新選組の本を読む ~誠の栞~

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 津本陽『明治撃剣会』 

短編小説集。幕末~明治期を舞台に、優れた剣客を主人公として迫力の剣戟を描く作品8編。
収録作のうち、新選組に関わるのは「祇園石段下の血闘」「橋本皆助の奮戦」の2編。

「祇園石段下の血闘
薩摩藩士・指宿藤次郎は、身元・姓名を偽り、江戸で新選組の隊士募集に応じた。
彼の真の目的は、密偵として新選組内部の動静を探ること、特に御陵衛士の中に潜む新選組の間者を突き止めること、さらにあわよくば近藤・土方ら幹部を暗殺することであった。
新入の仮同士として京に上った藤次郎は、稽古でその剣技を評価され、さらに市中取り締まりで不逞浪士を倒し、正式な隊士として採用される。
そんな時、屯所を訪れた見廻組組士の中に、江戸の道場で相弟子だった村瀬がいるのに気づく。
身元が割れることを恐れた藤次郎は脱走し、薩摩藩邸に逃げ込む。
御陵衛士内部の間者が誰かつかめないまま、油小路の変で衛士一党は壊滅した。
その後、所用のため外出した藤次郎は、祇園石段下にて村瀬をはじめとする見廻組8人に取り囲まれる。
最早逃げることはできず、覚悟を決めた彼は独り立ち向かう。

指宿藤次郎については、祇園石段下で見廻組と戦って死んだこと、彼を見捨てて逃げた前田某という者に橋口覚之進(樺山資紀)が葬儀の場で制裁を加えたことが、伝わっている。
ただ、藤次郎が「河島昇」と変名して新選組に潜入していたというのは、作者の創作と思われる。
少なくとも、同名人物の在隊記録は発見されていない。(名前が似た隊士に川島勝司がいるが、彼は除名された後、隊名を騙り金策した罪で斬殺されており、共通点は見られない。)

「橋本皆助の奮戦」
新参隊士の橋本皆助は、古参の浅野薫とはウマが合わなかった。
浅野は、かつて副長助勤を務めたにもかかわらず、実戦が振るわず平隊士に降格された者だった。
ある時、橋本と浅野が、不逞浪士2人の潜む町屋に突入することに。
橋本は、浅野に後詰めを頼んで、先頭に立つ。
しかし、浅野が来ず、腹背に敵を受け危ういところを独力で切り抜けた。
橋本はこの一件を語らなかったが、浅野が卑怯者という噂は自然と隊内に広がる。
そして、三条制札事件。橋本・浅野は見張りを命じられ、物乞いに変装し、橋の下に潜んだ。
狼藉者の出現を、橋本はいち早く味方に知らせ、さらに激しい戦闘にも飛び込んでいく。
一方の浅野は、別働隊への連絡が遅れた上、参戦もしなかった。
事件後、橋本が仮同士から正式採用されたのに対し、浅野の処分は決まったようなものだった。

橋本皆助と浅野薫は、実在隊士をモデルとする。
橋本は、新選組を脱退、御陵衛士を経て土佐陸援隊に加盟した人物。
『新選組秘帖』所収「明治四年黒谷の私闘」に主人公として登場するが、本作とはだいぶ印象が異なる。
浅野は、剣もそこそこ使えたが、どちらかというと学才で重用された隊士。
本作のとおり、三条制札事件で失敗して除隊処分となり、後に沖田総司に斬られたと伝わる。

どちらの作品も、新入隊士が徐々に頭角を現していく過程が、具体的で興味深い。
また、新選組の苛酷な訓練や激しい実戦の描写には、かなりのリアリティがある。
生きるか死ぬかの戦いで敵に向かっていく精神力を培うには、普段からこれくらい恐ろしい訓練をする必要があるのだろうと、そんな日々とはまったく縁のない身でも充分に想像できた。

この他の収録作品は、下記のとおり。
「孤独な武者振り」 現代もの。大阪の警察署の道場に現れた、謎の遣い手の立ち合いを描く。
「血ぬられた日」 明治後期、公共工事入札をめぐる争いから、襲撃された建築業の主が応戦する。
「宵宮の五人斬り」 明治期半ば、恩を仇で返され侮辱された官吏が、驕る銀行頭取に復讐する。
「隼人の太刀風」 明治中期、大阪府西区西警察署の警部補らが、無法を働く大阪鎮台兵らと対決する。
「闇を奔る」 明治初年、かつて京都見廻組組士だった手習い師匠が、強盗団に立ち向かう。
「明治撃剣会」 明治初年、地方を巡る撃剣興業の中で行われた、真剣勝負の果て。

文藝春秋から、単行本(1982)と文庫本(初版1984/改版2005)が出ている。

「祇園石段下の血闘」は、下記の書籍にも収録されている。
『代表作時代小説 昭和57年度』 東京文芸社 1982
『代表作時代小説 第28巻』 東京文芸社 1988
『北の狼 津本陽自選時代小説集』 集英社文庫 1989
『大川端上げ潮どき 時代小説傑作選』 講談社文庫 1991
『津本陽自選短篇20』 講談社 1999
『津本陽集』 リブリオ出版 2000
『新選組アンソロジー その虚と実に迫る 下巻』 舞字社 2004
『最後の武士道 幕末維新傑作選』 集英社文庫 2010
『血闘! 新選組』 実業之日本社文庫 2016

明治撃剣会
(文春文庫)
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