反により処断される陰で、心理的に追い詰められる。
そして、愛し合う娘お君と連れだって脱走したものの、無残な最期を遂げるのだった。

「殺人者」「四人目の女」
女を手に入れるためには殺人をも厭わない芹沢鴨の乱行。
菱屋が掛け取りに差し向けたお梅は、過去の女たちとは異なり、つかみどころのない妖しさで芹沢を魅了した。
しかし、芹沢は暗殺され、お梅も巻き添えとなって命を落とす。

「隊士狂乱」「逃げる幽霊」
池田屋事件後、隊士が次々と精神錯乱をきたし、幽霊の噂をめぐる怪事件が頻発する。
真相を暴こうと池田屋跡へ出向いた沖田総司は、幽霊の意外な正体を知る。
そして、近藤勇の側妾だった深雪は、何処へともなく去っていく。

「敵意」「逝く春」
松原忠司の心中事件。
筋は『新選組物語』所収の「壬生心中」とほぼ同じだが、独自の潤色がなされている。

「人斬り誕生」「草の露」
女性をめぐる実兄との確執から、荒んでいく大石鍬次郎
憎んでいたはずの兄が同僚隊士に斬られて死んだ時、言いようのない激情に駆られる。

「不肖の弟子」「阿修羅の剣」
無敵の剣を誇る服部武雄は、伊東甲子太郎に従って新選組に加盟した。
稽古で沖田や永倉以上の腕を見せ、隊内一の評判を取る。
しかし、隊の主流派である近藤・土方とは反りが合わず、伊東派の一員として分離脱退。
伊東横死の知らせが届いた夜、同志とともに油小路へ急行し、激闘を繰り広げる。

「妖しい魔性」「荒獅子」
ある公卿の美しい妻を、強引に手に入れた近藤勇
しかし、理解を超えた女の言動に惑乱し、激しい女性不信に陥って煩悶する。
その混乱は、周囲の男女をも巻き込んで傷つける。

「砲火の前に」「落花有情」
近藤に代わって新選組を率いることとなった土方歳三
近藤と自分との関係を振り返り、様々に苦悩しつつも戦い続け、やがて箱館に散っていく。

本書の近藤は、乱暴な言動が多い。
  • 錯乱した隊士を介抱させるどころか、斬殺するよう命じる。
  • 過失から隊士を斬ってしまい、それを目撃した者をも殺害する。
  • ろくに詮議もしないまま、隊士に制裁を加える。
  • 無抵抗の者を衝動的に斬って、その妻を自分のものにする。
  • 側妾たちの貞節を試すため、部下に無茶な要求をする。
――と、数え切れないほどの無軌道ぶりに、唖然とさせられる。
土方も、夜襲訓練にかこつけて気に入らない部下を暗殺しようとするなど、陰険な面が目立つ。
その上、近藤と土方の間にもなんとなく距離があり、心から信頼しあっていないように感じられる。
そんなこんなで、読後感がスッキリしない。

新選組を主役としながら好意的に扱わない小説は他にもあるが、本書は徹底している。
作者は新選組、特に近藤と土方が嫌いなのだろうと考えざるをえない。
これほど嫌いなのに、何故わざわざ題材にしたのか、理解に苦しむ。
ひょっとして、『燃えよ剣』『新選組血風録』に対するアンチテーゼのつもりだろうか?

とはいえ、オリジナリティ重視の娯楽小説なので、これ以上あげつらうのも無粋だろう。
ストーリー展開は巧みで、それなりに面白い。
新選組の面々に思い入れを持たない向きなら、新鮮に感じられ、楽しめるかも。

春陽文庫(1983)が刊行された。電子書籍も出版されている。

斬りすて浪人



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おはようございます。
著者の『闘将織田信長』を読んだことがあります。「物足りない」というのが正直な感想です。
表面的な描写に終始していて、人物、事件への踏み込みが足りないと思いました。やはり、「読後感がスッキリしない」んです。
愛情を持ってない人物を嫌々かいてるんでしょうかねえ~?

2011/12/10(Sat) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん
コメントありがとうございます。
「踏み込みが足りない」というご指摘、同感です。

作者は意図的に踏み込まないようにしている、という可能性も考えられますね。
理由は、自己投影を避けたいとか、筋を破綻させないためとか、
何かあるのかもしれませんが、わかりません。

少なくとも近藤・土方に関しては、作者は好きではなさそうです。
著作一覧を見た感じ、好きな幕末人物はおそらく坂本龍馬や高杉晋作でしょう。

本作の終盤、箱館の土方歳三が「死にたい」と口癖のように繰り返すとか、
愛し合った女が遙々訪ねてきたのに会わないとか、そんな描写があります。
なんだか「土方歳三は『燃えよ剣』みたいにかっこいい奴じゃない」とでも言いたそう?
に感じるのですが、単なる私の思い過ごしかもしれません。

2011/12/10(Sat) |URL|東屋梢風 [edit]

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