新選組の本を読む ~誠の栞~

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 広瀬仁紀『洛陽の死神』 

長編小説1編と短編小説2編を収録。
表題作「洛陽の死神」は、芹沢鴨を主人公として、浪士組加盟からその死に至るまでの経緯を描く。

幕府徴募の浪士組に加わる直前から、芹沢鴨は胡乱な黒い影につきまとわれるようになった。
それは自分にしか見ることができず、人に相談しても理解されない。
京都残留組が会津藩預かりとなり、新選組を発足させる中、芹沢派と近藤派との主導権争いが始まる。
土方歳三は、すべてを自派の有利に運び、芹沢に不利な役回りを負わせる。
それが巧妙な計算に基づいているため、芹沢は気づかないまま、自らの悪評を広めてしまう。
打ち込まれた計略の楔により、芹沢と新見との間にも亀裂が生じる。
不気味な黒い影を追い払おうと暴れる時、周囲には芹沢が精神錯乱をきたしたとしか思えない。
黒い影に操られるかのように、芹沢は張り巡らされた破滅の罠へと踏み込んでいく。


とかく悪役扱いされる芹沢鴨であるが、マイナスイメージを押しつけられて損をしているだけでは、という作者独自の着想を元に描かれている。
黒い仔猫を保護して可愛がり、八木家の葬儀で悲しんでいる沖田を見て涙ぐみ、支払いの催促に来た菱屋お梅から逃げ回るという、芹沢の人物像が新鮮。
お梅との関係、因幡薬師の見世物、大坂相撲との乱闘事件、大和屋焼き討ち事件など、芹沢の悪名が轟く出来事にはこういう真相があったのかと納得してしまう展開が面白く、また芹沢が気の毒に思えてくる。

単純明快な芹沢に対して、土方歳三があまりにも用意周到な策謀家に描かれている。
ちょっと恐ろしくもあり、同時に権謀術数に凝る気分を味わえもする。
近藤勇は、土方の計略に乗って芝居を打つなど、なかなか器用な面を見せる。
沖田総司は天真爛漫な性格で、思ったことをずけずけ言うのに反感を買わない。短気な芹沢も、沖田には不思議と怒らない。
このあたりの人物造形は『沖田総司恋唄』『土方歳三散華』と共通する。
登場人物同士の会話が楽しく、それぞれの人柄を巧く表現している。

最後に、黒い影(=死神)の正体が判明するが、目撃者の心理的状態が原因のようにも解釈できる。
物語の中で、この影の存在だけが妙にオカルトめいているが、ストーリーの雰囲気には合っている。

他の収録作品2編は、下記のとおり。

「河原町三条下ル」
坂本龍馬を暗殺すべくめぐらされた陰謀の顛末。
佐々木唯三郎、大久保利通、中岡慎太郎、それぞれの思惑が交錯する。
御陵衛士の動向にも、少々触れている。

「薩南の鷹」
中村半次郎(桐野利秋)の生涯を描く。新選組とは特に関連しない内容。
作者は、同名・同主題の長編小説を発表しており、本作はその前に書かれたシノプシスに相当する。

学芸書林の単行本(1977)と、富士見時代小説文庫(1984)が出版されている。

洛陽の死神


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こんばんわ。
いつかは出ると思ってました。
広瀬仁紀氏の作品の中で、好きな作品の一つです。芹沢鴨は巷間言われているほど悪人ではないって思います。
広瀬氏は、登場人物に愛情を持って書いてくださっていて、読後感がよいですね。

2011/12/12(Mon) |URL|なおまゆ [edit]

Re: なおまゆさんへ

なおまゆさん
コメントありがとうございます。

「芹沢鴨は巷間伝わるほどの悪党でない」とする見方は、
池波正太郎や童門冬二の小説にもありますね。
近年のフィクションでは、そういう見方のほうが多いかもしれません。

芹沢が本作のような人柄だったとすると、
彼を陥れる土方が悪党に描かれそうなものですが、
決してそのようにならないところ、土方にも感情移入できるように描かれているところが
広瀬仁紀の巧さ、快さだと思います。

芹沢を悪者にして存続した新選組も、
明治期には「逆賊」「極悪非道の人斬り集団」にされてしまいました。
その新選組の評価が見直される時代になって
芹沢の人物評にも変化が現れてきた、ということでしょうか。

2011/12/13(Tue) |URL|東屋梢風 [edit]

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