新選組の本を読む ~誠の栞~

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 子母澤寛『剣客物語』 

短編集。幕末期の実話を短編小説、もしくは随筆ふうに記述した10編。
収録作のうち、新選組に関連するのは「おじ様お手が」「剣客物語」の2編。

「おじ様お手が」
沖田総司の甥である沖田芳次郎が、新徴組の三十四番組頭・三村伊賀右衛門の切腹に際し、介錯を務めた経緯。

沖田家は、総司の義兄・林太郎が継いでいた。林太郎は新徴組の隊士であった。
林太郎の妹は、三村伊賀右衛門の息子・将太郎と婚約していた。
慶応2年の冬、伊賀右衛門と部下・柚原三郎とが刃傷沙汰を起こし、双方とも切腹を申し付けられる。
伊賀右衛門は林太郎に介錯を頼んだ。
林太郎は、いずれ将太郎の義理の叔父となる立場を慮り、長男・芳次郎にさせてはどうかと提案。伊賀右衛門も同意した。
切腹の時、伊賀右衛門は腹に短刀を突き立て、右手でうなじを叩いて「ここだぞ」と声をかけたが、血糊のためか手が離れなくなる。
芳次郎が「小父様、お手が」と言うと、「かまわぬ、手も一緒に斬れ」との返事。
それを聞いた芳次郎は……

ちなみに、新人物往来社刊『新選組大人名事典』には、下記2点が指摘されている。
  • 三村伊賀右衛門の死は、実は慶応元年9月であり、このとき芳次郎は13歳だった。
  • 三宅捨五郎という元新徴組隊士は、墓が沖田家の菩提寺にあり、名前も沖田家過去帳に載っている。死去は慶応2年。
あるいは、芳次郎が介錯したのは捨五郎、という可能性も考えられる。

当時は年齢を数え年で表した。嘉永6年生まれの芳次郎は、慶応2年には満13歳。この年齢で介錯とは驚かされる。本作は、子孫筋からの聞き書きを小説にした様子。
なお、作者は同じ題材を扱った「露宿洞雑筆 十四歳の介錯人」を書いており、これはエッセイ集『幕末の群像』『幕末奇談』に収録されている。

「剣客物語」
「西から来た男」「他流試合」「花と花」「小稲のこと」「日本一のもの」「雲」と6個の項目名を含むものの、内容は切れ目なく連続しており、下記のような話が綴られている。
  • 「幕末三剣豪」と謳われる千葉周作、斎藤弥九郎、桃井春蔵よりも、男谷精一郎、大石進、島田虎之助のほうが実力は高い。
  • 男谷道場で、師範代・本目縫之助と近藤勇とが試合をした逸話。竹刀を落とされた近藤は、素手で組み討ちに持ち込み戦い続けたが、接戦の末に結局は負けてしまった。
  • 玄武館・練兵館の門人には、維新後に政府の顕官となった者が多く、自分の流派や師匠を実際以上に賞賛して誤伝も広めたから、この手の自慢話は信用しがたい。
  • 練兵館出身の渡辺昇の話では「試衛館に道場破りが来ると、近藤勇の応援依頼に練兵館の猛者が駆けつけて撃退した。お礼はいつも酒1升と沢庵漬けだった」というが、これも怪しいので信じていない。
  • 心形刀流・伊庭八郎の経歴。箱根の戦いで左腕を失ったこと、吉原の遊女・小稲に援助されたこと、箱館戦争で負傷し亡くなったこと、太さ1尺もの松の木を一刀のもとに切り倒したこと、など。
  • 岡田十松は、百姓の出身だが文武両道の遣い手で、礼儀正しい人格者だった。この人の弟子のひとりが、永倉新八である。
  • 作家の某先生は、土方歳三が吉原田圃で追い剥ぎ強盗をやったようなことを書いているが、江戸時代でも治安は行き届いていたはずで、このような話を真に受けるのはどうかと思う。
以上の他にも、有名無名にかかわらず多数の剣客が取り上げられ、大変興味深い。

他の収録作8編は、下記のとおり。
「雪の中の燕」 外国奉行を務めた開明派ながら、江戸開城の際に自害した旗本・川路聖謨の生涯。
「今紫物語」 著名人の贔屓も多く、全盛古今絶無と謳われた、吉原の遊女・今紫の生涯。
「奇女のぶ」 祇園の名妓として名を馳せたのぶの、才色兼備ぶりと、数奇な半生。
「彰義隊の丼」 彰義隊戦争を目撃した江戸っ子たちの、見聞や体験の数々。
「むかし小判の落葉」 江戸の大商人・津国屋藤兵衛の豪奢を極めた放蕩ぶり。
「宵のしらたま」 人気芝居の帳元・紀岡権兵衛と芸者上がりの妻・小竹が、心中する経緯。
「落葉」 日本医学の発展に尽くした蘭方医・相良知安の不遇な生涯。
「謙道老師年譜」 彦根藩士の身分を捨て出家、井伊直弼の墓を守り続けた遠城謙道の略伝。

文藝春秋社より単行本(1957)、文庫本(1988)が出版されている。

「剣客物語」は、下記の書籍にも収録されている。
『子母沢寛全集 第9巻 蝦夷物語・剣客物語』 中央公論社 1963
『雨の音 子母澤寛幕末維新小説集』 中公文庫 2006
『幕末の剣鬼たち』 コスミック・時代文庫 2009

剣客物語
(文春文庫)




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