新選組の本を読む ~誠の栞~

小説 史談 エッセイ マンガ 研究書など

 徳永真一郎『江戸妖女伝』 

短編小説集。戦国期から明治初期を舞台に、有名無名の男女をめぐる色恋と哀歓を描く29編。
このうち、新選組に関わるものは4編。

堅い歴史小説を多数手がけてきた作者の、数少ない官能もののひとつである。
史実を題材にした話もあるが、大幅な創作を加え架空の物語として描いている。

「新選組異聞 火遊び」
太物問屋、菱屋の家付き娘だったお梅は、婿養子の亭主を尻に敷き、美貌を誇って勝手気ままに暮らしていた。
そんなある日、店に押しかけてきた芹沢鴨と惹かれあう。
売掛金の回収を口実に頻々と屯所へ出向き、情欲におぼれていくが、その関係が近藤らに芹沢派粛清を決意させたことを、当人たちは気づかなかった。

お梅が菱屋の妾でなく、正妻と設定されている。
芹沢とお梅の関係に近藤勇が気づく場面では、池波正太郎『近藤勇白書』と部分的に似た描写がある。(パクリとか剽窃とかいう意味ではない。)作者はこの作品から着想を得たのかもしれない。

「新選組異聞 女と金と侍」
播州高砂の蔵元、河合家のひとり息子・喜三郎は、武士に憧れ、郷里に許婚を残したまま新選組に入隊する。
やがて、祇園の芸妓と深い仲になり、その身請けのため隊の公費を流用するが、露見して罪に問われる。

実在の隊士、河合耆三郎をモデルにした物語。
ただし、婚約者がいた、芸妓を身請けしようとした、同僚の内山梅吉から嫉妬された、などの話は創作であろう。
子母澤寛『新選組物語』にも河合耆三郎のことが詳しく書かれているが、それも全部が実話というわけではなさそうである。

「新選組異聞 悲恋の明里」
島原の天神・明里は、山南敬助の飾らない人柄に惹かれる。
山南も明里を愛しく思うが、月給は書籍代に費やしてしまうので、身請けなどは到底できそうにない。
ふたりのために沖田総司が仲間たちから費用を集め、休息所を世話した。
その家で、夫婦のような暮らしが始まる。
しかし、隊の運営方針の衝突から山南は脱走事件を起こし、ふたりの愛も哀しい結末に終わる。

山南と明里を描いた作品は多く、本作もそのひとつ。
すべての作品の元ネタとなった子母澤寛の作品では『新選組始末記』『新選組遺聞』『新選組物語』と執筆年代が下るほど、潤色の度合いが大きくなる。
最初の『始末記』は、明里の存在にはまったく触れていない。
出窓格子越しの涙の別れは、『遺聞』以降に描かれるようになる。そのため、この逸話を創作とみなす説がある。

「新選組異聞 沖田総司の恋」
町医者の娘お圭は、ある日偶然に斬り合いの現場を目撃、鮮やかに敵を退けた沖田総司に心を奪われる。
その日から用もないのに壬生へ出かけ、寺の境内で子供たちと遊ぶ沖田の様子を窺ったりした。
そんな時、沖田が彼女の父を訪れて診察を受け、労咳と宣告された。お圭は、無我夢中で思いを打ち明ける。
沖田もまた、彼女の気持ちを嬉しく思うが、妻帯は決して許されない身だった。

井上源三郎の沖田に向けるまなざしの温かさが、お圭との会話によく表れている。
晩年のお圭の思い出語りの様子も、微笑ましい。
ふたりの関係は純愛のまま終わり、本書の中では唯一性描写がない作品となっている。

徳間文庫(1995)より、文庫オリジナル作品として出版された。

江戸妖女伝
(徳間文庫)




短編小説の関連記事

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

Trackback

トラックバックURL:https://bookrest.blog.fc2.com/tb.php/87-3b8a8f48


back to TOP